
フランス・パリ、また日本を拠点に創作を行い、国際的に活動を展開する舞踏カンパニー、山海塾が、2023年に初演した『TOTEM 真空と高み』を東京、滋賀で再演する。画家の中西夏之(1935~2016)の作品に想を得た舞台美術が美しい本作は、昨年3月に他界した天児牛大が手がけた最後の作品にして、彼らの最新作だ。
1975年に天児が創設した山海塾は、1980年の初の世界ツアーののち、パリ市立劇場を創作の拠点として数々の作品を発表、日本人の身体から生まれたBUTOHをもって世界の観客を魅了してきた。ヨーロッパをはじめ、北米、中南米、アジア、オセアニアなど、世界49カ国のべ700都市以上でワールドツアーを実施し、『遥か彼方からの―ひびき』は、2002年、イギリスで最も権威ある舞台芸術賞、ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作ダンス作品賞を日本のカンパニーとして初めて受賞して話題をふりまいた。天児率いる白塗りの男性舞踏手たちが紡ぎ出すのは、たとえば悠久の時の中でたゆたう生命の一瞬の煌めき、無限に広がる宇宙のざわめきのような、時間も空間も超越した世界。隅々にまで行きわたる天児の美意識と、それを体現すべく鍛錬を重ねてきた舞踏手たちの身体は、途轍もない説得力にあふれ、山海塾でしか味わうことのできない、稀有な体験をもたらしてくれる。

©︎Sankai Juku

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『TOTEM 真空と高み』で目を引くのは、中西夏之による美術。中西は、2008年、天児がフランスのリヨン歌劇場にてペーター・エトヴェシュ作曲のオペラ『レディ・サラシナ』の演出を手がけた際に実現したその美術は、「いずれ山海塾の作品にも」という約束が交わされていたという。舞台中央に配されたその塔は、不思議な光を反射し、ずっと昔からそこにあったように堂々とそびえ立つ。やがて舞踏手たちの魂と、静かに、また激しく響き合い、否応なく私たちの想像力を刺激する。数年前より病を患い創作に力を注いできた天児だが、最後の作品となった本作に漲る生命力、その力強さが際立つ。
来年には本作でのアメリカツアーも予定されているという。天児の身体表現、その思いを共有してきた蝉丸をはじめとする舞踏手たちは、すでに新たな一歩を踏み出した。山海塾が辿ってきた道と未来、さまざまに思いを巡らせ、その偉業を噛み締める公演となるだろう。
<公演情報>
山海塾『TOTEM 真空と高み』
演出・振付・デザイン:天児牛大
美術:中西夏之 「カルテット―着陸と着水Ⅹ」より
音楽:加古隆、吉川洋一郎
舞踏手:蟬丸、竹内晶、市原昭仁、松岡大、石井則仁、岩本大紀、髙瀨誠、伊藤壮太郎
【東京公演】
2025年10月9日(木) ~10月13日(月・祝)
会場:世田谷パブリックシアター
*10月10日(金) 終演後、ポストパフォーマンストークあり。
【滋賀公演】
2025年11月1日(土)
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
チケット情報(滋賀公演):
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2507445(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2507445&afid=P66)
公式サイト:
https://www.sankaijuku.com