監督・キャストも自身のルーツを投影。家族の歴史を辿る『旅の終わりのたからもの』に込められた魂の記録
(C)2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

ちぐはぐな父娘の旅を描く異色のロードムービー『旅の終わりのたからもの』が、2026年1月16日(金)より公開される。本作の舞台は、民主化が実現し、その一歩を踏み出したばかりの1991年のポーランド。

この地域では争いが繰り返され、無数の名もなき人々が翻弄されたが、本作でも主人公の家族の激動の歴史が描かれる。監督やスタッフ、キャストも自身のルーツを物語に重ね合わせながら、制作を進めたようだ。



第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ作品、トライベッカ映画祭2024インターナショナル・ナラティブ・コンペティション作品として選出されている本作。ニューヨーク生まれのルーシーは、ホロコーストを生き抜き約50年ぶりに帰郷する父エデクと、家族の記憶を辿る旅へ出る。家族の歴史を辿ろうと躍起になる娘と、娘が綿密に練った計画をぶち壊していく奔放な父。噛み合わないふたりが、ポーランド南部にあったアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で壮絶な過去に触れ、葛藤や痛みを抱えながらも、旅路の中で見つけた“たからもの”とは?



本作の原作『Too Many Men』を書いた作家リリー・ブレットは、ホロコースト生存者の両親のもと、南ドイツのフェルダフィングDPキャンプで生まれた。そこは、アウシュヴィッツ=ビルケナウやダッハウの死の収容所から米軍によって避難させられたポーランドやハンガリーのユダヤ人たちが集められた場所で、彼女の両親が再会を果たした場所でもある。こうした家族の記憶と、父とともにポーランドを巡った旅を重ね合わせることで、過去と現在が響き合い、悲劇とユーモアが交錯する物語が生まれた。



監督を務めたユリア・フォン・ハインツは、母がホロコースト生存者の娘で、父はドイツ在住のユダヤ人。13歳で父を亡くした彼女は、16歳の誕生日に母から贈られた小説『Too Many Men』に深く心を揺さぶられたという。ほろ苦い物語でありながら、正反対の父と娘の“愛の物語”に焦点を当てたその内容に彼女が知りたかった歴史と痛みを見出し、映画化を決意させた。



主演を務めるキャストもまた、この物語とつながりのあるルーツを持つ。

主人公ルーシーを演じるレナ・ダナムはユダヤ系として育ち、「この役は私のアイデンティティと深くつながっていた。参加できたこと自体が“贈り物”のようだった」とコメント。父・エデク役のスティーヴン・フライもユダヤ系の祖先を持ち、親族がアウシュヴィッツへ送られた過去を抱えている。自身のルーツを巡る旅を経験したこともあるフライは、「魅了されました。非常に感動的で心に響くものでしたし、私自身のつながりも感じました」と打ち明けている。監督・原作者・キャストの個人的な記憶とアイデンティティが作品の核となり、彼らだからこそ生み出せた物語なのだ。



今日12月18日は、移動を強いられた人々の権利と尊厳を守るという主旨で国連が定めた「国際移民デー(国際移住者デー)」。本作が描くアイデンティティを巡る旅は、まさに今、この日に考えるべきテーマを投げかけている。



<作品情報>
『旅の終わりのたからもの』



2026年1月16日(金)公開



公式サイト:
https://treasure-movie.jp/



(C)2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

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