阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』
左から)阿部顕嵐、山崎一 (撮影:興梠真帆)

2023年の舞台『我ら宇宙の塵』で第31回読売演劇大賞優秀作品賞、優秀演出家賞を受賞した小沢道成。俳優・劇作家・演出家とマルチな才能で注目される彼は、昨年ロンドンにてロンドン版『Our Cosmic Dust』を上演し、その後『我ら宇宙の塵』の国内4都市ツアーを成功させた。

躍進のままにこの4月、EPOCH MANの新作公演を発表する。舞台『The Closet Revue』で綴られるのは、コンプレックスを抱え、本当の自分をずっとクローゼットにしまい込んできた男が、虚飾のドレスを脱ぎ捨てて素顔をさらす物語だ。“閉塞感に満ちた現代を蹴り飛ばす魂のレビュー”と銘打った舞台、その伴走者として小沢が指名したのは阿部顕嵐&山崎一の新鮮過ぎる顔合わせ。活躍著しい若き精鋭と演劇舞台の支柱である達人、ふたりが語るクローゼットの中の世界とは!?



小沢道成の劇世界に惹かれて

――今回のEPOCH MAN新作公演について、小沢道成さんからのオファーの経緯、その時のお気持ちから教えていただけますか?



阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』

阿部 僕は以前、小沢さんに脚本を書いていただいた作品(東洋空想世界『blue egoist』、2024年上演)に出演したことがありまして、小沢さんは現場に何度も来て、観てくださいました。その後に、「EPOCH MANの次回の公演にぜひ出てほしい」と声をかけてくださったんです。生意気ながらその公演の脚本をすごく素敵だな!と感じていたので、EPOCH MANは全部が小沢さんの世界観で、小沢さんの世界に染まれる!とワクワクしたんです。それで、ぜひやらせていただきたいと答えました。



山崎 僕は、これの前の舞台『我ら宇宙の塵』に同じ事務所の池谷のぶえさんが出ていて、EPOCH MANの舞台のことはいろいろと聞いていました。オファーをいただいてからいろいろな資料を見せてもらいまして、とにかく彼の美的センスはすごく素敵だなと感じてね。『我ら宇宙の塵』も素晴らしかったし。僕は体も動かないし、どこまで出来るかわからないけれど、せっかく声をかけてくれたのだからやってみます、ってことです(笑)。



――おふたりが心惹かれた小沢さんの劇空間の印象を、ぜひ詳しく教えてください。



阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』

山崎 表面的ではない、深みがあるな、と思ったんですよね。

追求の仕方がすぐここで止まらずに、もっともっと深く、遠くへ……と。その感覚が面白いし、作家としての可能性を感じましたね。



阿部 僕は『我ら宇宙の塵』を観させてもらった時に、すごく言葉を大切にしていらして、考えさせられる言葉が多いなと素直に思ったんですね。今稽古に入って、一さんがおっしゃったように表面的ではやれない、何層もの気持ちの積み重ねがないと簡単には表現できないなと。そこがやっていて楽しいし、難しくて、自分にどこまでできるのかなって日々思いながら取り組んでいます。



自由とアイデンティティの物語

――新作『The Closet Revue』は、「コンプレックスを生きる力に、悲痛な過去を歓喜のショーに塗り替える自由とアイデンティティの物語」と紹介されていますが、どんな世界が立ちあがろうとしているのでしょうか。



山崎 僕にとってはゲイ役自体が初めてで。さらに、華やかな衣裳を身にまとってステージに立つ役でもあるので、どう役作りをしていこうか……と思うところがいっぱいありました。でも台本を読んでいくと胸にグッとくるセリフが何ヶ所か出て来て、ああ、こういうところを大切に作っていけたらいいなと今、思っています。何と言いますか……言葉の使い方が難しいんですよ。



阿部 最初に、LGBTQ+(性的指向や性自認など、性の多様な人々を表す総称のひとつ)に関する講習を受けましたよね。



山崎 そう、僕なんて世代的にも知らないことが多いので、言葉の使い方に気をつけないといけないなと。でも読めば読むほど、今やるべき作品なんだろうなと思えて来ますね。



阿部 そうなんですよ。一番楽で簡単なのは黙ることじゃないですか。だけど、黙ることは見て見ぬふりになってしまうこともあるのかなと思うので。優しさを持って、いろんな方向に気を遣える人間でありたいなと、講習を聞いた時にも思いました。



山崎 その人に寄り添う心が大切だ、ということを教わったように思います。そしてそれは、この作品にも生きている気がするんですね。何とか自分の心の問題と擦り合わせて、それを膨らませて作っていくという過程を今、やっている感じですね。



阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』

――あらためてそれぞれの役柄について、どんな人物なのでしょうか。



山崎 僕はゲイで、ある店のオーナーで、化粧をして着飾ることで自分を武装して自己を確立してきた人。僕は“そういう時代”を生きてきたからこそ、今の時代とのギャップもある。「なぜ着飾るのか、なぜ素のままでいられないのか」といった葛藤の会話が繰り広げられるところが魅力のひとつじゃないかなと。



阿部 僕の役もゲイですがそれを隠していて、なかなか打ち明けることが出来ない青年ですね。

普段は会社員として働いていて、そのコンプレックスを抱えたままにその店を訪れて、一さんが演じる役とぶつかっていくんです。



――その店とは……?



山崎 自分の本音というか、ありのままをしゃべれる場所ということらしいんですよ。誰でも来て、誰でもしゃべれる。今まで言えなかったことをさらけ出していい場所。その登壇者の抱えた過去や出来事を、明るく華やかに仲間たちが彩ってくれるんです。



――公式サイトや宣伝チラシに「ご来店にあたってのお願い」といった注意事項があって、身分証を提示しなければいけないなど、これは劇中のお店の話かと思っていましたが、劇場へいらっしゃるお客様へのお願いなのでしょうか?



山崎 どうやらそうなんですよ。僕のお客さんからも問い合わせがありました。どうして身分証明書を見せなければいけないのか、「危ないお芝居なんですか?」って(笑)。



阿部 危ないお芝居(笑)。物語の設定でもあるけれど、小沢さんは「イマーシブシアターみたいな感覚でも楽しんでもらいたい」とおっしゃっていましたね。



阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』

スズナリが物語の“店”に
観客も巻き込む舞台

――稽古の感触はいかがですか?



山崎 最初、華やかな衣裳をまとってステージに立つ役ということで少し派手なイメージでやっていくのがいいのかなと思っていたんだけど、小沢さんに「そんなふうに作らなくてもいいです」と言われました。昨今の翻訳劇などを見ても、LGBTQ+の登場人物が出てくることが本当に多いんですよ。今回、僕自身に演じる機会を与えてもらえたので、自分なりにいろいろと考えてトライしていけたらと思っています。



阿部 僕もこの役をどう表現していくのかという難しさは感じますし、つねに不安と戦っていますけど、皆で作り上げる舞台だからこそ、そんなことは言っていられないので。もう毎日、一生懸命にやるだけです。



――共演者である俳優、小沢道成さんの印象は?



山崎 素晴らしいよね。感情の作り方とか、役者としてもやっぱりすごくいいものを持っている。感性が鋭いんでしょうね。



阿部 そうですね。一さんもそうですけど、小沢さんも、その場の空気を操れる方だと思っていて。僕はもう、頭で考えずにただ反応するだけですね。



山崎 いやいや、そんなことないですよ。



阿部 いや、考えてはいますけど(笑)。ちゃんと皆さんの目を見ながら、反応できるように頑張っています。



山崎 その反応がすごく柔軟だと思いますよ。



――演劇の聖地と呼ばれる小劇場ザ・スズナリで、一ヶ月ものロングラン上演を行うことも話題ですね。



阿部顕嵐×山崎一インタビュー 閉じ込めた本音を解き放つ舞台『The Closet Revue』

山崎 ねえ! スズナリでひと月なんて、やったことない。本多劇場ならありますけど。



阿部 ホントですか!? 僕はスズナリは公演を観に行ったことしかないです。だから舞台に立った感じがまったくわからなくて、ちょっと不安なところがありますね。



山崎 お客さんが近いよ~、本当にすぐそこにいるからね。すごく小さい声でも伝わっちゃうし、ちょっとした表情が全部伝わるからね。



阿部 そうなんだ……。当たり前だけど気が抜けないですね。



山崎 今まで見たことのないような劇場の使い方をするみたい。スズナリの外観から変えようとしているらしいです。ちゃんとオーナーさんにOKをもらっているって(笑)。



阿部 すごい! この物語のお店になるんですね。



山崎 ロビーからもうすべてが劇の世界ですよ。



――そんなことを聞いたらもう、観に行かないわけにはいきませんね!



阿部 ドキドキしますよね。始まり方もちょっと異質ですもんね。



山崎 そうね。



阿部 始まったと思ったら急にガラッと雰囲気が変わったり、それが何回もサプライズ的にあってエンタメとしても面白いんじゃないかなと思います。物語とエンタメのバランスみたいなところを、たぶん小沢さんは狙っているのではないかなと。観に来てくださったお客さんにとって少しでも考えるきっかけになったら……と思いますけど、そこは自由なので、楽しく観ていただくのが何よりも嬉しいです。



山崎 僕もまったく同じです。LGBTQ+の方たちについても考えるきっかけになってもらえたら嬉しいのと、あとは劇空間を存分に楽しんでもらいたい。こういう芝居もあるんだなと、楽しく体験していってもらいたいですね。



取材・文:上野紀子 撮影:興梠真帆




<公演情報>
EPOCH MAN『The Closet Revue』



脚本・演出・美術:小沢道成

出演:
阿部顕嵐 小沢道成 山崎一
BOW 花島令 リンノスケ 神野幹暁

2026年4月4日(土)~5月4日(月・祝)
会場:東京・下北沢 ザ・スズナリ

■鑑賞サポート付公演
2026年4月11日(土) 14:00公演
2026年4月18日(土) 14:00公演
2026年5月2日(土) 14:00公演
内容:バリアフリー字幕タブレット貸し出し



関連リンク

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/epochman/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665279&afid=P66)



公式サイト:
https://epochman.com/tcr



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