182cmの長身と、精悍な顔立ち。『PJ ~航空救難団~』の硬派な救難員候補生、『D&D ~医者と刑事の捜査線~』の昭和の刑事に憧れる若手刑事など、ひたむきで熱のある役どころを得意とする一方、素顔の前田拳太郎は“ぽわぽわ”という擬音がよく似合う温厚で柔和な26歳。
映画『栄光のバックホーム』で演じたのは、実在の野球選手・北條史也。21歳で脳腫瘍を発症して引退を余儀なくされた元阪神タイガース・横田慎太郎選手の軌跡を描いた感動作でも、前田のフルスイングの芝居が光っている。
だが、前田自身は「根本はすごいネガティブ」と恥ずかしそうに明かす。自分に自信なんてない。半生を懸けて打ち込んだ空手では「“負け癖”がついていた」と振り返る。それでも今、役者という果てない道を一心に歩み続けているのはなぜか。
あきらめがちな前田拳太郎が、あきらめの悪い男になれたのは、10代の頃に味わった苦い挫折があった。
友達の力を借りて習得したバッティングフォームと大阪弁
前田拳太郎は、今作で二つの挑戦に臨んだ。それが、野球選手のフォームと大阪弁の習得だ。演じたのは、現在は社会人野球で活躍する元阪神タイガースの北條史也選手。いかに嘘なく野球選手としてカメラの前に立てるか。野球未経験の前田にとっては大きな難題だった。
「まずはバットの握り方からのスタートでした。どこを持っていいのかわからないというところから始まって、基本の基本から教えてもらって。家でもひたすら素振りの練習。大学まで野球をやっていた友達がいるので、その子に素振りの見本の動画を送ってもらったり。自分の素振りの動画を送って、どこを直したらいいかチェックしてもらったり。あとは、北條選手が実際に試合をしているときの動画を見たりしながら、とにかく必死に練習の毎日でした」
北條選手は大阪生まれ。所属球団も阪神タイガースと、まさに生粋の大阪人だ。埼玉県出身の前田にとっては、イントネーションも流れるDNAもまるで異なる。
「アクセントもそうなんですけど、それ以上に難しかったのは、大阪の方ならではの独特の気質。やっぱりノリが僕たちとは違うんです。言葉だけじゃなく、そうした気質の部分を自分のものにするのに苦労しました」
ちなみに、ここでも手を貸してくれたのは友人たち。持つべきものは友の精神で、難局を乗り切った。
「関西人の友達に自分の台詞を言ってもらって、そのボイスメモを何度も何度も聞きながら、大阪の言葉を自分の中に染み込ませていきました。周りの仲間に支えられたという意味では、横田選手と同じ。いい作品にしたいなという思いを胸に、いろんな人たちの助けを借りながら臨みました」
空手をやっている頃の自分は“負け癖”がついていた
横田選手の1歳年上の先輩であり、教育係として入団間もない頃から横田選手を支え続けた北條選手。だが、北條選手の選手生活もまた苦難の連続だった。念願の一軍入りを果たしたものの、試合中のアクシデントにより肩を脱臼。以降、成績は低迷し、光の見えない時期を過ごした。行き場のない焦燥と弱音を、病床の横田のそばで吐露するシーンが、前田にとって本作のハイライトだ。
「あそこで弱い北條を際立たせるためにも、大事にしたかったのはそれまでのシーンです。そこまでずっと横田さんといる前では笑顔で明るく、弱い部分を見せないカッコいい先輩としていることで、抑えきれない弱音を吐くシーンがより強く印象づけられたらいいな、と。前半と後半の差を見せることを意識しながら、演技全体の流れをつくっていきました」
何かに一生懸命になったことがある人なら、挫折は避けて通れない。幼稚園の頃から約15年続けた空手で、前田拳太郎も何度も苦しい思いを味わってきた。
「小学1年生のとき、仲の良い友達を『一緒に道場に通おう』って誘ったんです。そしたら、その子が次の年にはもう日本一になっちゃって。
努力だけでは覆せない実力差。いつしか空手少年だった前田拳太郎は負けることに慣れはじめていた。
「今思えば“負け癖”がついていたなって。今もう一度あの頃に戻れるなら、もうちょっと頑張れるんじゃないかなって気がします」
昔よりあきらめが悪くなりました
10代の頃に味わったほろ苦い後悔。だからこそ、新たに見つけた俳優という場所では、今度こそあきらめないと誓った。
「昔よりあきらめが悪くなりました。それこそこの仕事を始めたての頃は同世代の俳優たちには負けたくないなってギラギラしている自分がいて。でも、続けていくうちにわかるんです、結局お芝居に勝ち負けなんてないよなって。だから今あきらめたくないのは、人の心に届くお芝居ができるようになること。作品の持っているメッセージを、ちゃんと自分の声と体を通して伝えられる俳優になりたいです」
そのためには、時に自分の気持ちを押し通すこともある。
「現場で自分のお芝居に納得がいかなかったとき、もう1回チャレンジさせてくださいとお願いすることもあります。もちろん監督がオッケーを出したらオッケーなんだということもわかります。だから、これは自分のエゴでしかないんですけど、でも後悔はしたくないから。そのときの状況を見ながら相談させてもらって。少しでも悔いがないお芝居を残していけたら」
引退後、脳腫瘍が再発した横田は、一度は病と闘う気持ちを折られながらも、「自分を信じて、自分に勝つ」という強い信念で自らを奮い立たせた。
自分を信じる――言葉にするのは簡単だけど、どれだけ本気でそう思えている人がいるだろうか。「自分を信じています」と言い切る前田に「自分の何を信じているのか」と尋ね直すと、慎重に言葉を選ぶように偽りのない自分を見せてくれた。
「根本はすごいネガティブなんです。だから落ち込むことはいっぱいあるし、気持ちの浮き沈みもあるほうだと思うんですけど、でもどこかで最終的にはいい役者になれているはずだって信じている。自分の未来を信じています」
病に倒れながらも、決してあきらめることのなかった横田慎太郎。前田拳太郎も、あきらめない。人の心に届く芝居を目指して、まるで千本ノックのように現場に立ち続ける。
この人たちがいれば、どんなに辛いことも乗り越えられる
――では、ここからは作品にちなんで前田さんの素顔を深掘りさせてください。横田さんには支えてくれる仲間がたくさんいましたが、前田さんの仲間といえば?
家族は、いつも絶対的な味方でいてくれる心強い仲間ですね。あとは、同世代の役者仲間。綱啓永と樋口幸平と日向亘は何か相談事をしたら真剣に答えてくれる大事な仲間です。昨日も啓永は来られなくて、幸平と日向の3人でサウナに行ってたんですけど。
――本当によくいつも一緒にいますね。
そうですね(照)。昨日はちょっと僕がネガティブ入っちゃって、仕事の悩みを話したら、それもすごく真剣に聞いてくれて。この人たちがいれば、どんなに辛いことがあっても乗り越えられるなって思いました。
――4人でいるときは、前田さんはどのポジションですか。
よく喋る3人なんで、僕はとりあえず彼らのボケをツッコむ係です。常に「俺が」「俺が」って感じでボケてくるんで、それを全部拾ってあげないといけない。というか、頑張って拾っているんですけど、3人のボケのほうが多すぎて手に負えないことのほうが多いです(笑)。
僕のテーマソングは『北斗の拳』です
――空手をやってるときは、いつも自分よりうまい人が身近にいたとお話しになっていました。ということは漫画を読んでいても、主人公より脇役に共感するタイプ?
完全にそうですね。主人公よりも、なんならヴィラン側が好きです。『僕のヒーローアカデミア』だったら爆豪(勝己)に(死柄)木弔、荼毘に気持ちが入っちゃいますね。スポットライトが当たるのはヒーロー側だけど、ヴィランにもヴィランの正義がある。日は当たらないけど、それぞれの思いを持って戦う姿に惹かれます。
――横田選手は引退試合で奇跡を起こします。前田さんが体験したプチ奇跡は?
もともとくじ運とかめっちゃ悪かったんですよ。でもこの仕事を始めてから、めっちゃ運が良くて。コンビニのくじも今日は当たるなと思ったら本当に当たるし、結婚式のビンゴゲームでもいちばんいい景品が当たって。奇跡だ~と思うんですけど、こんなところで運を使っちゃうのももったいないなと思って、最近くじは引かないようにしています(笑)。
――横田選手の登場曲は『栄光の架橋』です。前田さんが自分のテーマソングを選ぶとしたら?
『北斗の拳』です。拳つながりで(笑)。
<作品情報>
幻冬舎フィルム 第一回作品
『栄光のバックホーム』
11月28日(金)より、TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー
製作総指揮:見城 徹 依田 巽
原作:「奇跡のバックホーム」横田慎太郎(幻冬者文庫)
「栄光のバックホーム」中井由梨子(幻冬舎文庫)
脚本:中井由梨子
企画・監督・プロデュース:秋山 純
出演:松谷鷹也 鈴木京香
高橋克典 前田拳太郎 伊原六花・山崎紘菜 草川拓弥
主題歌:「栄光の架橋」ゆず(SENHA)
配給:ギャガ
制作:ジュン・秋山クリエイティブ
©2025「栄光のバックホーム」製作委員会
撮影/米玉利朋子、取材・文/横川良明

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