
第47回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)のメインイベントで、新人監督の登竜門として名高い自主映画のコンペティション「PFFアワード2025」表彰式が9月19日(金)、都内で行われ、中里ふく監督の『空回りする直美』がグランプリを受賞。同作はエンタテインメント賞(ホリプロ賞)との2冠を達成した。

グランプリ受賞の中里ふく監督(右)と審査員の山内マリコ
今年の応募本数は、史上2番目となる795作品。中学生、高校生らまだ見ぬ若い才能に出会うべく、昨年から実施している10代の出品料無料化の効果もあり、10代の応募作品が前年比約1.5倍に増加した。
17名のセレクションメンバーによる、約4カ月間の審査を経て、入選作品22本が決定。平均年齢は23.8歳、高校生監督による作品も3本入選するなど、昨年に続き、若年層の躍進が目立つ結果となった。最終審査員として、門脇麦(俳優)、関友彦(プロデューサー)、福永壮志(映画監督)、山内マリコ(作家)、山中瑶子(映画監督)が審査にあたった。

審査員特別賞受賞の井上優衣監督(右)と審査員の門脇麦
グランプリを受賞した『空回りする直美』は、困難を抱えながらも、豊か過ぎる個性をたたえる兄妹の姿をユーモラスに描く。直美は、発達障害とチック症を抱える兄・慎吾と父親との3人暮らし。兄と父親は衝突が絶えず、自身もバイト先で失敗ばかりだが、持ち前の明るさで兄を見守る日々を楽しく生きている。しかしある日、公園での言動が意図せず慎吾を傷つけてしまう。
グランプリを受賞した中里監督は、「信じられない。動悸が止まらない」と喜びとともに驚きの表情。

グランプリ受賞の中里ふく監督
プレゼンターを務めた山内は「すごくすごく力がある、2025年最前線の作品。審査員の皆さんも高く評価されていましたし、グランプリにふさわしい」と激賞。主人公の直美については、「パンチがあって、面白くて、タフでエネルギーに溢れていて少し粗暴。こんな女性キャラクターが、映画で描かれたのを私は見たことがない」と瞳を輝かせた。
授賞式を終えて、山内は「たくさんの勇気を出して、映画を作り、観せてくださったことに感謝したいです」と入選監督たちに思いを伝え、「どの作品も、その監督がもつ映画言語のようなものが、こちらに響いて、共鳴して、次の監督作品も観てみたいと思うものばかりだった」と講評した。

観客賞受賞の野村一瑛監督(右)
また、門脇は「映画作りに関わっているひとりの人間として、皆さんの作品を観た時間が、幸福過ぎて、すごく幸せでした。これからも映画作りを一緒にしていきましょう」とエールを送っていた。
なお、グランプリを受賞した『空回りする直美』は、10月27日(月)から開催される「第38回東京国際映画祭」にて特別上映される。
「PFFアワード」は、1977年にスタートした、映画監督を目指す若者たちの自主映画コンペティション。公開中の『国宝』の李相日監督、今年の大島渚賞を受賞した『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督、5月のカンヌ映画祭を沸かせた『ルノワール』の早川千絵監督など、これまでに190名を超えるプロの映画監督を輩出してきた。
一般財団法人PFF理事長を務める矢内廣は、現在、興行収入が142.7億円、観客動員数1000万人を突破した『国宝』の記録的大ヒットについて「嬉しいとともに、誇らしい」とコメント。李監督は、第22回PFFアワード(2000年)で『青~chong~』が、グランプリをはじめとした4冠を獲得し、第12回PFFスカラシップ作品『BORDER LINE』で商業映画デビューを飾っている。
取材・文:内田涼
【「PFFアワード2025」結果】
■グランプリ
『空回りする直美』監督:中里ふく
■準グランプリ
『BRAND NEW LOVE』監督:岩倉龍一
■審査員特別賞
『アンダー・マイ・スキン』監督:細川巧晴
『紅の空』監督:瀨川 翔
『ロ-16 号棟』監督:井上優衣
■エンタテインメント賞(ホリプロ賞)
『空回りする直美』監督:中里ふく
■映画ファン賞(ぴあニスト賞)
『惑星イノウエ』監督:鈴木大智
■観客賞
『黄色いシミ』監督:野村一瑛
■入選作22作品 ※作品名50音順。敬称略。年齢、職業・学校名は応募時のもの。
『あの頃』(11分)監督:戸田遥太(18歳/埼玉県出身/埼玉県立松山高等学校 映像制作部)
『アンダー・マイ・スキン』(20分)監督:細川巧晴(21歳/富山県出身/京都芸術大学 芸術学部 映画学科)
『カクレミノ』(35分)監督:澤田晴(22歳/福井県出身/長岡造形大学 視覚デザイン学科)
『空回りする直美』(44分)監督:中里ふく(20歳/東京都出身/東放学園映画専門学校 映画制作科)
『黄色いシミ』(32分)監督:野村一瑛(29歳/東京都出身/フリーター)
『傷ついた天使』(96分)監督:田辺洸成(21歳/福岡県出身/青山学院大学 総合文化政策学部)
『Caravan』(59分)監督:庄司皓(23歳/宮城県出身/同志社大学)
『屈折の行方』(66分)監督:鴨林諄宜(25歳/大阪府出身/フリーター)
『紅の空』(26分)監督:瀨川翔(17歳/東京都出身/三田国際科学学園高校)
『CROSS-TALK』(26分)監督:原田捷(24歳/神奈川県出身/会社員)
『郷』(93分)監督:伊地知拓郎(27歳/鹿児島県出身/映画監督)
『人生はいつだってHARDだ』(34分)監督:笠原崇志(30歳/宮城県出身/俳優)
『名前をつけるのは、これから』(39分)監督:直林水悕(29歳/福岡県出身/会社員)
『ノイズの住人』(48分)監督:アンドレス・マドルエニョ(30歳/メキシコ出身/武蔵野美術大学大学院 映像・写真コース)
『PEAK END』(120分)監督:シン・チェリン(26歳/韓国出身/京都芸術大学 芸術学部 映画学科)
『BRAND NEW LOVE』(84分)監督:岩倉龍一(22歳/神奈川県出身/東京造形大学 造形学部 映画・映像専攻)
『僕はガタロウ』(18分)監督:久保地穂乃(24歳/東京都出身/フリーター)
『マイ スモール ワールド』(11分)監督:丸岡優月(21歳/愛知県出身/名古屋学芸大学 映像メディア学科)
『宮沢さんは剥がさせないっ!』(12分)監督:金澤誠人(16歳/東京都出身/東京都立工芸高等学校 マシンクラフト科)
『ロ-16 号棟』(11分)監督:井上優衣(21歳/東京都出身/武蔵野美術大学 造形構想学部 映像学科)
『惑星イノウエ』(54分)監督:鈴木大智(22歳/東京都出身/東京造形大学 造形学部 映画・映像専攻)
『ワンダリング・メモリア』(18分)監督:金内健樹(35歳/東京都出身/フリーター)
【入選作品データ】
入選数:22本
年齢 平均:23.8歳/最年少:16歳/最年長:35歳
作品時間 平均:43.5分/最短:11分/最長:120分
【応募全体データ】
応募数:795本
年齢 平均:30.3歳/最年少:13歳/最年長:72歳
作品時間 平均:29.7分/最短:1分/最長:150分