キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】
キズ x DEZERT x ΛrlequiΩ SPECIAL 3MAN LIVE『VISUAL SCARLET』8月17日 東京・豊洲PIT Photo:小林弘輔

キズ、DEZERT、ΛrlequiΩ による3マンライブ『VISUAL SCARLET』が8月17日に東京・豊洲PITで開催された。公演フライヤーでは頭文字となる“V”と“S”が強調されるデザインとなっていて、本イベントが生易しい同窓会でないことは誰の目にも明らかだ。



この3バンドによる共演は、2019年8月にΛrlequiΩ主催で行われた『STAND ALONE COMPLEX』以来。そして、その翌年3月にも『DEZERT【This Is The “FACT” -ALL NIGHT METAL PARTY-】』として東京・Spotify O-EASTでの3マンが予定されていたが、結果として、世界的パンデミックの襲来と共に実現に至らなかった顛末があることは記憶に新しい。

その後、2021年『JACK IN THE BOX 2021』では「「殺意」 feat. 暁/来夢」という形でDEZERTのステージ上で3人のフロントマンは再会を果たし、翌年2022年には『V系って知ってる? powered by MAVERICK DC GROUP』にてそれぞれがバンドとして武道館の舞台で対峙することとなった。

キズ、DEZERT、ΛrlequiΩはそれぞれに不可侵の個性と姿勢を貫きながら、同時に新たな時代の旗手としての期待も背負ってきた3バンドだ。そんな彼らが今、再び交わる明確な理由は語られていない。彼らはライバルなのか? あるいは盟友なのか?

己の掲げる“VISUAL”の概念で激突した、待望の3マンの模様をお届けする。



ΛrlequiΩ

キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】

トップバッターはΛrlequiΩ。SEのデジタルビートが超満員の観衆のテンションをグッと高めると、暁の「いくぞ東京!全部頂戴!頭飛ばせ!」の号令で風速を上げていく「血ヲ通ワセロ、ソノ命全テニ。」からスタート。拡声器を手にした暁の扇動と赤黒い照明のなかに淡々と佇む楽器隊のコントラストがバンド像を浮き彫りにするが、ひとたびサビに達するとその流麗さで一気に一体感を生み出す様はまさにこれぞΛrlequiΩと思わせるものだ。



トレードマークとなっているステージ中央に配された演説台に登る暁の姿は独裁者の様相を呈する。「墓穴」で嘲るようにスリリングに加速すると、続けざまに「消えていくオレンジの空へ」を披露。



整然としながら感情が渦巻くメロウな1曲は、その内面を抉るように陰影を引き立てていく。それはこの会場に集結した誰もがΛrlequiΩの歩んできた道のりとバンドとしての覚悟を享受させられるような説得力を持つものだった。

精神的な葛藤や苦しみを吐露しながら自問自答を繰り返して道を拓こうとする、それがΛrlequiΩというバンドだ。ブラストするビートも抜けのよいサビも心地よいはずなのに、なぜだか胸が苦しく締め付けられる感覚に襲われる。生き様を投影する楽曲には棘にも似たリアリティが同居するのだ。



デジタルな要素と独白のようなポエトリーリーディングブロックも印象的な「バール」でまどろみを増すと、儚いバラードナンバー「白紙の手紙」に入る前に暁がマイクをとった。



「この3バンドで今日こうやってイベントをできるのは……すごく……すごく楽しみにしていて、でも、とてもそれじゃあ言葉になり切れないような気持ちがいっぱいあって……キズ、呼んでくれてありがとう。DEZERT、やろう! って言ってくれてありがとう」



キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】

素直な言葉には会場から温かい拍手が贈られた。豊洲PITは彼らにとって特別な場所である。新たなる決意を掲げて立ち上がった9周年ワンマンライブ、あれから時を経てバンドを取り巻く状況は変わったし、実際メンバーは4人になった。それでも歩みを止めることなく、音楽に向き合う生き方とその姿勢を彼らは着実に刻み続けた。だから今がある、そしてここにいる。



その結果、昨今のΛrlequiΩがハイブリッドなエッセンスを持つネクストフェーズに突入したことは明白だ。それは披露された彼らの最新曲「ARTIST」が携える刷新性と毒々しさが最も雄弁に語っていたのではないだろうか。



「お前らにかっこいいとこ見せたい! DEZERTにかっこいいとこ見せたい! キズにかっこいいとこ見せたい!」と吼えた終盤は、持てる力を振り絞るように「Eclipse」、「ダメ人間」とお馴染みのキラーチューンで大暴れ。バンドの根源たる衝動でもしっかりと会場を熱狂の渦で包み込んでみせた。



ラストは「世界の終わりと夜明け前」。もがきながらも逞しく手を伸ばす一曲は、リリースされた当時とニュアンスが変わるどころか一層エモーショナルになっているし、過去だけでなく未来をも包み込んだ。まさに好調なバンドの今を体現するステージ。思い入れのある地での演奏を終えた彼らの佇まいからは、新たな決意が溢れ出て見えた。



DEZERT

キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】

幕が開きメンバーが現れると静寂を切り裂くような歓声がこだました場内。その声を浴びながら最後に現れた千秋が右手を伸ばして一礼すると、Miyakoが不穏なアルペジオを奏でる。鬱屈とした「「擬死」」は這いずるように暗闇に突き落とす。



重なりあうサウンドが暴力的に変遷していくと、会場中からヘッドバンギングが巻き起こった。そしてアウトロで千秋がギターを肩にかけると、一転して優しげな音色が光を照らす。バンドの呼吸を束ねるように音を重ねあわせる「真宵のメロディー」は現在進行中の彼らにとって初となる全国47都道府県ツアーでも1曲目に演奏され続けているナンバーだ。そのドライな声質がセンチメンタルなメロディに溶けていくのは千秋の真骨頂といえる。

さらに続いたのは同じく『yourself ATTITUDE』収録の「「変身」」。



目まぐるしく展開していきながら、ファストに攻撃性を増していく様は往年のDEZERTらしいどこか懐かしさも感じさせる楽曲だが、それだけでないキャリアに裏打ちされたスケール感は正直目を見張るものがある。「世界は偽物ばかりだぜ」と歌い切り捨てると、ここから間髪おかずに破壊力抜群の「「殺意」」を叩きつけたが、各曲が生まれた時期は違えど、ひとつの生き物のように成立していくセットリストがバンドの懐の深さを感じさせる。



曲間でも張りつめた糸のように深淵なムードを醸し出す彼ららしく、緊張感を高めると再び気怠く退廃的な「みぎて」へ。緑がかった飾り気のない照明がゆっくり回り、そのなかに映ろうバンドのシルエットはくっきりとしていて、華美でないからこそ醸し出される重厚な空気はむしろ視覚的でもある。明瞭な視界でないからこそ、一音一音の持つ意味合いが濃く潜っていき、DEZERTのミュージシャンシップの高さを伺わせた。



キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】

だが、この3マンでこのまま大人しいDEZERTなはずもなく、明滅するストロボとそのイントロに歓声が上がった「「秘密」」では「弾けろ東京!」と一気にまくしたてる。この夜にお誂え向きなハードナンバーを披露するも、まだまだヌルいとばかりに千秋がついに客席に突入。しまいにはフロア後方まで徘徊し、一人ひとりと対峙しながら煽り倒した。



3,000キャパを超える国内屈指のライヴハウスでもところかまわず好き放題やってのけるところも実に憎らしいが「ごめんね! 今日ほとんど俺見えなくて」と気遣う姿勢も忘れない。続いた「再教育」まで持ち時間40分のうち10分近くをフロアで過ごした千秋がようやくステージに帰還すると攻撃的な「「君の子宮を触る」」、そして「250%でいきます!400%で返してください!」と告げたストレートなロックチューン「僕等の夜について」で会場を沸き上がらせ締めくくった。



ここでいう“僕等”が本来の歌詞の世界を離れた質感に聴こえたのは気のせいだったろうか。

かつて中止にはなったものの、自らの主催イベントで3マンに招いたキズ、ΛrlequiΩとの邂逅を人一倍喜んでいたのはDEZERTの4人だったのかもしれない。最後に「ΛrlequiΩとDEZERTで繋ぎました! あとはキズ、よろしくね?」と千秋が穏やかに告げると充実した様子でステージをあとにした。



キズ

キズ×DEZERT×ΛrlequiΩ、5年越しの3マンが実現!互いの信じたVisual Rockを証明した夜【オフィシャルレポート】

3マンを締めくくるのはキズ。転換中に敬愛するhideの楽曲をセレクトしていたこと、この夜の主題に“VISUAL”と冠したことの双方からも並々ならぬ覚悟を感じる。



序曲のイントロと鍵盤がミックスアレンジされたSEと交差するように始まったのは「リトルガールは病んでいる。」だ。同世代の3バンドが集結したイベントであることなど構わず己の主張を提示するあたりが実にキズらしい。ステージに歌詞を映写するレーザーの演出も効果的だ。



続いた「傷痕」では一気に会場の熱量をピークに引き上げる。キズは各パートが分離しながら形成する独特のグルーヴも特徴的だが、その中心に据わる来夢の歌唱は絶品で、激しくアグレッシブな楽曲においても迫りくる立体感を強調していく。かと思えば、十分に間をおいて空気を充満させてから披露した「鬼」では一気に荘厳さとダイナミズムが共生する。



「これが今を生きるVisual Rockだ!」と来夢が叫んだ通り、キズの音楽は相反する要素を同時に成立させることで、矛盾にも思えるファクターをひとつの作品に落とし込み無二の芸術として昇華されるのだ。それも「鬼」におけるユエのロングスラップしかり、各メンバーが個性を強調しながら。テンプレート化された大量生産無味無臭なものは彼らの音楽には存在しない。

歴史に敬意はあれど、模倣することはない。いや、敬意があるからこそ模倣などあり得ないのだ。



その象徴としては、1月の日本武道館ワンマンで初披露された「R/E/D/」はキズの特異性を具現化した一曲といえる。HIP HOP色を濃くしたドープな世界観にキズの個性のひとつでもあるシンフォニックさを掛け合わせ、ゆったりとしたメロディにも関わらず爆走する。そんな斬新さはまさに最新形。



最新形と言えば観客がタオルを振り回して応えた「JP:PARASITE」も印象的だった。7月の大阪城野音ワンマンで会場限定販売された新曲は、どこかノスタルジックなメロディと複雑なリズムの抑揚で侵食しながら、来夢のかき鳴らすアコースティックギターとreikiの感情過多なギターソロがカオティックに絡みついていく。ショートムービーを観終わったかのような情報量のこの曲、正直なところ一聴した程度で噛み砕けるものではなかったが、ほかの何にも類似しない手触りに圧倒される。



新たなアレンジが加わり終戦記念日にMVが公開された「銃声」では来夢の「歌え! もっと! もっとだよ!」と求める声に共鳴するようにシンガロングも巻き起こった。「銃声」の演奏前に導入となった雨音のSEも今にして思えば彼らの代表曲「黒い雨」の詩世界を想起させるようにも思えるし、MVの中に登場するドロップ缶も示唆的である。受け取る側の内面を抉るように問いかけてくるのがキズの音楽だ。



そんなメッセージ性を持ったメニューのラストは「平成」。

最後はこの3マンに相応しいダメ押しするような熱狂を生み出してスパーク。オーディエンスも名残惜しさを感じさせながらも、振り絞るようにアツく応えてみせた。去り際、この日のタイトルにもある“SCARET”に合わせるように髪をオレンジに染め上げたきょうのすけが大観衆の声を全身に浴びて満足げにステージをあとにすると鳴りやまない拍手が巻き起こった。



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その後、随分長い間続いたアンコールの声は“もの足りない”ではなく、“また観たい”といった意思表示だっただろう。それはバックステージの彼らにもきっと届いているはずだ。どのバンドも多くを語ることはしなかった。それは言わなくてもわかるよな? といった信頼にも思えたと同時に、来夢が何気なく発した「今日はかっこいいバンドしか出てねえぞ」という言葉に集約されていたのではないだろうか。



新しい世代の“VISUAL”を背負うキズ、DEZERT、ΛrlequiΩ。彼らが盟友なのかライバルなのかは計りかねるところだが、同じ時代に生まれた同志であることは間違いない。これからの道のりとともに、彼らが紡いだこの夜もきっと長く語り継がれていくのだろう。



Photo:小林弘輔 Text:山内秀一

<公演概要>
キズ x DEZERT x ΛrlequiΩ SPECIAL 3MAN LIVE『VISUAL SCARLET』
2025年8月17日 東京・豊洲PIT

【Set List】

ΛrlequiΩ
1. 血ヲ通ワセロ、ソノ命全テニ。
2. 墓穴
3. 消えていくオレンジの空へ
4. バール
5. 白紙の手紙
6. ARTIST
7. Eclipse
8. ダメ人間
9. 世界の終わりと夜明け前

DEZERT
1. 「擬死」
2. 真宵のメロディー
3. 「変身」
4. 「殺意」
5. みぎて
6. 「秘密」
7. 再教育
8. 「君の子宮を触る」
9. 僕等の夜について

キズ
1. リトルガールは病んでいる。
2. 傷痕
3. 鬼
4. 地獄
5. R/E/D/
6. JP:PARASITE
7. 銃声
8. 平成



【関連サイト】

キズ オフィシャルサイト: https://ki-zu.com/



DEZERT オフィシャルサイト: https://www.dezert.jp/



ΛrlequiΩ オフィシャルサイト: http://arlequin-web.com/





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