
20世紀初頭のパリの街並を詩情豊かに描き、エコール・ド・パリを代表する画家として人気を博したモーリス・ユトリロ。各時代の代表作でその画業と生涯をたどる回顧展が、9月20日(土)から12月14日(日)まで、東京・新宿のSOMPO美術館で開催される。
ユトリロは、1883年、パリのモンマルトルで生を受けた。母親は、ルノワールら多くの画家のモデルを務め、自身も画家となったシュザンヌ・ヴァラドン。父が誰かは知られておらず、のちに母の恋人だったスペイン人の批評家ウトリリョの認知を受け、ユトリロ姓を名乗るようになった。母から愛情を受けられなかったこともあり、少年時代から飲酒にふけり、絵画制作を始めたのはアルコール依存症の治療の一環だったという。

モーリス・ユトリロ 《モンマニーの屋根》1906-07年頃 油彩/カンヴァス 65×54cm ポンピドゥセンター/国立近代美術館・産業創造センター ©Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. GrandPalaisRmn / Bertrand Prévost / distributed by AMF ©Hélène Bruneau 2025
当初は住まいのあったパリ近郊の町モンマニーで、印象派の影響を受けながらも独学で制作に励んだユトリロは、モンマルトルに居を定めたのちの1909年頃から、絵具に漆喰や砂、卵など様々な素材を混ぜて白壁の質感表現に取り組み、白を基調とした街並の描写で独自の画風を築いた。飲酒癖で入退院を繰り返しながらも、精力的に制作を続けたこの「白の時代」の作品で評価を高めたのち、鮮やかな色彩も用いる「色彩の時代」へと移行している。

モーリス・ユトリロ 《可愛い聖体拝受者、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)》 1912年頃 油彩/カンヴァス 52×69cm 八木ファインアート・コレクション ©Hélène Bruneau 2025
同展は、フランス国立近代美術館(ポンピドゥセンター)の協力のもと、同館所蔵の《モンマニーの屋根》や《ラパン・アジル》を含む初期から晩年までの作品約70点と、アーカイヴを管理するユトリロ協会の資料を通じて、ユトリロの全貌に迫る展覧会だ。各時代の画業をたどると同時に、その生涯と作品、そして日本での評価の高まりについて、5つの視点からユトリロ像を浮かび上がらせる構成がとられている。
見どころのひとつは、多くの芸術家が集ったモンマルトルのキャバレー「ラパン・アジル」を描いた作品が複数点並ぶこと。同じモチーフを執拗に描き続けたユトリロの制作方法を深掘りするとともに、異なる時期の作品を比較することで、彼がどのように風景と向き合っていたのか、各時代の違いを検証する試みともなっている。
時代によって変遷を遂げたユトリロだが、生涯を通じてパリの街並を愛し、描き続けた点では一貫していた。アカデミックな表現とは一線を画す独自の画風を築いたユトリロのその風景の詩情を、この機会にじっくりと味わいたい。
<開催概要>
『モーリス・ユトリロ展』
会期:2025年9月20日(土)~12月14日(日)
会場:SOMPO美術館
時間:10:00~18:00、金曜は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
料金:一般(26歳以上)1,800円、25歳以下1,200円
チケット情報:: https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559226(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559226&afid=P66)
公式サイト: https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/mauriceutrillo/