ミュージカル『LAZARUS(ラザルス)』日本初演記念 デヴィッド・ボウイと親交があった立川直樹による解説付きの「楽曲鑑賞会」レポート
ミュージカル『LAZARUS』ビジュアル

伝説的なロックスターで、1970年代以降のファッションやアート、カルチャーに多大な影響を及ぼした革新者でもあるデヴィッド・ボウイ。最後のアルバム『★(ブラックスター)』と同時期に制作され、遺作となったミュージカル『LAZARUS(ラザルス)』が、2025年5月31日(土) に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場で開幕する。



ミュージカル『LAZARUS』は、ボウイと現代演劇の鬼才エンダ・ウォルシュが共同で脚本を執筆。1976年に公開されたボウイ主演の映画『地球に落ちて来た男』(ニコラス・ローグ監督)にインスパイアされたもので、地球に取り残されたまま酒に溺れ、死ぬことも故郷に還ることも出来なくなった宇宙人トーマス・ニュートンの“その後”が描かれる。謎の少女と出会い、共に自らの運命を模索する先に魂の解放はあるのか……。



日本版の演出を務めるのは、ウォルシュ作品の翻訳上演を数多く手掛けてきた白井晃。主人公のニュートンをボウイに憧れてロックスターの道を志した松岡充が、謎の少女を豊原江理佳が演じる。劇中では、このミュージカルのために書き下ろされた楽曲「Lazarus」「No Plan」「Killing a Little Time」「When I Met You」の他、「Change」「Absolute Beginners」「Heroes」をはじめとするボウイの代表曲を含む全17曲が織り込まれており、ボウイの遺志を尊重し、音楽パートは英語での歌唱となる。



そのミュージカル『LAZARUS』の記念すべき日本初演が近づく中、5月14日に東京・ミッドタウン八重洲内「STUDIO」にて、「デヴィッド・ボウイ『楽曲鑑賞会』スーパー・オーディオ・ライブ」が開催された。



50名の来場者が、ボウイと親交があった音楽評論家・立川直樹による時代背景や音楽が与えた影響などを交えた解説と共に、ハイスペックなオーディオ機器から流れるボウイの楽曲を楽しんだ。



立川は「『Lazarus』はミュージカルですが、“音楽劇”といったほうが良いような作りになっています。先日、稽古を見ましたが、その時点で既に相当面白いです。今日はデヴィッド・ボウイが如何に偉大だったかを知ってもらいたいと思いますので、すごい音で聴いていただきます」と話し、イベント本編が始まった。



最初にレコードプレーヤーでかけたのは、ミュージカルのタイトルにもなっている「Lazarus」。

「ミュージカル自体は2015年にニューヨークで初演されました。2016年1月8日、ボウイの誕生日に最後のアルバムとなったアルバムをリリースしましたが、その2日後にボウイは旅立ちました。そのアルバムは『★(ブラックスター)』ですが、自分がもうすぐ死ぬということを分かって作っていたんです。なのでそういう世界観で彩られた作品になっています」と「Lazarus」が作られた時期の背景を伝えた。



ミュージカル『LAZARUS(ラザルス)』日本初演記念 デヴィッド・ボウイと親交があった立川直樹による解説付きの「楽曲鑑賞会」レポート

左より)立川直樹、Technics上松泰直

続いては、1969年にリリースしたアルバム『スペイス・オディティ(Space Oddity)』収録のタイトル曲「Space Oddity」。「スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』から着想を得て書いた曲で、発売されたのはアポロ11号の打ち上げがあった後のタイミングに合わせています。当時22歳の人が考えるには凄すぎることだと思いますが、その時代にそこまで考えていたということに驚かされます」と、“創造者であるよりも先導者でいたい”というボウイの考えが反映されていたことも説明してくれた。



そして、ボウイが世界的スーパースターになるきっかけとなった作品『ジギー・スターダスト(The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』を紹介。「宇宙からやってきたロックンローラーというコンセプトで、バンドの名前が“Spiders from Mars”。当時、日本では『屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛』というふうに直訳されていた」という裏話や、このアルバムをリリースした後、世界中をツアーで周り、最終公演で“引退”を発表して驚かせたという逸話も披露。ミュージカルにはこのアルバムの曲は使われていないが、代表作ということで特に人気の高い「Starman」をかけた。



“引退”発表の舌の根も乾かぬうちにニューアルバム『アラジン・セイン』を発表したボウイ。

“ジギー・スターダスト”は引退したがボウイが引退したとは言ってない、ということで世界中がまんまと騙されたこととなった。その『アラジン・セイン』からは「タイム(Time)」をセレクト。「このオーディオシステムで聴くと、ギターの弦の擦れる音やボウイのため息まで聞こえます」と説明したとおり、細かな音も臨場感たっぷりに再現された。



1980年発売のアルバム『スケアリー・モンスターズ(Scary Monsters(and Super Creeps)』からは「イッツ・ノー・ゲーム(パート1)(It’s No Game(Part1))」。「日本語のナレーションが入っていて、日本のアンダーグラウンドの舞台の影響も受けているのがありありとわかる曲です」と楽曲について触れ、「ミュージカルでは『Lazarus』の次にかかる曲」と重要な1曲であることを伝えた。



オリジナルアルバムには収録されていないが、ミュージカルで使用されている楽曲「ディス・イズ・ノット・アメリカ(This Is Not America)」も紹介。この曲は映画『Falcon and Snowman』で使用された曲で、パット・メセニー・グループと共作された。



続いては「ホエア・アー・ウイ・ナウ?(Where Are We Now?)」。『ブラックスター』のひとつ前の作品『ザ・ネクスト・デイ(The Next Day)』に収録されている曲で、参加したミュージシャンも箝口令が敷かれていて、アルバムのレコーディングが行われていることを一切発表していなかった。「いきなりYouTubeで発表されて、世界27カ国のチャートでナンバーワンになりました。そしてこの曲はミュージカルの重要な場面で使われています」と解説。



このアルバムのジャケットが『ヒーローズ(Heroes)』のジャケットを加工したものだということにちなんで、『ヒーローズ』からタイトル曲「ヒーローズ(Heroes)」を流し、この曲は“ある曲”のコード進行を使ったものだと説明し、その曲、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「僕は待ち人(I’m Waiting for the Man)」もかけて、コード進行をみんなで確認。

さらに、フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」と同じコード進行の楽曲「火星の生活(Life On Mars?)」(アルバム『ハンキー・ドリー(Hunky Dolly)』収録)も聴かせてくれた。



最後はイベント会場が「東京駅」に直結しているということで、アルバム『ステイション・トゥ・ステイション(Station To Station)』のタイトル曲をかけた。



曲が終わると、立川は「時間やジャンルなど全て乗り越え、美意識とかを全て持ち合わせているアーティストは唯一無二だと思っています。そんな彼が最後に残した『ラザルス』という素晴らしい音楽劇が、日本でも上演されます。歌は英語ですが字幕もありますし、芝居の部分は日本語なのですごく分かりやすくなっています。完成を心待ちにしているんですが、皆さんもぜひお出かけして楽しんでいただければと思います」というメッセージで締めくくった。



このイベントは、オーディオメーカーTechnicsの協力で総額1,000万円ほどの最高級のオーディオシステムにて行われた。



初日までおよそ2週間。ミュージカル『LAZARUS』は、2025年5月31日(土) から6月14日(土) まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉、6月28日(土)・29日(日) に大阪・フェスティバルホールで日本初演される。



<公演情報>
ミュージカル『LAZARUS』



音楽・脚本:デヴィッド・ボウイ
脚本:エンダ・ウォルシュ
演出:白井晃



出演:
松岡充
豊原江理佳、鈴木瑛美子、小南満佑子
崎山つばさ、遠山裕介
栁沢明璃咲、渡来美友、小形さくら
渡部豪太、上原理生



ダンサー:Nami Monroe、ANRI、KANNA
演奏:益田トッシュ(Bandmaster)、フィリップ・ウー(key)、松原“マツキチ”寛(ds)、Hank西山(g)、三尾悠介(key)、フユミカワカミ(おふゆ)(b)
スウィング:塩顕治、加瀬友音



【神奈川(横浜)公演】
2025年5月31日(土)~6月14日(土)
会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉



【大阪公演】
2025年6月28日(土)・29日(日)
会場:フェスティバルホール



チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558115(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558115&afid=P66)



公式サイト:
https://lazarus-stage.jp

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