熊本競輪(熊本県熊本市)
GⅠ「第41回 全日本選抜競輪」
2月20日(金)~ 23日(月祝)開催
今年の競輪GⅠ第1弾は、2月20~23日に行われる「第41回全日本選抜競輪」。舞台は熊本競輪場。14年前の日本選手権以来となる熊本でのGⅠ開催に合わせるかのごとく、火の国・熊本の若きエース嘉永泰斗(27)=113期=は昨年10月にタイトルを奪取。
目次
■通学は山を越えて片道20キロ
2023年3月、別府でのGⅡウィナーズカップの準決勝を勝利し、初めてビッグレースの決勝に進むことになった嘉永泰斗
――自転車は九州学院高時代に始めたんですね。
「はい。九学は中高一貫で、中学では野球をやっていたんです。高校でも野球を続けるかどうか考えていたときに、3学年上で同じ野球部出身の瓜生さん(瓜生崇智、109期)が自転車でインターハイに出て優勝。いとこが瓜生さんと同学年だったし、その活躍を知ってすごいなと憧れました。2学年上の野球部の先輩も自転車競技部に入っていて、その人にレーサー(競技用の自転車)に乗せてもらって楽しさも感じたので、自転車競技を始めようと思ったんです。始めるからには競輪選手になろうと思っていました」
――熊本の北部の玉名市出身ですよね。九州学院は熊本市の中心部なので、遠かったでしょう。
「今は引っ越しましたけど、生まれも育ちも玉名です。通学は自転車で山を越えて片道20キロくらいでしたね。
――ちなみに嘉永さんという姓は、玉名に多いんですか。
「親戚以外にも1、2軒はあるので、玉名では激レアではないと思います。でも親戚もそんなに男が多くないし、嘉永姓はかなり細い線かもしれませんね」
――自転車の話に戻ると、昨年10月、デビュー7年3カ月でタイトルホルダーになりました。でも新人のころは113期の中でそこまで注目されていたわけではないですよね。
「そうですね。目立たなかったと思います。高校時代も競技の実績はそれほどなかったですし。同期でも宮本隼輔さんや小林泰正さん、九州だと橋本瑠偉さん(佐賀から現在は栃木に移籍)、熊本でも曽我圭佑さんら大学自転車部出身の皆さんにはかなわなかったですね。今でもそんなにダッシュ力がある方ではないと思っているんですが、学校時代から力の差は感じていました。でも大学に行っていない分、頑張ればどこかで追い付く時間はあるとも思っていました」
2018年3月、競輪学校の卒業記念レースが行われた伊東競輪場で、ローラーに乗りアップする嘉永泰斗
――競輪学校には2回目の受験で合格。学校時代は続けて落車をしたと聞いています。
「はい。前歯を折ったり鎖骨を折ったり、落車してよくけがをしました。でもタイムを出せるタイプではなかったし、そういったけがとは関係なしに、当時の自分は強くなかったと思っています」
――2018年のデビュー後もヘルニアの手術をしました。
「痛くて腰が曲がらない状態でした。でも周りからはあまり手術を勧められなかったし、どうしようか迷っていたときに先頭員早期追い抜きの失格をしてしまったんです(19年6月)。残り2周より前の追い抜きで失格(400バンクの場合)というルールが導入されてからは2例目でした。ペナルティーが大きくて3カ月ほどあっせんが止まることになり、手術をする踏ん切りがつきました。結果的には手術して良かったです。もう腰はだいぶ良くなりました」
■同期の活躍をバネに飛躍
――同県同期同学年の上田尭弥選手の方が出世が早かったですね。
「尭弥は競輪学校で急に伸びた感じがありました。武雄でのデビュー節(18年7月)では決勝で連係して、自分は尭弥の前で5着。尭弥は優勝しました。それから1年もたたず(19年3月)に尭弥はS級に特昇していきました」
2018年7月、武雄でのデビュー節で決勝に進み、上田尭弥(右)の前を走ることになった嘉永泰斗(左)
――その後も連係がありましたか。
「自分がS級に上がってから高松FⅠの決勝(20年10月)で連係したんですけど、その時は自分が後ろ。尭弥は優勝でした。自力型が自分たちだけしか決勝に上がらず、その自力2人が並んだので番手の自分は柏野智典さんに競られたんです。歯が立たずに自分は大敗。それがあって、ヨコの強さや位置取りを意識するようになりました」
――その高松はS級2節目ですね。20年9月2日にA級での9連勝でS級へ特別昇級しています。
「特昇すれば10月の地元記念(熊本地震のため久留米で開催)に追加で出られるかもしれないと思って頑張りました。結局、呼ばれることはなかったんですけど。同期の尭弥や曽我(圭佑)さん、上野(優太)さんらが走っていて、自分は走れないのが悔しかったですね」
――S級に上がってからは約2カ月でS級優勝。翌21年10月には久留米でのGⅢ熊本記念を優勝しました。順調でしたね。
「そうですね。
2021年10月、久留米競輪場での熊本競輪開設71周年記念でGⅢ初優勝を手にした嘉永泰斗
――22年は2月のGⅠ初出場で準決進出などさらに飛躍しました。
「取手GⅠの全日本選抜は2連勝で準決勝に進出。かなり手応えを感じた開催でした。その1カ月くらい前、1月の和歌山記念で荒井崇博さんと話す機会があったんです。荒井さんがやっているウエートトレについて教えてもらいました。上を目指す上では必要だと感じてやり始めたんです。それがいい方向に出たし、今でもウエートトレはしっかり時間を割いてやっています」
――22年は、5月いわき平での日本選手権(ダービー)までは順調でしたが、その後は落車もありました。
「ダービーも準決勝まで行けたんですが、6月の宮杯で落車するなどして流れが悪くなりました。自分は落車が少なくはないし、それで調子を落とすことが多いですね」
2022年6月、GⅠ高松宮記念杯出場のため岸和田競輪場に来場した熊本の若手4人。
――翌23年はGⅡで2回、決勝を経験しました。
「その年は調子が良かったですね。特に9月、青森での共同通信社杯は今までで一番良かったと思います。自転車がすごく進みました。セッティングも決まっていました」
2023年9月、GⅡ共同通信社杯に出場するため、松本秀之介(左)とともに青森競輪場に入る嘉永泰斗
――ただそこからは落車が続きました。
「久留米での熊本記念と小倉の競輪祭で落車。それが影響して調子をガクンと落としました。翌年、川崎記念は取れましたが、あまり波に乗れていない感じはありました」
■満員のスタンドで奮起
――その24年は7月に熊本競輪再建記念FⅠがありました。初めて地元バンクで走り、優勝しました。
「準決のレースはもうちょっとやれたかなとは思っています。(中川)誠一郎さん(GⅠを3V、五輪にも出場した熊本の第一人者)を付けてのレースだったけど、一緒には勝ち上がれませんでした。調子自体も良かったり悪かったりの時期だったので、気持ちに余裕がありませんでした」
2024年7月、地震で休止していた熊本競輪場再開となった「熊本競輪再建記念FⅠ」に出場した熊本勢(前列左から上野優太、中川誠一郎、中本匠栄、半田誠。後列左から兼本将太、中村雅仁、倉岡慎太郎、嘉永泰斗、緒方将樹、松本秀之慎
――再開を心待ちにしていたお客さんでスタンドは満員でした。
「すごい熱気でしたね。決勝では絶対に勝たないとと感じていました。将樹(同支部の後輩の緒方将樹)が前で頑張ってくれたおかげで優勝できました」
2024年7月22日、熊本競輪再建記念FⅠ決勝で先頭でゴールへと飛び込む嘉永泰斗(中央の白)
2024年7月、熊本競輪再建記念FⅠのS級決勝で連係した緒方将樹(左)に抱きつかれる優勝した嘉永泰斗
――昨年も前半戦は調子が上がっていませんでした。
「そうですね。調子が上がってきたのは8月のGⅠ函館オールスターから。セッティングも決まっていたし、いいときの走りができているなと感じました。続く9月のGⅡ共同通信社杯もいい感触は続いていました。GⅠを取れるとは思っていませんでしたけど」
――その待望のタイトルは10月のGⅠ寬仁親王牌でした。
「調子はキープできていましたが、GⅠ決勝は初めてでしたし、まさかですよ。決勝では展開が向きましたね。前の吉田拓矢さんと恩田淳平さんの関東勢に付いていったら、そのまま3番手で残り1周。後ろで犬伏さんが構えてくれたのも分かったし、チャンスをものにできたという感じです」
前橋競輪「第34回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」決勝で優勝した嘉永泰斗(中央)。左は2着の松本貴治、右は3着の古性優作
――優勝賞金は4390万円でした。
「税金が怖いですし、まだ手を付けずに取っています」
――GⅠ優勝後はどんな調子でしたか。
「親王牌の直後の四日市記念は、体がすごく重かったです。行くまではいつも通りだと思っていたけど、GⅠを取ったことで体が興奮状態だったんですかね。レースを走ると疲れを感じました」
2025年10月26日、前橋競輪「第34回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」決勝のゴール。嘉永泰斗(黄・5)がGⅠ初制覇を果たす
■またグランプリを走りたい
――年末はグランプリに初出場しました。
「すごい経験でした。23年に立川でグランプリシリーズの決勝を走っていたので想像はしていたんですが、それ以上でしたね。GⅠの決勝とも違って、独特の盛り上がりでした。やはり最高の舞台ですね。一度走って、また走りたいという思いを強くしました」
――グランプリでの状態面はどうだったんですか。
「調子自体は問題なかったと思います。ただ、競輪場に入って1走しかしないのはちょっと慣れなかったですね。単発のレインボーカップは出たことがあるんですが、レインボーは通常開催と同じで入った翌日がレース。でもグランプリは1日空くので。しかも走るのはレインボーカップではなく、誰もが注目する『グランプリ』ですからね。どう過ごしたらいいのか分からない面もありました」
2025年12月、KEIRINグランプリ2025のメンバー。右から車番順に郡司浩平、寺崎浩平、眞杉匠、南修二、吉田拓矢、阿部拓真、脇本雄太、嘉永泰斗、古性優作
――レースは単騎でした。打鐘4角で最後方からカマして、2角で先頭に立ちました。
「車番が悪いので、後方になるのは仕方なかったです。郡司さんが仕掛ける前に行きたかったので、あのタイミングになりました」
――5着でしたが最終バックを先頭で通過するなど、見せ場はつくりましたね。
「2角手前で寺崎さんのブロックに遭ってしまったのは想定外。それを食らわなければとも思いますが、それをよけても(優勝した)郡司さんに行かれていたと思います。とはいえ自分が思っていたレースができたし、悔いはありません。師匠の倉岡慎太郎さんも平塚に応援に来てくれていて、レース後に『よう行ったね』と言ってもらえました」
――年明けの立川記念はS級S班としての初めての記念でした。周囲の期待やファンの目線が今までと違うものはありましたか。
「やはり今までとは見られ方が違うと感じます。番組もSSを中心に組むので人気になるし。余計なことは考えたくないので、レース前にオッズは見ないようにしています」
――決勝では捲り届かずでしたが3着。
「日に日に調子は上がっていきました。年々、冬が苦手になっている気がするんですけど、そんなに寒くなかったのも良かったですね。気温が10度くらいあれば問題ないんですけど、それより寒いときついです」
――いわき平記念は寒かったでしょう。初日に落車して2日目から欠場となりました。
「すごく寒かったですね。あそこまで寒いと厳しいです。でも落車のけがはそんなにひどくないし、何日か休んで、すぐ練習を始めました」
熊本競輪場が400バンクとなって初めてのGⅠ開催に燃える地元エースの嘉永泰斗
――自転車はどうだったんですか。
「実はそれが一番の問題なんです。GⅠを取った自転車が壊れてしまって。全日本選抜は練習で乗っているフレームで走ろうと思っているんですが、セッティングがまだまだ。しかも奈良記念を欠場したので、実戦で試すことができません。まあ、そうも言っていられないのでどうにかしないと」
――これからやることは多いみたいですね。
「そうですね。それに、今までのGⅠとはまったく違う。熊本でのGⅠは14年も前で、まだ自分が自転車競技を始めてもいなかった頃。とにかく、やれることは全部やって、やり残したことがないように準備したいです。お客さんも再建記念FⅠや熊本記念より多いだろうし、いい走りを見せたいですね。でも、お客さんは場内に入りきれるかな。バックにスタンドができているし、今まで以上に収容できるのは間違いないんですけど」
――超満員のスタンドで決勝を走りたいですね。
「もちろん優勝したいです。でも決勝に乗らないことには優勝もできない。まずはそこを目指します。乗れたら当然、優勝しか考えません。そのために、今はやるべきことをしっかりやろうと思っています。それに、できればあまり寒くならないように願いたいですね。熱いレースをお見せしますので、ぜひ競輪場で応援してください!」
2024年7月、熊本競輪再建記念FⅠのS級で優勝し、インタビューを終えて敢闘門へ引き揚げる嘉永泰斗
s◆嘉永泰斗(かなが・たいと)
1998年3月23日、熊本県玉名市生まれの27歳。九州学院高卒業。高校から自転車競技を始め、2回目の受験で日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)に合格。2017年5月に113期で入学し、18年7月の武雄でデビュー(1、1、決勝5着)。21年10月、久留米で代替開催されたGⅢ熊本記念でグレードレース初制覇。その後も函館記念(23年5月)、川崎記念(24年4月)とGⅢは3V。25年10月には、前橋GⅠ寬仁親王牌で優勝し初タイトルを獲得した。通算成績は538走205勝、優勝31回。通算取得賞金は2億7597万1274円。師匠は倉岡慎太郎(熊本・59期)、175センチ、80キロ、O型。



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