
幅広い世代に人気が広がり、ブームが続いているサウナだが、正しい入り方をしているだろうか? 栃木県日光市のサウナ施設で、利用客の男性が施設内にある池の中で死亡する事故が起きたことも記憶に新しい。同様の事態を防ぐためにも、改めてサウナの入り方について温泉療法専門医で、医学博士でもある早坂信哉先生に解説いただいた。
高温サウナと水風呂のセットは体への負担が大きい
サウナが健康によいとされているのは、入浴や温泉と同じ理屈で、体が温まることで血管が拡張し血流がよくなるからです。
例えば心筋梗塞など、あらゆる病気は血流が悪くなることが原因である場合が多いので、体を温めて血流がよくすることはとても大事で、サウナも体を温めて適度な汗をかけば、それで十分、健康にはいいのです。
これはサウナの本場フィンランドの研究でも分かっています。
最近のサウナブームにより、さまざまな施設ができていて、中には100度レベルの高温サウナと冷たい水風呂のセットという入り方をすすめている場合があります。
ですが、これは実はけっこう体への負担が大きい入り方なんです。

高温サウナから出て、冷やされた水風呂に入ると体は急激な温度差を感じ、血圧が高くなります。いわゆるヒートショック状態を自分から作っていることになります。
ヒートショックとは冬場に暖房が効いた室内から寒い脱衣所に移動し、入浴することで起こります。冷たい空気に体をさらすことで交感神経が刺激され、血圧が上昇し、今度は入浴すると血圧は下がるため、血圧の乱高下が心臓や血管の負担となって心筋梗塞や脳卒中を引き起こす原因になるのです。高齢者はとくに注意が必要です。
まさに高温サウナから水風呂に入ることは、ヒートショックと同じような危険を伴います。
高齢者でなくても健康な若い世代でも水風呂の強い刺激によって、心筋梗塞までいかなくても狭心症が起こったり、不整脈が発生したりすることも。
要するに血圧が上がることで血管が収縮し、心臓に血液を送ろうとしても十分に行き届かず、狭心症に近い状態になってしまうのです。
こうした心臓疾患が発症すると場合によっては意識を失ってしまい、水風呂であっても溺れ、最悪の場合溺死する危険性があります。
サウナの後に水風呂に入るのが好きという人は多いかもしれませんが、いきなりサブンと入るのではなく、足からゆっくり入って浸かる、もしくは足先に水をかけるだけでも十分で、後はゆっくり休むくらいがおすすめです。
また、最近、屋外サウナと隣接する川、池、湖などで冷水浴ができる自然型のサウナ施設が流行っていますが、温度差による体の負担を考えれば、注意して利用することが大切です。
時期にもよりますが、外気温自体がそもそも低いということ、川の水も冷たいということもあります。
さらに川や池などは、サウナ後でなくても水の冷たさや流れの変化によっては常に危険がつきものです。
こういった施設ではサウナ後は、外気浴でも十分なので、体調を見ながら無理に入らないようにしましょう。
サウナは我慢比べではない
サウナブームによって、私が危惧していることは、勝手に「我慢比べ大会」になっている場合です。
長く入ろうとしたり、前述したような強い刺激を求めて過激な入り方をしたりするのは危険です。熱中症や脱水症状のリスクを高めます。
汗を出せば出すほど、体の悪いものが出るからいいと思っている人は案外多いと思いますが、汗には老廃物も有害物質も含まれていません。
しっとり汗が出て体が温まれば血流は改善して、サウナ効果としては十分です。
そもそもサウナは気持ちよいものであって、我慢したり、がんばって耐えたりする必要はありません。
無理をせず、息苦しさを感じたらサウナ室から出るようにしましょう。
サウナを利用する時間は、サウナ室の温度設定や利用する人の体調によりますが、60度くらいの温度のサウナなら5分くらいを目安に2~3回ほど繰り返して利用するといいでしょう。
また、温度も高温サウナである必要はありません。
サウナ初心者の人なら、60度~70度に設定されている施設で、しっとり汗が出たら、サウナ室を出て、水を少し足にかけて冷ますくらいがおすすめです。
また、いきなり温度が高い上段に座らず、最初は温度が低い下段に座って、体が慣れてきてから上段に移るようにしましょう。
女性は、ミストサウナなら息苦しさを感じにくく、空気も乾燥していないので肌もしっとりします。
とにかく、我慢しない、無理をしない、がサウナを楽しむ鉄則です。

飲酒した後、食事直前・直後はサウナに入らない
その他、特に気をつけてほしいのは飲食、飲酒後のサウナです。
特に飲酒後は、アルコールが体内に入ることで血管を拡張させるため血圧は低下しています。サウナも体を温めることで血圧を低下させるので、大きく血圧が下がる可能性があります。
血圧が下がりすぎると意識を失うこともあるので、サウナの中で熱中症を引き起こす場合があります。
また、アルコールを代謝するため体はいつも以上に水分を必要とするため、その状態でサウナに入ると発汗作用とあいまって、脱水症状を引き起こす場合も。
飲酒後のサウナは、場合によっては命の危険も生じるのでやめましょう。

また食事の直前直後もサウナは避けていただきたいです。
食事の前後1時間程度は、消化のために胃腸に十分な血液が流れている必要があります。
サウナによって、血液がほかに流れてしまうと、胃腸に十分血液が回らなくなり、消化不良などの影響が出る場合があります。
サウナ後に食事するときは1時間ほど空けるか、なるべく胃に負担かからない軽めの食事にしましょう。
さらに
・高血圧の人
・怪我をしている人
・心臓や脳の持病がある人
・頭痛がひどい人
・妊娠中の人
は、サウナに入るのは避けましょう。とくに出血など怪我をしている場合は体が温まることで血液が止まりにくくなりますので、サウナに入るのは、やめておいてください。
サウナは正しく入れば、体が温まり、健康効果を実感できます。
くれぐれも無理をせず、自分のペースで楽しむようにしてください。
取材・文/百田なつき