プロ野球歴代2位となる1939試合連続出場。最激務と言われる遊撃手として驚異的な数字を残した鳥谷敬。
一番の強みはストレートに強いこと
阪神タイガースの交流戦成績は、7勝10敗1分という結果でした。これまでの勢いが止まってしまったように感じた方がいるかもしれませんが、まだシーズン半ばだと考えれば、そんなに心配はいらないのではないでしょうか。
むしろ、今後が楽しみな新戦力が台頭してきました。プロ2年目、20歳の前川右京外野手です。智弁学園から2021年ドラフト4位で入団。その打撃センスは高卒2年目とは思えないほど非凡なものがあります。
交流戦に合わせ、初めて一軍に昇格した前川選手は、初ヒットまでに11打席を要しましたが、その間にも、いずれ打つだろうという雰囲気がありました。ここまで21試合で打率.290、6打点と結果を出しています。
高卒2年の20歳ながら非凡な打撃センスが高評価を受けている前川
6月は7試合で3番打者として起用されましたが、岡田彰布監督も結果だけではなく、打撃練習などの様子を見て、ヒットが出そうな状態の時を見極め、チャンスを与えていた印象があります。調子が上がってきたタイミングで、あえて相手チームの先発が左投手の時も先発起用するなど、今後レギュラーになってほしいという監督の思いも感じます。
「バットが振れる」「スイングスピードが速い」「身体が開かない」など、その打撃についてはすでに至るところで高評価を受けていますが、中でも一番の強みと言えるのは「ストレートに強い」ことではないでしょうか。
プロ野球選手として長く活躍するためには、ストレートを打てるということが重要なポイントです。変化球は、いろんな投手と対戦して経験を積み重ねる中で、打てるようになっていく可能性がありますが、ストレートを打てない選手が、急にストレートを打てるようになることは、ほとんどありません。
前川選手は、一軍の試合に出始めた今の段階で、ストレートをしっかりと打てていることが、ストロングポイントなのです。
そもそも、しっかりスイングするということは、言葉で言うより、はるかに難しく、本来であれば、プロになってから何年もかけて作り上げていくものです。それが前川選手はプロ2年目にして、できているのですから、評価が高くなるのも当然だと思います。
高卒2年目で結果を出せる選手が少ない理由
前川選手は、練習の中で素振りを大切にしているそうですが、これは金本知憲さんなども同じでした。自分の形を作って打つタイプの打者は素振りをすることで、いろいろなことが確認できるのだと思います。
もちろん打者のタイプによって練習方法は様々で、例えばイチローさんはボールを打つ練習を重視し、ほとんど素振りはしなかったと聞いたことがあります。
自分も現役時代は、素振りよりも実際にボールを打ちたいタイプでした。動きの中で打つタイプの打者は、動いてボールに合わせるという作業がない素振りで形を固定してしまうと、実際の打席で力みにつながってしまうのです。
自分はひたすらボールを打って、その感覚を合わせていくほうが結果につながったので、こういった選択をしていました。
鳥谷敬氏
それに対して前川選手は、自分の形さえしっかりできていれば、どのピッチャーであっても関係なく打てるタイプの打者なのだと思います。まだ20歳という年齢で、自分がどんな練習をすればいいのか、どうすればいい状態を保てるのかをわかっているのは、素晴らしいことです。
自分がプロに入った時よりも、はるかにいい打撃をしていると思いますし、試合の中でいろんな投手と対戦しながら、対応していく能力も高いと思います。
そもそも高卒2年目で結果を残せる選手が数多くいるわけではありません。近年では、巨人の坂本勇人選手、ヤクルトの村上宗隆選手、オリックスの森友哉選手などでしょうか。
早い段階で結果を出す選手は、内野手であったり捕手であったり、いわゆる“替えがきかないポジション”が多いものです。
それに対して外野手は打撃を武器にしている選手が多く、打撃面で継続的に結果を残さないと、どうしても試合に出続けることができません。
打撃の調子が悪くなり、試合に出る機会が減ってしまうことまで考えると、追いこまれてから、どういう打撃をするか、調子の波をどうやって少なくするかといった細かい部分が、前川選手のこれからの課題になってくるのではないでしょうか。
前川、森下、井上の右翼手争いがチームを活性化
現在、前川選手と同じような立場で右翼手のレギュラー争いをしているのが、ルーキーの森下翔太選手、プロ4年目の井上広大選手です。
岡田彰布監督は、この3人を一軍に固定することなく、ここまで競争させてきました。理想を追求すれば、レギュラー全員が固定という形なのかもしれませんが、今年の阪神タイガースに限っては、この右翼手のレギュラー争いが、チーム全体に好影響を与えているように感じます。
鳥谷敬氏
選手それぞれの将来を見据えた首脳陣の思惑もあると思いますが、選手たちにとって「ファームで結果を残せば、一軍に昇格した時に先発出場のチャンスがある」ということは、ファームを含めたチーム全体のモチベーションを保つことになり、いい方向に作用していると思います。
さらに、ここにきてノイジー選手が打撃の調子を落としたときは、左翼手として先発出場できる可能性も出てきました。さらなるモチベーションアップ、競争の激化による個々の成長が見込めることは、本当に楽しみです。
レギュラーをつかむためには、なぜ自分が試合に起用されているのかということを考えなくてはなりません。右打者の森下選手であれば、その左投手に対する結果はもちろん、右投手に対してどれだけ結果が残せるかが問われるでしょう。
同じ右打者でも、井上選手は持ち前の長打力をどう発揮していくかがポイントになってくるでしょう。
左打者の前川選手は、左投手も苦にしないタイプに見えるので現状は先発出場の機会が増えているのだと思いますが、今後、左投手に対して結果が出なければ、右打者の森下選手や井上選手にチャンスが出てきます。3人にとっては、これからの一打席一打席が、今シーズンだけでなく、自分の将来を決める大切なものになるはずです。
誰がいい、誰が悪いというより、この3人でレギュラーを争っていること自体が、ファンの方にとっても、チームにとっても喜ばしいですし、今年の阪神タイガースが強い理由のひとつであることは間違いありません。
構成/飯田隆之 写真/共同通信社



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