
人生100年時代。老後資金、健康や認知症など不安を抱える高齢期。
医師の言うことをうのみにしない
最近、とある週刊誌の取材で、「医師に嫌われないように、医師が出した薬や手術案について、角を立てずに断る方法はありますか」という質問を受けました。
残念ながら事を荒立てずにすむ方法はありません。そもそもほとんどの医師が自分の出した診断、考え方といったものを変えることはありませんから、患者が疑問に思ったり、こちらのほうが正しいと思ったりしても医師に忖度して何も言わなければ、軽くあしらわれてしまいがちです。角が立ってもいいから、『イヤだと思っている治療を押しつけるなら訴えるぞ』ぐらいの態度をとらないといけません。医師は訴えられると思ったとたんに態度を変えますよという話をしました。
同様に、患者さんやその家族で手術の費用とは別にお礼を渡そうとする人がいますが、これは医師からすれば「手術を失敗しても大丈夫な患者だな」と思われてしまうかもしれないので、それよりは自分の病気や薬のことを少し勉強して「失敗したら絶対訴えるぞ」といったオーラを出しておけば、医師からは嫌われるかもしれませんが、そのほうがよほど医師は手を抜かず治療をやってくれます。

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医師にも「ノー」を突きつける
ご存じの方も多くいると思いますが、外科で手術を受けるときに、一般的には手術の危険性などを説明してもらい、双方が納得のうえ(インフォームドコンセント)で手術を受けることになりますが、わたしの経験上、内科医は、たとえば血圧の薬を出す際に、「その薬を飲むと頭がボーッとするよ」「ヨロヨロすることがあるよ」とは教えてくれませんでした。
わたしたちは、医師にはもっといろいろな要求をしていいし、世の中にはたくさんの医師がいるのだから、一人や二人の医師に嫌われてもたいしたことではありません。
「薬は服用したくない」「手術は受けたくない」「延命治療は受けない」など自分の思っていることを正直に伝え、それを医師が受け入れてくれるかどうかを確認してみるといいのです。話を聞いてもらえず、自分の治療を押しつけるような医師、会うと威圧的でイヤな気持ちになって気後れしてしまうような医師だったら、その医師はやめて別の医師を探すべきです。
できないことが増えてくる老年期はけっして長くありませんし、たった一度しかない人生です。言いたいことは言い、自分らしく生きることのほうを重視したほうがよっぽど幸せだと思いませんか。
お金を使って幸せになる経験を開拓する
年を重ねれば重ねるほど、お金をもっている人よりもお金を使っている人に、人が寄ってくるようになります。資産1000億円をもっていても、ケチなお金持ちには人は寄ってはきません。
わたしは映画をつくっているので、制作資金を援助してくれるかもしれない資産家を紹介されることがよくありますが、ケチだなと思った人とは二度と会いたくないなと思ってしまいます。お金を使うから人が寄ってくるのであって、お金をもっているから人が寄ってくるのではないのです。もしお金をもっているだけの人に寄ってくる人がいたら、その人は詐欺師だと思ったほうがいいのではないでしょうか。
お金持ちだけれど、孫にお年玉を1000円しかくれないおじいちゃんと、貧乏だけどなけなしの1万円をくれるおばあちゃんだったら、 孫はどちらに寄っていくかはわかりきったことですよね。ケチだなと疎まれるよりも、孫に感謝されて一緒に楽しい時間を共有したほうがよっぽど幸せです。
わたし自身が実践していますが、いまの高齢者たちにもぜひ挑戦していただきたいのは、そのようにしてお金を使うことで幸せになる経験を開拓することです。

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高齢者だって立派な消費者。もっとお金を使おう!
少子高齢化の進展などから、年金問題で財政が破綻するといわれていますが、受け取った年金を高齢者が全部使ってくれれば、むしろ経済効果は高いのです。
2019年末の数字ですが、日本の年金受給権者は4040万人、年間の総支給額は52兆9607億円にもなります。この人たちがこのお金を余すところなく使ってくれたら、日本の経済はどれだけ回ることでしょうか。つまり、年金生活者であっても、立派な消費者ということなのです。
ところが現役から退き、働いていない年金生活者は、いわゆる消費者の対象から除外されています。たとえ現役を続けて労働していても、高齢であるということだけで、消費者から外されてしまっている現実もあります。
老後2000万円問題や将来の介護問題などで、不安になっているから高齢者の財布のひもが固く締まっているという点はあるでしょうし、実際に、年金まで貯金するので、老後貯金が増える人も少なくありません。
確かに高齢者向けの魅力的な商品がないのも事実ですが、貯蓄したり、買いたいものを買わずに我慢したりして、お金を使うことに頭を使わないと脳の老化につながるので、ここはお金を有意義に使うことを考えてみたいと思います。
お金を使って世の中を変える
身近なところで考えても、NHKや民放のテレビ番組がつまらないなと思えば、AmazonプライムやNetflixなどの有料動画配信サービスに加入して、自分が本当に好きな映画やドラマを鑑賞するなど、そういう有意義なことにお金を使えばいいのです。
これまで民放の無料放送ばかり見てきた人にはテレビを見ることにお金を払うのは抵抗があるかもしれませんが、月額500~2000円ほどの会費を払うだけで、いつでもどこでも会員対象の映画やテレビ番組が追加料金なしで好きなだけ見ることができるのです。
子育てが終わって夫婦ふたりっきりの生活なら、週に一度は1人1万円ぐらいの食事をしようなど、ちょっとした贅沢をしてもいいと思います。そういった身近なところであっても、幸せを感じることがメンタルヘルスにも免疫力を養うのにもいいですし、それが長生きや若返りなど、すべてがいい方向へとつながっていくわけです。
現実的には難しいと思うこともあるでしょうが、どんな小さいことでもまずは始めてみることが大切です。やはり、高齢者がお金を使ってくれるところを見せないかぎりは、高齢者を消費者として見ることはなく、世の中は変わっていかない気がします。少なくともわたしは大いに実践していますし、今後も好きなこと、好きなものにお金を使い続けていきます。

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失敗しても、前頭葉は活性化する
自分にとって有意義にお金を使うことで幸せを感じられ、免疫力アップや若返りに効果があるとお伝えしましたが、実はお金を使うことは前頭葉を活性化することもできるので、いいことずくめです。
前頭葉は、思考や感情、行動をつかさどる脳の部位で、脳の老化が最初に始まる部位でもあります。使わずにいるとどんどん萎縮していき、認知機能や運動機能の低下、それ以上に意欲の低下という悪影響を及ぼすのです。
日本人は幼少期から「失敗してはいけない」ということばかり言われ、刷り込まれてきたので、失敗を恐れて実験をしないまま日々を過ごしている人がたくさんいます。
失敗しても、それをもとに組み直すことができるのが実験です。年をとって以前より時間があるなら、どんな小さなことでも毎日が実験だと思ってみて、ぜひ試してみるべきです。家族や医師から言われたとおりのことをやっているのは、実験ではありませんよね。
たとえば、気になるラーメン店に行列ができていて、「せっかく並ぶのに自分の好みでなかったらイヤだな」などとは考えずに、まずは並んで食べてみる、それが実験です。残念ながらおいしくなかったとしても、この実験は失敗だったが、その失敗は次へ生かすことができますよね。
その店はまずいということを学習できるし、若い人ばかり並んでいる店は高齢者には脂っこすぎると学習できるかもしれません。おおげさに聞こえるかもしれませんが、まずはこういった身近にできることから始めてみることを忘れてはならないということを肝に銘じて毎日を過ごすと、人生変わってくるものです。
「毎日が実験だ」と思ったら、なんだかワクワクして楽しくなってきませんか。スーパーで、聞いたことや見たことのない食材が売っているから、きょうはこれを使って料理をしよう。行きつけではない店に思い切って入ってみよう。
このようにちょっとした実験を続けていれば、老後も退屈せず、楽しく過ごすことができるはずです。失敗することも、もちろんあるとは思いますが、全部失敗することって実はあまりないはずです。たとえ少ない回数だったとしても、失敗を恐れずに、すごく楽しかった、すごくおいしかったという経験をすることのほうが大切です。

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『わたしの100歳地図~65歳を過ぎても幸せが続く鉄則』(主婦の友社)
和田秀樹

2023年6月1日
1,100円(税込)
単行本 : 192ページ
4074529955
血糖値600オーバー!血圧200オーバー!病気のデパートのわたしが自由で幸せな生き方を人体実験中!
人生100年時代が叫ばれ、平均寿命も毎年、確実に上がり続けている。
これを手放しで”長生きできてうれしい”と思う高齢者はひとりもいないのではないか?
いや、それどころか、老後資金の枯渇問題、健康や認知症といった老いへの恐怖などなど、
不安を抱えている高齢者がどれだけ多くいることか。
そんな暗雲垂れ込める人生100年時代を、30年以上の長きにわたり、高齢者医療に携わってきた医師でありベストセラー作家でもある和田秀樹が、初めて自身の人生を振り返り、
そして、これからの人生を語る和田自身の人生100歳時代の設計図。
ひとたび読めば、老後の不安がみるみるうちに消えていき、人生を幸せで豊かにしてくれるゴールデンシニア待望の福音の書である。