
40歳を迎えた今も世界を舞台に第一線で活躍するロリータモデル、青木美沙子。正看護師とモデルの両立によって手にした自分だけの武器や、何歳になっても「好き」を貫き、強く生きる秘訣を聞いた。
「同調圧力」と「自分勝手」なら、私は自分勝手を選ぶ
――美沙子さんは世間の声を浴びる立場にあると思うんですけど、そういう立場ではなくても、周りの声に振り回されて苦しんでいる人もいると思います。アンチやSNSのネガティブな言葉も乗り越えてきた美沙子さんとしては、そういう方が現状を変えるには何が必要だと思いますか?
青木(以下同) よく私が言っているのは、自分の人生なんだから、自分の好きなように生きていくべきということ。人に嫌なことを言われても、その人も自分の人生があるから、家に帰ったらそれを忘れてると思うんです。だからそんな人の意見よりも、自分の人生や意見を大切にして生きたほうがいいと私は思います。もっと、自分を大切にしてほしいです。
――周りを気にして、自分を置き去りにしている人が多いですよね。
自己中とか自分勝手っていうマイナスイメージのある言葉に縛られて、同調圧力にやられてしまうんですよね。同調圧力と自分勝手だったら、自分勝手を取ったほうがいい。自分の人生なので、人に迷惑をかけなければ、自分の責任のもとで、好きなように生きていこうっていうのが私のテーマです。

看護師でロリータモデルの青木美沙子さん
看護師を武器にして悔しさと戦ってきた
――「好き」を貫ける強さの支えになっている現体験はありますか?
ロリータモデルとして生きてきて、悔しいことしかなかったんですよね。大好きなロリータファッションの世間のイメージが悪すぎることが、すごくイヤだったんです。ロリータは品がないと思われていたり、別物なのに、ロリコンと混同している方も多くて。
20代の頃は、ロリータファッションの地位向上のために、看護師をしていることも武器にしながら、ロリータの魅力を伝えていくにはどうしたらいいのか考えて、いろいろやってきましたね。そういう悔しい思いが原点にあると思います。

看護師として勤務しているときの青木さん
――悔しさとか、逆境に燃えるタイプなんですね。
多分、そうだと思いますね(笑)。ロリータを着ているだけでけなされたりして、なんでこんなにイメージが悪いんだろうって。とにかくロリータが好きなので、文化としてしっかり伝えていきたかったんです。
厳しく心細いロリータ道
――すごく厳しい道だったのかなと思うんですけど、お仕事としてやられていく中で、大好きなロリータが嫌になってしまったり、距離を置きたくなることはなかったんですか?
なかったわけではないですね。ロリータはすごくニッチな業界なので、広げることは大変ですし、それぞれのプライドを持っているロリータブランドさんをつないだりするのも難しかったです。たとえば、ギャルファッションの業界だとモデルさん同士でタッグを組むイメージがありますけど、ロリータ業界では仲間も少なかったので。今もそうですけど、心細いロリータ人生だったと思います(笑)。

――孤独な戦いだったんですね。
ロリータファッションって着物と一緒で、敷居が高いと思われがちなんですよね。全身ロリータブランドじゃなきゃいけないとか、中途半端に着たらロリータの人に失礼なんじゃないかとか、こだわりの強いファッションゆえに怖がられるところがあって、私はそれがイヤだったんです。
だから、ロリータファッションのハードルを低くするために、しまむらさんとコラボさせていただいたりもして。プチプラロリータから、ロリータファッションに入ってもらいたいんですよね。

ファッションセンターしまむらとのコラボ
看護師×ロリータの二刀流
――お話をうかがっていると美沙子さんは、すごく戦略的ですよね。課題があったら、それを突破するにはどうしたらいいだろうってロジカルに考えて、行動に移してこられたのかなと思いました。
それって、看護師的な考え方なのかなと思います。看護師は、患者さんごとに、病気をどう治療していくかっていう関連図というのを必ず書くんですね。看護学生の頃から書いてきて染みついているので、その考えをロリータで実践してるところはあるかもしれないです。

看護師として勤務しているときの青木さん
――面白いですね。もし、看護師をやらずにロリータモデルの仕事だけをやっていたら、ここまでロリータ業界の課題に立ち向かっていなかったかもしれないですね。
そうですね。大谷(翔平)選手も二刀流で活躍しているし、今、いろんな仕事を持って視野を広げるのがいいとされていますけど、昔は看護師の同僚からネガティブなことも言われたんですよね。「看護師を極めないんですか」とか、「生半可な気持ちで看護師をやらないでください」って。でも今は、二刀流で仕事をしてきてよかったなってすごく思います。
常に1匹狼。生き方が誰かの支えになればいい
――人生のステージごとに使命感を持って仕事をされてきたと思うんですけど、これからの40代で、ロリータモデルとしてのお仕事でやるべきことは何だと考えていますか?
私、あまり目標は立てないようにしているんですよね。
とはいえ40代は、顔の変化が怖いなっていうところはありますけど(笑)。どこまでロリータが似合えるかっていうところにも挑戦して、限界を超えていきたいです。

――この先、後継者を育てたり、仲間を作ったりすることは考えていますか?
私、常に1匹狼みたいな感じなので(笑)。私に憧れる人もいないと思いますし、私の生き方がすごくよかったというわけでもないので、後に続いてほしいという気持ちはまったくなくて。自分の生き方を貫いていきたいっていう、それだけです。その結果、共感してもらえたり、誰かの心の支えになれたら、私はそれでいいですね。
好きを見つけるために「私なんて」を捨てる

――自分から年齢や私生活を理由に、好きを貫いたり、好きなファッションを封じてしまっている人もいると思います。そういう人が「好き」という武器を見つけるには、何が必要だと思いますか?
まずは、自分がママだからとか、何歳だからっていう考え方をやめるべきだと思います。私なんてロリータは似合わないとか、この歳でアニメを見るなんてとか、いろんな理由で好きを貫けないことがありますけど、そういう意識とか同調圧力を捨てて、自分の好きを見つけられる環境や時間を作って、挑戦してみることが大事だと思います。
人生で何かを始めるのに遅いことなんてない
――年甲斐もなく、みたいなことは思っちゃいけないですね。
そうですね。歳をとるのが怖いって思う人が多いと思うんです。劣化したとか、老化したとかいろいろ言う方もいらっしゃいますけど、それは人生を歩いてきた証なので。ただ若ければ価値があるんじゃなくて、年齢を重ねることも素晴らしいっていう考え方も持ってもらいたいですね。
人生で何かを始めるのに遅いことなんてないですし、何歳までって決められることもないので。自分の人生なので、自分勝手に生きてほしいと思いますね。
取材・文/川辺美希 撮影/杉山慶五



