
「闇バイト」の中でも特に世間を恐れさせているのが、タタキと呼ばれる強盗行為だ。半グレや準暴力団という用語ができる以前の1990年代からそのような犯罪行為に手を染めていたタタキ専門の男性が、屈強な外国人をさらう手口を話す。
証言:タタキ専門の山田氏
山田さんは、暴走族を卒業してから、いわゆるグレン隊のような活動をしていました。その組織創設メンバーの1人です。このグレン隊は、後に半グレと呼ばれ、2013年には、警察庁から準暴力団に位置付けられました。
山田さんの話を聞いていると、匿名の実行犯を募る現在の闇バイトの原型は、彼らが作ったのではないかと思えるほどです。伝言方式はアナログながら、非常に巧妙な方法でタタキの犯罪に勧誘しています。彼らのタタキのターゲットは、さまざまな事情から被害届を出しにくい外国人であり、犯罪など違法性の高い経済活動を行なう者に限定されており、一般人やお年寄りを対象にしていない点が、昨今の特殊詐欺グループとは異なっています。以下、山田さんの話を紹介します。
――山田さんは、まだ、半グレや準暴力団という用語ができる前から活動され、匿名の実行犯を使嗾していたとのことですが、当時は携帯なども普及していなかったから、難しかったのではないですか?
はい、1990年代の半ばは、確かに携帯は普及していませんでした。だからと言って、方法がないわけではないのです。夕方に、新宿やブクロ(池袋)の公衆トイレに電話番号を書いた紙を貼っておきます。「今晩、寝るところがない人、電話ください。即仕事あります」とか書いてですね。そうすると、公衆電話から電話が掛かってくるんですよ。
ここで、5000円だけもらってドロンする奴もいますが、やる気のある人間は「次は何をしますか」と、電話してくる。そこで、「□□駅のマンションの123号室のポストに入っている封筒を、どこそこのポストに入れてこい」という指令を出します。彼は5000円持っていますから、交通費に3000円を使っても、2000円で飯も食えるわけです。

――その封筒には何を入れているのですか?
何も入っていません。価値のあるものはね。これは行動チェックなんです。警察が尾行していないか、確認するわけです。そこで、その人間が、どこそこのポストに投函した段階で、第一テストは合格となります。
――第一ということは、第二テストがあるんですか?
はい。今度は、携帯電話を外国人になりすまして契約してもらいます。
第一テストをパスした人間に、この携帯を契約してもらうのですが、これが第二テストです。再び、自販機の裏に、今度は契約金と報酬を合わせて4万円を貼り付けておきます。電話で、「どこそこの旅行会社に行って――たとえば、ラモス・ルイという名前の外国人になりすまして携帯を契約しろ」という指示を出します。実際、当時はカネさえ払えば、旅行代理店で誰でも携帯をレンタルできました。パスポート等の身分証の提示を求められても、「部屋に忘れてきました」でオッケーなレベルでした。
このタイミングで、自販機のカネを取りに来た人間の写真を、手下の人間が撮ります。これが第二テストです。これにパスしたら合格となります。私らは、トバシ用の携帯と実行役が手に入るわけです。
このトバシ携帯を持たせた人間を4~5人集めます。
外国人を攫う方法
――半グレというか、組織のメンバーが面接するのですか?
うーん。面接者は、即席のメンバーか、こっちの人間か、それはケース・バイ・ケースですね。誰が首謀者か分かんなくして、さらに人を集めます。そして、チームを作るんですが、お互いは名乗り合わないようにする。携帯で話をしていて、段取りのいい奴がいると、そいつを班長にします。その班長には、集めた匿名者の中から四人を選んでもらって、5人1組のチームを作ります。そして、仕事のために車を手配するのです。レンタカーは足がつくので危険です。
実行犯の車と、納品受け取りの車は違います。受け取りの車は、運送会社のトラックを使います。昔は、運送会社の営業所に車のキーがありました。そのキーから事前に合いカギを作っておきます。犯行時にこの会社のトラックを使っても、夜に走行メーターが増えているから分からない。朝来た運転手は、朝のメーターを記録するだけですから、記録上、会社のトラックは昨晩から朝まで、そこにあったことになっています。絶対に足がつきません。
そして、いよいよタタキを実行します。
――ルフィの狛江事件のように被害者の家にタタキに入るのですか?
我々は、ちょっと違います。外国人専門のタタキです。

――外国人で、カネを持っているタタキの相手とは?
アジア系、泥棒稼業の人間とかがやりやすいですね。被害者になっても通報できないでしょう。犯罪を業としている。加えて、不法滞在者の可能性があるからですね。
彼らは、お金を持ったら繁華街に繰り出します。中華料理店とかに大人数で乗り込んで派手に騒ぎます。ボスが誰かすぐに分かりますから、路上で誘拐するんです。
パーソナル・スペースってありますよね。日本人や韓国人は、かなり近く、1メートルまで接近しないと振り向かない。しかし、中国人は2メートルで警戒します。ですから、前方から来る人間は、結構、距離を取らないといけません。前から来る人間に気づく頃に、後ろから来た人間が、そいつのベルトを摑みます。人間は、重心が浮くと力が出ない。パンチを打つにしても、ケリを入れるにしても、重心が大事なんです。
だから、ベルトを摑まれると、つんのめります。前後の人間で挟んで、「分かってんだろ」とか耳元で言うと、大体、自分も後ろ暗いことをしているから、大人しくなります。こっちも(洋服の)青山とかで買ったスーツを着ていますから、警察に見えるんですね。そのまま車に連れ込みます。
そして、目隠しして、縛り上げ、茶箱みたいな箱に押し込めます。そして、人間が入った箱をトラックの荷台に積み込む。これを「納品」と呼んでいました。実行犯が納品まで終われば仕事は終わりです。報酬は闇バイトというか、匿名実行犯に10万円を渡します。
恐怖心から何でも喋る
――人間を納品しただけではお金になりませんよね?
さらわれた人間は、縛り上げていますから、手下が、ちょっとした拷問を加えます。といっても、狛江のお年寄りをやったような手荒な拷問じゃないです。縛られて目隠しされていますしね、そこまでしなくても恐怖心から何でも喋ります。我々は、誰かに依頼されているような感じで話します。泥棒稼業で食っているようなボスなら、どこかで恨みを買っている覚えがあるでしょうから、勝手に邪気を回しています。尋問して、ヤサ(住居)を聞き出します。そしたら、ヤサにお邪魔します。

――そして、根こそぎ強奪するのですね。
いや、それは我々がするのではありません。普通に引っ越し業者に電話して、そのヤサの人間を装って引っ越ししたいと言えば済みます。その時は、近くにレンタル倉庫を借りています。荷物は、そこに運ばれるのです。10数万円払えば、引っ越し業者が荷物を分類してくれる。衣類は衣類のボックスに。皿や食器は壊れ物のボックスにね。ですから、ここで何も起きなければ、レンタル・ボックスに全てのモノが運ばれる手はずになっています。
レンタル・ボックスに運ばれたら、我々のメンバーが、それぞれの盗品を売り捌きます。売り捌き先は、生活用品ならリサイクル店です。ブランド品は、ブランド屋に買い取ってもらいます。これで、倉庫は空になる。
通帳や高級時計などの貴重品は、引っ越し業者が丁寧にも小さい箱に入れておいてくれます。そこで、もう一度、ボスをちょっと殴れば、暗証番号なんかチョロいもんで、すぐに教えてくれます。我々は、それを引き出して仕事は完了です。これで、1件三300万~400万円の利益が出ます。
たしかに、匿名の闇バイトの走りかもしれません。しかし、我々は、闇バイトに応募してきた匿名の人間には、納品までしかやらせてはいません。最後は、自分たちでやっていました。最後の詰めで、間違いがあるといけませんからね。
文/廣末登
写真/shutterstock
闇バイト 凶悪化する若者のリアル (祥伝社新書 683)
廣末 登

2023年7月3日
¥1,023
224ページ
978-4396116835
「闇バイト」がなくならないワケとは?
二〇二三年一月一九日、東京都狛江市に住む九〇歳の女性が自宅で殺害されているのが見つかった。女性の遺体には激しい暴行の跡が見られ、これまでとは次元の違う強盗殺人事件として世間を震撼させた。
本件をきっかけに注目を集めたのが、「闇バイト」といわれる犯罪だ。指示役に集められた素性のバラバラな集団によって行なわれる犯罪で、同種の事件は後を絶たない。
中でも詐欺よりも手っ取り早く稼げる「タタキ(強盗)」の増加が危険視されている。本書では、非行経験のある犯罪学者が当事者たちを取材。
闇バイトを取り仕切る半グレや犯人の更生に従事した保護観察官の声から見えてくる、その真実とは。最終章では、闇バイトを生み出す日本社会の闇を分析。失うもののない「無敵の人」を生み続ける構造に警鐘を鳴らす