2023年春に東京・渋谷で開催され、チケットが入手困難になるほど人気を博した考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』。100枚を超える怪文書が貼られているだけという異色の展覧会は、どのようにして生まれたのだろうか。
100枚以上の怪文書と解説から見えてくるストーリー
2023年3月に東京・渋谷で開催された考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』。2024年1月に大阪、3月に福岡でも開催予定
––––考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』(以下、怪文書展)は、どのような経緯で企画されたのでしょうか。
梨 私としては、渋谷でホラーイベントをやるということで株式会社闇からお声がけいただいたのがはじまりです。この時点で、会場は決まっていたんですよね?
高木慎太郎(以下、高木) そうですね。「マイラボ渋谷」という場所でやることが決まっていました。
梨 行ってみるとスクランブル交差点からすぐの立地で、その場所をうまく活用できたらすごくおもしろいイベントになるだろうと考えました。そこで、「怪文書」というモチーフを思いついたんです。
というのも、渋谷は壁や自動販売機などにグラフィティがよく描かれていたり、ステッカーが貼られていたりする街ですよね。その流れで、街の一角に不気味な貼り紙がバーっと貼られている光景をつくれたら、渋谷を歩く人たちを嫌な気持ちにさせられるんじゃないか、と。
–––会場はガラス張りになっていて、その一面に怪文書が貼られていましたね。
梨 そうなんです。展覧会を見に来た人だけでなく、通りかかった人も「なんだこれは」と二度見していたようです。
会場となった「マイラボ渋谷」
–––「考察型展覧会」とコンセプトを掲げていますが、これはどういうことなのでしょうか。
梨 会場には100枚以上の怪文書と解説があって、それを見るだけでもおもしろいんですが、断片的な情報を集めていくと何らかのストーリーが見えてきて、より怖くなる仕掛けをつくりました。
会場内には100枚以上の怪文書が貼り出された
会場で完結せず、考察することで怖さが深まる
高木 会期中は「#その怪文書を読みましたか」のハッシュタグをつけた考察や感想がSNSにたくさん投稿されて、長文で考察記事を書く人もいました。ただ観覧するだけでなく、会場を出たあとも考察したり、さらに情報を集めたりすることで、来場客の心に残るイベントになったのではないかと思います。
イベントでは、オリジナルの怪文書を制作できるスペースやA4サイズの怪文書を入手できる「怪文書ガチャ」も
梨 「考察」や「解説」というのは、ここ10年くらいの流行だと感じています。ただ、私としては「意味がわかると怖い」というだけのホラーにはしたくなくて。この展覧会も、意味がわからない不気味さがあり、考察して意味がわかるとまた違う怖さが味わえるように設計しました。
実際に足を運んでくれたお客さんの中には、「よくわからなかった」という方もたぶんいらっしゃると思うんです。でも、それはそれでよくて。「変な貼り紙いっぱいあって怖かった」という感覚だけでも、イベントを十分楽しまれたのではないでしょうか。
–––SNSなどで話題になったこともあり、開催期間中は大行列ができていたんですよね。
梨 正直、ここまで人が集まるとは思っていませんでした。日によっては入場まで6時間待ちだったそうで……。
高木 入場整理券を求めて毎日長蛇の列ができていたんですよ。東京会場では16日間で合計3285名が来場したんですが、女性の観客が6割を超えていたのが興味深かったです。僕が会場にいたときは、女性がすごくワクワクしながら怪文書を眺めていて、一緒に来た男性は戸惑っている、という光景もよく見られました。
書籍にして怪文書を全国にバラ撒く
–––梨さんの考える怪文書の魅力とは、どのようなところにあると思われますか。
梨 「怪文書」というものは100年ほど前くらいから出てきたのではないかと考えられます。政治的な主張であったり、個人に対する誹謗中傷だったり、内容はさまざまなのですが、共通点としては「支離滅裂な文章ではない」ということです。
書き手は、文書にして発信するべきだと思えるくらい重要なことを真剣に書いている。出版物など複数の人の目に触れてから出てくる文章にはない、個人の強い思いや独自の論理が展開された文章であるところが魅力だと思っています。場合によっては、既存の文法も超越した、その人ならではの文体で書かれていることもある。書き手の思考に直接触れられるところがいいですよね。
高木 展覧会では怪文書の説明として「怪文書:意味不明な主張をしている文章のこと。内容は誹謗中傷や被害妄想、非現実的なものが多い。ほとんどが根拠不明で誤った情報を元にしている」と書いています。
怪文書って一見意味不明なことが書かれている、不気味なものですよね。通常であれば笑い飛ばしたり、気持ち悪がったりするだけで通り過ぎるもの。でも、一連の怪文書を読み解いていくと、書き手にとっては真実であることを、切実に訴えるために書いていることがわかってくる。考察することで、自分たちは偏見を持って怪文書という情報に触れていたのではないか、と思えてくるんです。
–––今回、怪文書展が書籍として発刊されました。担当編集者の原沢さんは、なぜこのイベントを本にしようと思われたのでしょうか。
原沢麻由(以下、原沢) 私は怪文書展の会場に行ったら、整理券の配布が終了していて中に入れなかったんです。ガラスに貼り出された怪文書を外から見ながら、悔しがっていた一人です。そうした私のような、「怪文書展に行きたいけど行けなかった方に届け!」という想い……いや怨念を込めて制作しました(笑)。
梨 場としてのおもしろさを体験してほしい気持ちはありつつ、足を運べなかったたくさんの方にも届けたいという気持ちもあったので、書籍化できてよかったです。
原沢 はじめて見る方はもちろん、現地に行ったうえで怪文書を1枚ずつじっくり見たいという方にも満足いただけるのかなと。
梨 書籍は図録のようなもので、フルカラーですべての怪文書が見られるんです。展覧会は一部を除いて写真撮影がOKだったので、ネットには怪文書の写真がたくさん上がっているんですけど、本を手にとってみて「やっぱり紙は違う」と感じました。印刷などもすごくこだわっていて、質感が伝わってくるんですよね。ページとページの間から瘴気(しょうき)が立ち上る感じというか……「紙になってしまった」という印象を受けました。
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋
原沢 ただ再録するだけでなく、本として読んだときに怖く、おもしろく感じるような仕掛けも施しています。怪文書を日本中にバラ撒いてやろうという気持ちで作りました(笑)。
梨 ありがたいことに重版も決まって、続々と怪文書が量産されています。うれしい限りです。
インタビュー・文/崎谷実穂
その怪文書を読みましたか
梨、株式会社闇
2023年12月12日
2420円(税込)
A5判/128ページ
発行:太田出版
978-4-7783-1900-7
チケット即入手困難、渋谷を騒然とさせた伝説の展覧会、禁断の書籍化
展示された怪文書100点以上を大収録!
誰が、どこで、なぜ、この“怪文書”を書いたのか──
掲載されている「怪文書」は、全てフィクションである。
なぜこれほどしつこく忠告するかといえば、端的に危険だからだ。
──ダ・ヴィンチ・恐山
※この書物は普通ではありません
■怪文書(かいぶんしょ)
“ 意味不明な主張をしている文章のこと。
内容は誹謗中傷や被害妄想、非現実的なものが多い。
ほとんどが根拠不明で誤った情報を元にしている。”
──本当にそうなのでしょうか?
『その怪文書を読みましたか』刊行記念トークイベント in 大阪ロフトプラスワンウェスト
出演者 梨 , 株式会社闇・高木 , 背筋(リモート出演)
開催日 2024年1月21日(日)
開場日時 12:00 開演日時 13:00
会場 Loft PlusOne West (大阪府)
《会場チケット》
前売¥2,000 / 当日¥2,300(+drink)
会場チケットはLivePocket(https://t.livepocket.jp/e/e3g4m)にて発売中
《配信チケット》¥1,500
配信チケットはキャスマーケット(https://twitcasting.tv/plusonewest/shopcart/283663)にて発売中
※アーカイブは2月4日 22:00まで購入可/2/4 23:59まで視聴可能
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大阪展
場所 心斎橋オーパ 9F OPA GALLERY
開催日 2024年1月13日(土)~1月28日(日)
時間 11:00~21:00(最終入場20:30)
博多展
場所 hmv museum 博多
開催日 2024年3月16日(土)~3月31日(日)
時間 11:00~21:00(最終入場20:30)
料金 体験 1,200円(税込)
注意事項 土日祝日のチケットは日時指定制です。
平日券では入場できません。予めご了承ください。
WEB https://yomimashitaka.com/
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