
「ヤンキーがいつもスウェットを着ている理由は、リラックスしている=“ビビってねーぜオレは”のアピール」という説がXで話題となった。果たして、それは本当なのか? ヤンキーの服装に隠れる心理について、若者のファッションについても詳しい「smart」元編集長・佐藤誠二朗氏に解説してもらった。
部屋着っぽいダボっとしたスウェットのセットアップを身にまとって仲間と談笑する――なぜか街中で見かけるヤンキーたちは、全身スウェットであることが多い。
1月14日、Xで「ヤンキーはなぜスウェットで町に出るのか」について考察したポストが話題となった。
≪ヤンキーはなぜスウェットで町に出るのか、あれは「リラックスしている=ビビってねーぜオレは」のアピールと聞いて個人的にめっちゃ腑に落ちた。なるほど、例えば逆に日常的に防具をつけて歩いてると余裕がなく怖がってるように見える。リラックスしてる姿を見せることで強さをアピールしてるんだ。≫
続くツリーでは「家でくつろいでいるそのままの姿で町に出るということは、この町はオレの庭という縄張り意識のあらわれと見ること」とも指摘しており、どちらにせよ、余裕のある姿を見せることが、彼らにとって大事なのかもしれない。
このポストは3.2万いいね(2月7日時点)を超え、ヤンキーの服装をめぐって議論が交わされていた。

Xのポストは的を射ていた! ヤンキーの美学はスウェットの下に隠れたストイックさ
このポストの主張は、「的を射た考察」だと佐藤氏はいう。
「革ジャン、ヒョウ柄のシャツのように攻撃的な服装でガチガチにキメて周囲を威圧するよりも、スウェットのようにあえてリラックスした服装を着こなすほうが、かえって余裕があるように見えると考えるヤンキーは多いと思います。
さらに言えば、かっちりとしたスーツを着て仕事するという世間一般的な社会へのアンチテーゼとして、ダボっとしたラクな服装を好むという側面もあるでしょう。大人たちの既存の力関係にはまらず、自分たちを取り巻く周囲の力だけで生きていくという自信のあらわれがスウェットファッションであり、大多数のヤンキーの心理にはこうした思考が根付いているんじゃないでしょうか」
なるほど、“余裕を見せること”に加え、“社会に抵抗すること”という2つの要素がスウェットに表れているということか。ヤンキーたちの根底に通ずる独自のポリシーが垣間見えた気がする。

またヤンキーはポリシー以外にも、純粋にスウェットをファッションとして好む傾向もあるんだとか。
「ヤンキーといえば、ヘラヘラした雰囲気や態度といったイメージが先行するかと思われます。ですが、ヤンキーは身体を鍛えている割合が案外高く、実はマッチョで格闘技経験もあるような“隠れたストイックさ”が美学になっている場合も多い。
そう考えてみれば、全身スウェットの姿は、ガタイのいい体に合わせると、より肉体のラインが際立って強者感を装えるファッションになるため、ヤンキーの持つ美学をアピールしやすい服装になるのではないでしょうか」(佐藤氏)
1980年代からスウェットはヤンキーの嗜み? 今は“ゆるさ”に加え“ゴージャスさ”
気になるのが、ヤンキーの間でスウェットが流行りだしたのはいつごろなのかだ。
不良文化全盛期にあたる1980年代のヤンキーファッションとして、刺繍の入った特攻服、いかつい革ジャンといった服装のイメージを持っている人も少なくないだろう。
しかし、佐藤氏によると“スウェットを着るヤンキー”の定型が現れた時期は、それと同じ時期だという。ヒントになるのは“暴走族”だ。
「1980年代に全盛期を迎えた暴走族には、主に改造バイクに乗る『二輪派』とシャコタン車に乗る『四輪派』に分かれていました。二輪派は革ジャンや特攻服など攻撃性の高そうな服装で固めていた一方で、四輪派は女物のサンダルを履いて、全身スウェットやジャージを着るようなカジュアルな服装をする人が多かった。
80年代には四輪派の間で、子供服でおなじみの『ミキハウス』のスウェットが流行した時期もあったんですよ。現在のスウェットを着るヤンキーのルーツはその四輪派にあるのではないかと考えられます」

かつては子供服で有名だったミキハウスのスウェットが、いかつい見た目のヤンキーの間で流行していたというのはアンバランスで何とも不思議な組み合わせだ。ちなみに現在ではどういったブランドや着こなしがヤンキーに好まれているのだろう。
「最近ではストリートブランドやハイブランドのリラックスウェアを好んで着ているヤンキーが多い気がします。
――ヤンキーがスウェットを着ているという説の裏側には、彼らなりのプライドと美学が潜んでいるのであった!
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio