
夜職の象徴、キャバクラ。近年、その華やかなライフスタイルをSNSで発信し、インフルエンサーとして影響力を持つキャバクラ嬢も増えている。
意外!? 納税意識の高いキャバクラ嬢
鮮やかなネオンライトが灯る夜の街で、非日常の世界の形成にひと役買っているのが“夜職”である。キャバクラやスナック、ホストクラブ、性風俗など業種はさまざまだが、部外者からその内部は見えにくい。特にお金の事情については同業者であってもわからないことが多い。
夜職の場合、偏見も加わって「脱税してるんじゃない?」「変な経費使ってるんじゃない?」などと世間から懐疑的な目を向けられることもある。だが、脱税で世間を騒がせる業界はほかにもあり、納税していない夜職の店があるのも現実だ。
集英社オンラインでは全4回のシリーズで、夜職ならではの特殊な納税事情や、悲喜こもごものドラマを届ける。今年はインボイス制度導入後、初めての確定申告なので、領収書や経費の扱い、節税など、夜職以外の方も参考になることがあるかもしれない。
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※写真はイメージです(Shutterstockより)
夜職の象徴ともいえるキャバクラで働くキャバクラ嬢は、かつて水商売として後ろ指をさされたり、過酷な労働環境で精神を追い詰められたりすることもあったというが、現在は労働環境が整いつつあり、イメージも刷新されて偏見の目を向けられることも少なくなった。むしろ、華やかなライフスタイルをSNSで発信し、インフルエンサーとして影響力を持つキャバクラ嬢も増えてきた。
そんなキャバクラ嬢の主な収入源は、店からの報酬だ。業務委託契約で働く個人事業主であることがほとんどで、店が報酬を支払う際、所得税法第204条に基づいて源泉徴収が行われる。ここで天引きされた金額は、店が代わりに納税するということだ。
実際、数人のキャバクラ嬢に話を聞いてみたところ、「(還付金のことは)もちろん知ってるよ。税理士に相談して管理してもらってる」という回答がほとんどだった。店のママや経営者がキャバクラ嬢に税理士を紹介するケースが多いというが、これは当然の結果である。というのも、納税意識がないキャストは店にとって悩みの種だからだ。
店がきちんと納税していても、キャバクラ嬢自身が納税していなければ、税務署の調査を受けるリスクがある。当然、店としても確定申告をするようにキャバクラ嬢をうながす必要があるのだ。もちろん入れ替わりの激しい業界なので、店舗によってその方針が異なる可能性は大いにあるが……。
チップやプレゼントは課税される?
そして、キャバクラ嬢には、店の報酬以外に非公式の収入がある。気前のいい客からもらうチップやプレゼントだ。気になるのは、この臨時収入に税金がかかるのかどうか。風俗業・キャバクラ・ホストクラブといった夜職の案件を取り扱う税理士法人松本に見解を聞いた。
「客から直接もらった金銭や物品は、建前としては見返りを求めるものではないため、原則として贈与税の対象になります」
贈与税は個人から財産をもらった際にかかる税金で、受け取った人が申告を行なう必要がある。

財務省・国税庁
ここで問題になるのが、プレゼントの売却である。何人もの客を相手に、あらかじめ欲しいバッグやアクセサリーを指定してプレゼントを受けとり、ひとつだけ手元に残してほかはすべて売り払ってしまう。そうすれば、どの客にも「プレゼントありがとう」とアピールできるからだ。
キャバクラ嬢のこの常套手段はかなり問題がある、と税理士法人松本は指摘する。
「客からもらった高額なバッグやアクセサリーを売却した場合、所得税が課される可能性があります。また、売り先は質屋やオークションサイトが挙げられると思いますが、質屋の場合はその場で現金を受け取れるので、その即金性の高さから人気があります。
即金性はなくとも、売値を少しでも上げたいのであれば、オークションサイトのほうが適しているとも言えます。ただし、オークションサイトの場合、売却代金は『振込』となるので通帳に記録が残ります。自身でしっかり申告するか、専門家に相談することをおすすめします」
美容整形は経費になるのか?
キャバクラ嬢は個人事業者であることが多いので、当然ながら経費は発生する。経費として認められる代表的なものを以下にまとめてみた。
衣装代……キャバクラでの勤務に必要なドレスやアクセサリーなどの衣装代
美容関連費……ヘアスタイル、ネイル、メイクアップなどの美容費用
交通費……タクシーなど仕事への通勤にかかる交通費
携帯電話代……顧客との連絡に使用する携帯電話の料金
名刺代……顧客へ渡すためだけに使う営業用アイテム
接待費……顧客を接待するための飲食代
教育費・研究費……コミュニケーションスキルや接客技術を学ぶためのセミナー、講習会の受講料
「キャバクラ嬢という職業は、売上を上げるためには外見や仕草、接客コミュニケーションスキルへの投資が必要である」ということが合理的に判断されていることがわかる。
美容関連費が経費として計上できるのもキャバクラ嬢ならではだが、彼女たちの中には美容整形によって美しさを手にする女性も数多くいる。果たして、美容整形は経費になるのだろうか?
ルッキズムが叫ばれる世の中ではあるが、キャバクラではいまだに美人であれば指名が増えて人気も出る。そんな彼女たちが美容整形をするのは、必要経費に当たるのでは?
実際、数人のキャバクラ嬢に話を聞いてみると、「整形してきたんですよ」「W先生?」「当然ですよ」と、病院ではなく執刀医の名前を挙げて整形談義に花を咲かせるほど、実にあっけらかんとしていた。
そうなってくるとやはり経費として認められそうな気もするが、現実は、美容整形が経費として認められる可能性は極めて低いという。裁判で美容整形の経費性を争った事例もあるが、キャバクラ嬢の主張は通らず、美容整形は経費として認められなかった。税理士法人松本の見解は以下の通りだ。
「美容整形の効果がキャバクラ嬢という職業に留まらないからです。女性が美しくありたいのは当然ですが、『事業を辞めたとしても、美容整形した顔を元に戻すわけではない』と税務署が指摘し、キャバクラ嬢の美容整形費用に合理性はないと判断したケースがあるのです」
インボイス制度で何が変わる?
さて、今年はインボイス制度導入後、初めての確定申告となる。この制度が導入され、“売れっ子”キャバクラ嬢の概念が変わった。
これまで売れっ子と呼ばれるキャバクラ嬢と、そうでないキャバクラ嬢とを税金面でわけていた境界線は「売上1000万円」だった。売上が1000万円を超えると、「消費税課税事業者」となり、消費税を納税しなければいけなかったからだ。
逆に売上が1000万円以下の場合、消費税の納税が免除されていたが、インボイス制度が導入されてからは違う。

そして、インボイス制度導入後、経費に関しても“ある変化”が生じている。
前述のとおり、キャバクラ嬢は美容院代やヘアメイク代を経費として計上できるのだが、このあたりは美しさを原資とするキャバクラ嬢にとって必要不可欠である、と税務署も判断してくれる。
ただし、インボイス制度導入後は、美容院やヘアメイクなどのサービス提供者側もインボイス発行事業者であることが通常、要求される。一方、免税事業者からのサービスの場合、経費計上は可能でも仕入税額控除ができない。つまり、所得税法上の経費にはなるが、消費税法上の経費にはならないのだ。
税込1万円未満の課税仕入れに関しては、少額特例によってインボイス未登録でも帳簿保存で仕入税額控除が認められる。つまり、税込1万円以上の支払いの場合は、相手がインボイス登録事業者であることが、自分の消費税の負担を減らすための条件になるのだ。
取材・文/丸山ゴンザレス 取材協力/税理士法人松本