
5月18日、結成16年以上のコンビが漫才で頂点を競う「THE SECOND」(フジテレビ系)のグランプリファイナルが行なわれた。2年連続で出場した金属バットは優勝したガクテンソクに準決勝で惜敗。
—THE SECONDグランプリファイナルの面々をみると、やはりみなさん残るべくして残った方ばかりだなと思いました。
友保 そうですね。終わり人間たちが残りましたね。
—お二人は東京の芸人さんをよく知ってますし、東京の芸人さんからも金属バットにはリスペクトがあるなぁと思います。
友保 いや、俺らもリスペクトありますし、そうやってお互いが足を引っ張りあってんですよ。
—リスペクトという名の足の引っ張り合い(笑)。
小林 誰か売れそうなったらすぐ引っ張る(笑)
—しかしファンの方にとっては複雑かもしれないですね。金属バットが優勝したらよりいっそうチケットが取りづらくなるかも……と。
友保 なんや言われましたよ。ライブ終わって外出たら昔よく来てた人が座ってて。「お久しぶりです」って言うたら「変わっちゃった」「金属バット変わっちゃった」。
—集英社オンラインの連載もスケジュール抑えられなくなったら、うらめしそうな顔で出待ちします。
小林 こわいよ(笑)。
友保 でもこれ以上忙しくなるのいやですよ。もっと寝たいもんな。今日6時50分に起きましたけど、目にうつるもん全部ムカついた。あんな時間起きたくないわ。
—たとえば俳優さんなら、1か月どこかのロケ地でぎゅっと働いて、そのあとがっつり休んだりされますが、そっちのほうが魅力的ですか?
小林 その1か月のフル稼働が嫌やな。
友保 やっぱ週2、3働いて月給200万円でいいっすわ。
—単価を上げる以外に仕事のモチベーションってあるんですか。がんばろうという気持ち。
友保 がんばらないですよ。
—賞レースがあるとドキドキを味わえる分、でも漫才ってそもそも競い合うものなのだろうかとも思うのですが。
友保 そう言いますよね。おのおのが楽しくやってるのがいいと。そんなわけないですからね。奪い合いやねんから。
—おお。
友保 シシガシラの浜中の話知ってますか? あいつおもしろいじゃないですか、シシガシラ。おもしろいってなって出番が増えて、浜中がちょっとええところに引っ越したらしいんですよ。で、引っ越した瞬間、大阪からいっぱい芸人がきて、あいつの出番がなくなって。
—ああ。
友保 そんで後輩にも借金するようになって、もう死ぬってなったときにM-1決勝で持ち直して。やっぱ奪い合いなんですよ。さや香とかヘンダーソンとかイナゴの大群ですよ。
「M-1にTHE SECOND優勝コンビ枠を!」
—担当編集が「THE SECONDで優勝したコンビはM-1にも出られる」というレギュレーションはどうかと言ってるんですけど。
友保 あかんあかん、邪魔しちゃあかんて(笑)。ジジイが邪魔しちゃあかん。あれはキラキラした大会なんですよ。
—「M-1決勝、続いてはTHE SECOND優勝の金属バットさんです!」って紹介される(笑)。
小林 最下位になって「そらみたことか」と(笑)。
友保 「70、72、71、80」(笑)。キラキラしたM-1に対して、見てくださいよセカンド。クーピーペンシルやったら2色ですよ。おっさんばっかり。
—THE SECONDの採点システムはどうですか。納得のいくものですか。
友保 俺はいいと思いますよ、客のせいにできるし。ただ俺は犬でもいいと思ってる。犬、吠えさせたら勝ち。でもそれだとランジャタイの伊藤ちゃん出た瞬間に犬が暴れ出すな。
小林 そしたらあれや、猟銃持ったガクテンソクのよじょうさんが登場する。
—今までの取材の中でもたくさん芸人さんのお名前やお話が出てきましたけど、やめていった芸人さんも多いですよね。お二人の中で「この人たちTHE SECONDで見たかったな」という方はいらっしゃいますか。
友保 鳥溶岩さんですね。むっちゃ仲よかったんで。
小林 ミスドで『孫子の兵法』読みながらネタ作ってた。
—今は何されてるんですか。
友保 コンビやったんですけど、どっちも551蓬莱で働いてます。
小林 今同じ店で働いてますね。(大阪)十三の551。
友保 店長が木村さんやろ?
小林 そう。できないほうが店長やってる。
友保 前田さんのほうが頭まわるほうなんですけど、ラクしたいから店長やらない。
—おもしろくてもやっぱり続けることは難しい。続けられる人とやめる人、何がそこを分けるのでしょうか。
友保 鳥溶岩さんは解散してもうたんでね、あれが痛かったな。売れるっての決めてあかんかったから解散しようと。そんなん決めんとやればよかったのに。でも人生設計的にやめたんでちょうどよかったんやろな。
小林 あと1年あったら……たぶんその次の年からM-1の動画配信が始まったから。
友保 まー、そこで盛り上がったとてね。あの人ら気ぃついてたからさ。木村さんあれでやめはって、結婚してバブ(子ども)生まれて、家も建てて。合うてるんですよ。
出番の合間に「ちょっと風俗行ってくる」と言って出た瞬間…
—芸人をやめても店長にのぼりつめて、家庭も築いて。
友保 人間がよかったんでね。あとはポピー藤原さん。ポピーはんなんかちょいちょい一緒に過ごしてましたけど今はほぼやめてはって。お世話になったもんな。
小林 ポピーさん、あと寺岡(直樹)さん。
友保 寺岡さんもそうやな。ポピーさんは昔、ザ・ツタンカーメンズっていうコンビ組んではって、東京行かはってな。大阪帰ってきて結婚しはって赤ちゃん生まれて一軒家建てて、すごい幸せ。去年俺らがセカンド行ったとき、ポピーさんからLINEきて「おまえら何時くらいに出んねん?」って。「トップなんで7時15分ぐらいです」言うたら「わかった、それまでに子ども風呂入れとくわ」と。
—なんか、いいですね。
友保 昔クソやったもんな、ポピーさん(笑)。
小林 えへへへ(笑)。
友保 朝と昼2発あるインディーズライブがあって、朝ポピーさんも一緒にバーって出て、昼までちょっと時間がある。3時間ぐらい空くんですけど、ポピーさんが「ちょっと行ってくるわ」と。「どこ行くんすか?」って聞いたら「ちょっと風俗行ってヌいてくる」言うて、出た瞬間、雨降ってきた(笑)。
小林 確か一年で一番降った日やった(笑)。大雨。
友保 エクストレイルっていう車乗ってるんですけど、セ●クストレイルって呼んでた(笑)。あとは誰やろ。
小林 八田荘。
友保 ああ、八田荘やな! 同期で、それこそ(大阪)堺出身ですよ。
小林 一人は高校も一緒。むちゃくちゃおもろかったよな。
友保 2014年くらいで東京行ったんですよ。(ななまがり)森下さんが住んでた、ぺらっぺらパラッパラッパマンションに住んでたんですけど、鈴木ってほうが。で、東京行って、おもろかったですよ、ずっと。下北で単独やるっていうから見に行ったりして。一回泊まったりしたよな。俺ら2018年くらいに単独東京でやった時にその八田荘の鈴木の家に泊めてもうてん。
小林 東京行って、大阪帰ってきたときに大阪でライブやったんですけど、そのとき印象的に覚えてんのが「東京はいかにおもんないことをやるかや」って言ってた。
「やめるほうが度胸ある」「俺らは損切りできない」
友保 それが間違った。それが違うかったんや(笑)。今はけん玉して社長に気にいられて香港行ったとか。すごい人間力強いんで、岩野ってやつが。アホやけどめっちゃええ。そこでちょっとズレたよね。ネタはほんまおもろかったよな。
せや、鈴木とは家も近いし仲もいいし、よく会ってたんだけど、あいつがエストレヤっていうバイク乗ってたんですよ、カワサキの。そんで東京行くってときに「バイク持ってかれへんな」言うてて、わしバイクなかったんで「じゃあ俺にくれや」「無理無理」って言われたのは「死ね」と思いましたね(笑)。
ちょっとざまぁみろがあるんですよ。家にも泊めてもうたし、世話もしてもうたけど、あいつは俺にエストレヤくれんかった。
小林 いやいや売るやろ、東京で金かかんのやから(笑)。
友保 いやよこせよ(笑)。あれもあったな、(東京)沼袋でインディーズライブあって、トムブラウンとか一緒に出てて。終電逃してみんなで外で飲んでて、雨降ってきて、じゃあ帰るかって。俺そのとき小銭持ってたんで、じゃあ鈴木と一緒にタクシーで帰るわって。俺は新宿泊まりで、あいつはもうちょい奥で、俺が先に降りて1万円渡したんですよ。「今度返すよ」って言われたけどまだ返されてない。バイクもくれんかったし。
—まだ芸人は続けてらっしゃるんですか?
友保 やめて、裏方やってる言うてたっけ。いや、やってりゃあね…でも賢いんですよ、あいつら。俺らは臆病もんやから、ただただ現状維持を保とうとしてる。じわじわ死ぬドジョウのほう、豆腐に突っ込んでいくほう。
—M-1グランプリ2023準優勝のヤーレンズさんも「やめる人のほうが賢い」って言ってました。
友保 度胸あるんですよ。俺らはどんどんお湯が冷めてって、最後風邪引く。気づいたらちめたなってる(笑)。賢いやつはぬるなってきた瞬間上がって、すぐ体ふいて終わる。
小林 俺らは損切りできない。
—そんな中で、THE SECONDという大会の意義は……。
友保 ひどい大会ですよ。風呂から上がらさんようにしてる。「ひょっとしたらあったかくなるかも」と思わせる。甘デジ追い炊き機能。よくないですよ。M-1あかんかったらやめたらええのに。
—芸人さんが賞レースに左右されるという現状は、どう思われますか。
友保 食えるスジがありゃあな、続けりゃええけど。地獄ぐらい売れてない先輩もいっぱいいるんで。
—お二人は地獄までは行ってなかった。
小林 地獄っすよ。
友保 地獄に鼻までつかってましたけど、俺らエラ呼吸できたんで生き延びることができました。
金属バットはなぜ芸人をやめなかったのか
—金属バットはなぜやめなかったのか。
友保 今さらやめたかてね。ほら、長寿漫画ずっと買ってるやつおったじゃないですか。そういうやつなんかホンマは120巻からほしくなかったでしょ。
小林 もしかしたら60巻くらいからほしくなかったかもしれない。
友保 賢いやつはね、マンモス西なんですよ。マンモス西はすぐ上がって、ノリちゃんと結婚した。僕らあしたのジョーでもないし、誰なんやろ。ああ、ウルフ金串といっしょっすよ。アゴ割られて、用心棒なって。
—THE SECONDでジョーになるお気持ちは。
友保 マジでぼちぼちでええですわ。めんどくさい。夜寝たいし朝起きたくないんですよ。割り切ってる人もいるんですよ、かまいたちさんとか。ダイアンさんとか。今「ばっと行け!」って。俺らしたないもんなぁ。
小林 休みあると不安なタイプの人もおる。
友保 (笑い飯)哲夫さんとかもそうやな。くまだ(まさし)さんとか。
小林 (銀シャリ)鰻さんもそう言うてた。
友保 休みなんかほしいもんな、マジでラッキー。昔会社に絶対に連休くれ言うて、毎週2連休もらってたんですけど、連休二日目の夜に「仕事したくない」って思いすぎて次の日仕事行っても仕事したくなくて、たぶんこれしてたら一生仕事したくなくなる、沼に沈んでまうって思ってそのシステムやめました。
—そう考えると、やはり担当編集が言っていた「結果、準優勝が一番いい説」なのでは。
友保 でもそれだとネタ3本捨てなあかんからな~。だからほんまに2本目のめっちゃ盛り上がってる瞬間に雷落ちてなんやわからなくなるのが一番いいですね(笑)。
取材・文/西澤千央 写真/高木陽春 Peta Photo Studio