
「主体的に働け」と会社から言われたところで、優秀な上司がいるなら、その指示に従っていたほうが安全だ。あるいは職場によっては主体的に動くことで敵を作る場合もあるだろう。
『中間管理職無理ゲー完全攻略法』より一部抜粋・再構成し、130%の売り上げアップに繋がった会議運営術を伝授する。
〈問題自ら考え行動する部下がいないため、リーダーである自分が指示出しと確認に追われる日々
チームのこと、売上げのことを考えて、行動に移しているのはいつも自分だけ。どんな敵が現れても、メンバーはただ見ているだけ。指示を出せばその通りに動いてはくれるものの、自走できる部下がいない。
自分がいなくても機能するチームにするにはどうすればいいのか。
〈解決法〉部下が自分で考えざるを得ない機会を作る
部署のトップではなく、二番手、あるいはそれ以下のポジションの人間だけで思考し意思決定する会議を開催することで、いやでも自分の意見を持たざるを得ない状況を作りましょう。定期的に開催することで、次第に自分で考えること、持論を持つこと、行動することが当たり前になっていきます。
「主体的に動きなさい」といくら言ったところで、優秀な上司がいるなら、その指示に従っていたほうが安全です。そうではなく、自動的に動かざるを得ないよう仕向けることで、自然と主体性が身についていきます。
〈解説〉
ある取り組みによって、部下の発言を6倍に増やし、売上げを130%に伸ばすことに成功した小売チェーンがあります。この企業は、複数の店舗で優秀な店長一人で売上げを支え、部下がなかなか育たない、という課題を持っていました。
変えたのは、会議の参加者とやり方です。どう変えたのかというと、近隣4店舗の二番手の人材、つまり副店長だけを集めて定期的に会議を実施したのです。主な議題となったのは、プライベートブランド(PB)商品の販売戦略です。
各メーカーが全国展開するナショナルブランドは、テレビCMなどの販促に力を入れている分、広く認知され、価格も高くなります。逆に、小売店や卸売業者が展開するPB商品は、あまり販促費をかけない代わりに、コストパフォーマンスが高いことが多いです。
ただ、販売店側としては、PB商品は、知名度がない分その魅力を充分に説明しないとなかなか売れない、腕が問われる商材です。このPB商品をいかにして売り伸ばすか。ここをテーマに、「二番手会議」を月に1回、開催したのです。
結果としては、この会議によって、前年同月比の売上げが全店平均98%のところ、この4店だけが130%の売上げとなったのです。なぜこんなに伸びたのでしょうか。
従来は、その店のトップである店長が一人で考え、スタッフに「こういう施策をしよう」と伝えていました。そして、その施策が奏功しているかどうかを店長が整理し、全体会議で他の店長やスーパーバイザーに報告する、という構造でした。
ところが、二番手同士で会議をするようになると、これまで店長任せだった副店長が、「自分で」会議で話すことを考えなければなりません。その内容は、新しい販促の施策であったり、その反省や効果であったり。
その結果、会議では「この取り組みをしてみようと思うんだけど、どう思う?」「この接客トークでこんな反応が得られました」「あと○日で締め日だから、○×をやってみようと思ってます」といった発言が多く見られました。
こうして、それまで出席していた会議と比べ、発言する機会が約6倍に増えました。そして、さまざまな施策にトライ&エラーをくり返していくうちに、売上げ増につながったのです。
発言の機会が6倍に増え、売上げが130%に伸びた
この二番手会議での発言をすべて記録してまとめたのが、下記の図です。会話のボリュームが大きい話題は、円が大きくなっています。1回目の会議では、発話のほとんどが、司会による進行でした。しかし、2回目の会議では、参加者の発話がグンと増えました。
会議で1ヵ月の振り返りを話さなければいけないことがわかっているので、それまでの間に取り組んだことをまとめたり、課題の洗い出しをしたり、次の打ち手を考えたりと、準備するわけです。
大きな変化が起こったのは、3回目の会議でした。
「自分の店舗はこうだけど、○○店はどうですか?」といった別の店舗への質問が、1回目はゼロ、2回目は5.7%だったのに、3回目には、12.7%にまで増えたのです。
自店の取り組みに関する報告だけでなく、自店でうまくいかなかったことについて、能動的に他店に聞いてみる。
こうしたやりとりを重ねたことで、会議における発言機会が6倍に増え、130%の売上げ増につながったのです。
この二番手同士の会議では、「彼ら自身で数字を見て、行動を振り返り、他のスタッフにその結果を伝え、そして他店の二番手たちと次なる施策を話し合う」という自律的に動かなければ機能しない機会を創出したわけです。
発言の機会が6倍に増え、売上げが130%に伸びた。これは、リーダーである店長が奔走して作った結果ではなく、会議の制度を作ったことで、部下が自走して出した結果です。これと同様のことは、二番手以降のスタッフにも応用できるはずです。
今回、PB商品の売上げ増加というミッションを課しましたが、ポジションに応じたミッションを課した会議を設けることで、自走する部下、自走する組織は作れるのではないでしょうか。
図/書籍『中間管理職無理ゲー完全攻略法』より
写真/shutterstock
中間管理職無理ゲー完全攻略法 (CCCメディアハウス)
中谷一郎
ストレスフルな中間管理職業務。長時間労働も根性論も通用しない時代に彼らを救う、発想の転換法と工夫の凝らし方を伝えます!
今、中間管理職が辛い。いくらあっても足りない時間、いくらやっても終わらない業務、入れれば抜けていくチームメンバー。労働人口が減っていき、労働基準法により、より短時間成果を出すことを求められるようになるこれからの時代、もう「長時間労働」にも「マンパワー」にも頼れない。彼らが取り組んでいるのは、クリア困難な「無理ゲー」だ。
本書では、マクドナルド、ドトールコーヒー、松屋、31アイスクリーム、スギ薬局、ゴルフパートナーなど、名だたるチェーンストアの中間管理職員の動作分析を通じて、収益・生産性改善に寄与してきたオペレーション調査会社の社長である著者が、これら無理ゲーの攻略のためのTipsを、Q&A形式でわかりやすく紹介する。中間管理職の無理ゲー攻略の鍵は、思い込みや企業・業界の慣例に捉われずに、客観的・定量的な着眼点を身につけること。そして誰もが等しくゲームクリアできるような仕組みを作ることにある。