
2003年の発売以来、“飲むアイス”として唯一無二の存在感を放つ「クーリッシュ」。当初は目新しい商品だったが、ロングセラーに至った理由はその独自の企業努力にあるという。
「爽」の開発ノウハウを活かしたクーリッシュ
クーリッシュが発売される少し前の1990年代後半、バブル崩壊後の不景気や、大容量競争の煽りをうけ、アイスクリーム市場は下降傾向にあった。
ロッテにおいても苦戦を強いられ、当時はアイスクリーム事業から撤退することも考えていたという。
当時の開発者たちいわく「まさに剣が峰、今までにない商品を作って一発逆転を狙うしか生き残る道がない!」という状況だった。
「当時のアイスクリーム市場には、“氷菓”とアイスクリームやソフトクリームなどの“クリーム系”しか存在せず、2つを組み合わせた商品はありませんでした。そんななか、アメリカの西海岸で流行っていた『スムージー』をロッテ創業者が現地から取り寄せ、商品開発のヒントにしたんです」(株式会社ロッテ クーリッシュブランド課 課長の平井翔大、以下同)
そのヒントから誕生したのが「フロネージュ」という抹茶やコーヒー味の商品だったが、まったく売れずに終売となってしまう。
この一件を受け、ロッテは原点回帰として“王道のバニラアイス”を作ろうと調査を開始。なかなか光明を見いだせない中、唯一中高生男子からはシャリシャリとしたバニラアイスの評価が高いというデータを発見、それをもとに、1999年に「爽」が開発された。
「『爽』の大ヒットを受けて、次に私たちが着目したのは、アイスクリームの素材と食べるときの温度でした。通常のアイスクリームはマイナス15度、ソフトクリームはマイナス5度で提供されますが、『その中間のマイナス8度でシェイクのように飲むことができるアイスクリームを作ろう』という話になりました。
そして、主にゼリー飲料に使用される『チアパック容器』を採用し、“いつでもどこでも飲めるアイス”として2003年に誕生したのが『クーリッシュ』でした」
売上が激減… 見事V字回復を果たした理由とは?
2003年の発売以降、驚異的なペースで売上を伸ばしていたクーリッシュだが、その勢いは徐々に失速し、2008年には2004年※の売上の約4分の1にまで減少してしまう。
その主な要因は、パッケージを手に取った際の過剰な冷たさや、吸い込んでもすぐにアイスが出てこないといったユーザーからの明確な不満だった。※2004年に全国発売したため同年を売上の基準とする
「この状況を打破するべく、2007年には冷たさを軽減するためにパッケージの内側を断熱性フィルムに変え、翌2008年には吸い口のストローを短くし、直径を大きくして改良しました。さらに2009年は、内容量はそのままに容器をスリムにして持ちやすさと揉みやすさを追求。
また、2016年にはキャップを大きくして子どもでも開けやすい工夫を施した。
加えて、中身についても「2021年6月に新配合の特許を取得したことにより、アイスがほぐれやすくなりました」とのことだ。
「子どものころ以来、ひさしぶりに飲んでくださった方からは『容器が冷たすぎず持ちやすい』『こんなにキャップ開けやすかったっけ?』『揉んだらアイスがすぐにほぐれる!』など、昔の不満が改善されていて感動したという声を多くいただいています」
2016年にはCM効果なども相まって前年比120パーセントを達成し、さらに2017年、2018年と売上は順調に伸び続けた。
コロナ禍でまたピンチになるも、さらなる工夫で売上回復
V字回復を果たしたクーリッシュだったが、コロナ禍での外出規制により、またしても悲劇が。
ほかのアイスクリーム商品と比較してコンビニでの販売量が多かったことから、再び売上も苦戦。
その打開策として、このフローズン×チアパックの形態を活かした新たな取り組みに挑戦。アソートタイプやアルコールが入った「クーリッシュ フローズンサワー」や乳製品ではない「植物性ミルクのクーリッシュGreen」など、これまでにない切り口の商品を増やしていった。
「コロナ禍では、とにかくチャレンジすることを目標にしていました。そんななか、お客様から『夏は暑いから買うけど、冬は寒いから買わない』と言われることが多く、気温の影響をよくも悪くも受け過ぎてしまうという問題に直面しました。
そこで、季節ごとに氷のサイズや味わいを変えて発売。春と秋はこれまでどおりの氷で、夏は大きい氷を使用してよりシャリシャリとした食感に、冬は氷を細かくして濃厚な味わいを楽しめるようにしています」
現在では夏バージョンが6月から8月中旬ごろまで、冬バージョンが10月下旬から12月ごろまでの販売となっている。こうした取り組みもあって、2023年時点の夏と冬の売上はいまだに夏の需要が高いものの、ブランド全体の売上は底上げされている。
ここ数年は売上右肩上がり! 目指すは「飲むアイスイーツ」
2003年の発売以来、売上の落ち込みなどの困難に直面しながらも、さまざまな発想の転換や企業努力でこれを乗り越えてきたクーリッシュ。
「コロナの影響はあったものの、ここ数年は毎年数十パーセントずつ売上を伸ばしていて、供給が追いつかない時期もあるくらいです。これからも年間を通して買っていただけるように、単なる“飲むアイス”で終わらせず『飲むアイスイーツ』として、日本だけでなく世界中の人々に選ばれるブランドを目指していきます」
春夏秋冬、いつでもどこでも楽しめるクーリッシュ。アイスという枠に捉われず、世界中から愛される“ジャンルとしてのクーリッシュ”を目指していってほしい。
取材・文/西脇章太(にげば企画)