
現代のコミュニケーションは、LINEやメッセンジャーなど文字ツールが主体となって行われている。しかし、そのせいで「電話が怖い」「電話が苦手」という人が近年増加傾向にあると産業カウンセラーの大野萌子氏は指摘する。
『電話恐怖症』 (朝日新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。
電話への恐怖をやわらげる段階的暴露法
電話への恐怖はいろいろあります。
電話機に慣れていなくて、電話機そのものが苦手な人もいれば、かけるのがこわい人、受けるのがこわい人、電話でクレームを言われたり、言われたことの理解ができなかったりするのが嫌な人などさまざまです。
いずれにしても、電話恐怖症の人は電話そのものに苦手意識を持ってしまっているので、まずは電話というツールに慣れることが先決です。
ツールに慣れるには「段階的暴露法」という方法があります。
少しずつ対象に慣らしていくというもので、たとえばエレベーターに乗れない人が、最初はエレベーターの前まで行って戻る。それをくり返して、大丈夫になったら、今度は扉が開くまで待っている。
扉が開いても大丈夫になったら、今度は乗ってすぐ降りるをくり返します。それができるようになったら、いよいよ一階上までエレベーターで行ってみる。
そのようにしてエレベーターに慣れていくのが「段階的暴露法」です。
電話の場合だったら、家庭内で電話機に慣れる練習をするといいでしょう。
固定電話の親機と子機を使ってもいいですし、固定電話がなければ携帯電話で違う部屋からかけてもらってもいいでしょう。
まずは家族や気心の知れた友人に電話を鳴らしてもらいます。着信音が鳴ったら、電話に出る。最初は出るだけ。すぐ切ってかまいません。鳴ったら出てすぐ切る。鳴ったら出てすぐ切る。
着信音に慣れてきたら、次は電話に出たあと、ひと言言って切ります。
「もしもし」でも「こんにちは」でもかまいません。それにも慣れたら、少し電話で話してみます。そうやって少しずつ段階的にできるハードルを上げていくのです。
その方法が難しければ、新規の美容室やレストランに問い合わせの電話をしてみるのもいいでしょう。万一、電話で何か失敗しても、そこには行かなければいいだけなので、気が楽です。
コールセンターや電話相談窓口に電話してみるのもいいでしょう。
今はメールやチャットで問い合わせができますが、そこをあえて電話してみるのです。コールセンターや電話相談窓口は丁寧に応対してくれるので、やりやすいと思います。
「少しお待ちください」と言われたときには、「ではかけ直していただけますか」と一度電話を切って、向こうからかけてきてもらうのも練習になります。
電話が苦手な人は、自分に電話がかかってくること自体、少ないと思うので、なるべく人からかけてもらうような状況をつくりましょう。
電話が苦手な部下がいたら
友達とのやりとりを、LINEなどのSNSではなく、電話にするのもおすすめです。
また固定電話に慣れていない人は、会社の固定電話を使って内線にかけてもらったり、連絡もメールやチャットではなく、内線電話を使ったりするといいでしょう。
電話が苦手な部下がいたら、ふだんはメールでやりとりする報告を1日1回は練習のために電話にしたり、欠勤の報告は必ず電話にしたりと、無理のない内容やタイミングで電話を使う取り決めをしておくといいと思います。
ツールに慣れるのが目的ですので、とにかく場数を重ねてください。
私も今でこそ、平気で電話をかけたり、受けたりしていますが、社会人になりたてのころは電話が大の苦手で、会社に行くのが憂鬱になったこともありました。しかし、場数を踏むうちに慣れてきました。
そのうち電話相談で理不尽なクレーマーにも平常心で立ち向かえるようになったのですから、誰でも電話の恐怖は克服できます。
電話を毛嫌いせずに、日常使いできるように場数を踏んでみましょう。
着信音を工夫する
電話がこわい人は、電話の着信音が鳴っただけでドキッとします。恐怖心はそこからもう始まっているので、着信音を工夫するといいでしょう。
知り合いは、一時期電話に出るのがこわくなったことがあったのですが、ものすごくコミカルな着信音に変えたところ、着信音が鳴るたびに愉快な音が聞こえ、恐怖心が少しやわらいだと言っていました。
着信音は種類がたくさんあるので、いろいろ鳴らしてみて、自分が一番恐怖を感じないものに変更するのがいいと思います。
また着信音は音量を変えられますので、電話が鳴るとドキドキする人は、一番小さな音にする方法もあります。
携帯がブーと震えて鳴るのがこわい人もいましたが、そういうときはバイブレーションをなくすなど、自分の恐怖が軽くなるパターンを試すことです。
ちなみに私は固定電話も携帯も思い切って消音にしています。
家で仕事をしていて、集中したいときやオンラインで収録があるとき、最近は、固定電話に重要な案件がかかってくることはないので、電話線そのものを抜いてしまいます。
電話がかかってきたのがわからなくても、着信履歴を見て、あとでかけ直せばすみます。少なくとももう5年以上、バイブレーションもなしの完全な消音にしていますが、まったく問題はありません。
文/大野萌子 写真/Shutterstock
『電話恐怖症』 (朝日新書)
大野 萌子 (著)
「人に聞かれるのが嫌で職場で電話ができない」――。
近年、電話が原因で心身症状が現れたり、
仕事に支障を来したりする若者が増えているという。
その心理的背景を豊富な事例で解き明かす。
Z世代の理解の一助にもなる一冊。
電話が嫌いでたまらない人へ、今日からできる克服法を伝授します。
大丈夫、きっと治せます。