
キン肉マン原作45周年、アニメ化40周年を記念した『愛と絆の原画展』が、2024年8月「池袋サンシャイン」で、同年11月には「心斎橋OPA」で開催された。『キン肉マン』最新87巻の発売を1月4日に控えたこのタイミングで、会場で販売された「公式図録」より、業界イチのキン肉マン好きで知られる事件記者が、キン肉マンの兄・キン肉アタルの素顔に迫る。
雪山で見つかった身元不明の5人、胸にAの文字…
キン肉王政が先代の真弓大王だった頃。王家には、長男のキン肉アタル(キン肉マン ソルジャー)、次男のキン肉スグル(キン肉マン)という2人のプリンスがいた。だが、アタルの存在と失踪の事実は長らく秘匿されてきた。長男アタルとは、どんな人物なのか。
キン肉族に仕えるある付き人が眼鏡を光らせる。
「アタル殿下の素質は、あらゆる方面に抜きん出ています。まずは何と言っても、超人としての強さでしょう。超人強度は、弟のスグル大王を上回る108万パワー。火事場のクソ力を凌ぐ〝業火のクソ力〟も秘めています。さらに、スグル大王と同じく、王家でも放てる者があまりいない〝フェイス・フラッシュ〟を難なく使いこなせるのです」
アタルの強さを伝えるにあたって、最も分かりやすい例がある。運命の五王子として王位争奪戦に参加予定だった残虐チームの5人を、たった1人で撃破しているのだ。
それは、ちょっとした〝猟奇事件〟の現場だった。発見状況を報じた「テレビ超人ニュース」のレポーターが振り返る。
「現場は日本の富士山頂。王位争奪戦の知性チーム対残虐チーム戦の前夜、万年雪に覆われた場所で、複数の超人が倒れているとの通報があったのです。一撃で倒されたとみられる5人は全員、胸部が割け、『A』の文字に見える謎の傷跡が刻まれている状態でした。のちに、その文字は〝犯人〟の正体を示すサインになっていたことが分かるわけですが……」
発見時、身元不明だった超人たちの素性は、本物のキン肉マン ソルジャー(真ソルジャー)、ウールマン、ヘビー・メタル、ブルドーザーマン、ザ・ゴッドシャークと判明。
「残虐チームの5人は吹雪の中、本戦に備えて最終調整の野稽古をしていたようです。チームのメンバーは、4人が超人強度が72~80万程度の平凡な超人だった。とはいえ、残虐の神を宿した真ソルジャーは1億パワーの持ち主。犯人はそれを超える神にも勝る強さであることが窺えました」(同前)
「あやつのあの技だ~~~っ‼」と絶叫した重傷者
この時、アタルは真ソルジャーのマスクを強奪しており、残虐チームのトップに成り代わっていた。一方、富士山頂からはるばる姫路超人病院に搬送された真ソルジャーは、看護にあたったテリーマン、ウォーズマン、ミートの前で潔く完敗を認め、気を失う。
「し…しかし、あの超人は大したやつだぜ。この超人凶器キン肉マン ソルジャーを一撃のもとに倒しやがったんだからな(ガクッ)」
真残虐チームを一掃したアタルの技は、ナパーム・ストレッチ。釣鐘固めの状態で回転しながら上昇し、急降下して相手の胸部を地に叩きつける一撃必殺の技だ。落下段階からその威力は凄まじく、強烈な空気抵抗により、胸部がアタルのイニシャルでもある「A」の形に割けてしまう。
王位争奪サバイバル・マッチ本戦で、アタル版ソルジャーがキン肉マン スーパー・フェニックス(知性チーム)にこの技をかけようとした際、真ソルジャーは再び意識を取り戻し、病室のテレビ中継を指差しながら「あやつのあの技だ~~~っ‼」と絶叫。胸からA字型の血を噴き出させ、今度こそ事切れた。
前出のレポーターが続ける。
「残虐メンバーの4人は、搬送中に息絶えました。5人が敗れた現場は、先ほどお話した通り、万年雪に覆われた場所です。衝撃を吸収しそうな雪の上でさえこのダメージ。ナパーム・ストレッチの破壊力は、まさに桁違いといえます」
王位争奪戦では、知性チームのマンモスマンによる度重なる妨害行為さえなければ、アタル版ソルジャーがこの必殺技でスーパー・フェニックスを撃破していた可能性は高い。
「もしアタル版ソルジャーがスーパー・フェニックスを倒していたら、決勝では〝夢の兄弟対決〟が実現したことに。それも見てみたかったですね。なお、猟奇殺人事件かと思われた富士山頂の出来事は、超人同士の試合の範囲内、つまり『場外のリング禍』と認定されたため、立件はされませんでした」(同前)
椅子を投げつけて激高…スカウト行為でトラブル発生!
ありあまるアタルの持ち味は、新キン肉マン ソルジャーとして、残虐チームあらため「超人血盟軍」を結成する過程に、全てが詰まっている。選ばれたのは、残虐超人の血を引く未完の正義超人ブロッケンJr.、魔界のプリンスことアシュラマン、多彩な忍術を駆使するザ・ニンジャ、1000万パワーを誇る猛牛バッファローマンの4人。
ブロッケンJr.のスカウト場面でのこと。
「知っているとも。あんたの実力、技、キャリア、好きな色、好きな食べ物まで」
さらに、
「オレは前から正義超人の中でもブロッケン、あんたを一番評価していた」
「あんたには若さと、粗けずりだが、ギラギラした闘争心がある」
と持ち上げつつ、トドメの喝破。
「なによりもあんたは、テリーマンやロビンマスクがすでに失ってしまっている打倒キン肉マンの野望を、いまだに持ち続けている‼」
図星を突く、巧みで熱い話術。ハートを揺さぶられたのは、ブロッケンJr.だけではない。すでにアタル版ソルジャーから誘いを受けたアシュラマン、バッファローマン、ザ・ニンジャたちは、西ドイツ(当時)・ベルリンのブロッケン邸まで呼び出されており、部屋の外でその弁舌に聞き耳を立てていた。
条件次第と割り切るザ・ニンジャ以外の3人は、いったん加入を拒む態度をとったものの、もはやアタル版ソルジャーのことが気になって仕方がない〝恋のはじまり〟状態。ブロッケンJr.の提案により、その場を立ち去ったアタル版ソルジャーの行動確認を始めるのである。
(後編に続く)
取材・文/落花豆男
集英社オンライン編集部ニュース班