
中居正広氏と女性とのトラブルに、フジテレビの社員が関与していた疑惑を週刊誌で報じられた問題で、1月27日フジテレビは改めて記者会見を開いた。すべての記者の質問に答えるというスタイルで行なわれ、記者会見はなんと28日未明まで10時間にも及んだ。
「きょうも4時間コースかな」と思いきや…
フジテレビが1月27日午後から始めたやり直し会見は、港浩一社長(72)=同日退任=が17日に行なったクローズド会見が大失敗した反省を教訓に、すべての記者の質問に答えるという果敢な姿勢を見せた結果、28日未明まで10時間を超えて続く異例の長時間会見となった。
参加資格をほぼ問わない会見が予告された東京・お台場のフジテレビ社屋前には、受付開始の午後2時前からメディアが列を作った。
荷物検査とボディチェックを受け案内された22階の会場は、400個程度のパイプ椅子が並べられた、前後に撮影用スペースもある大規模シアター並みの大空間。開始時刻の午後4時には席がほぼ埋まった上に、周囲もテレビ各局のスタッフでごった返した。フジによると会見に出席したメディア関係者は437人になった。
午後4時からの会見では冒頭で嘉納修治会長(74)と港社長の同日付での退任が発表され、港氏が一連の問題に絡む問題点を次々と列挙し、そのたびに壇上の役員らが一斉に頭を下げた。壇上には金光修フジ・メディア・ホールディングス(HD)社長(70)と、遠藤龍之介フジテレビ副会長(69)も並んだほか、港氏の後任社長に就任する清水賢治氏(64)も上がった。
司会者が経緯の説明を行い、4時半すぎから始まった質疑だが、最初の質問者が怒号を飛ばすなど大荒れのスタートとなった。
このフリーの男性記者がいきなりA子さんの個人名をあげたところ、司会者が、個人特定につながる質問は変えてくれと要求。男性記者は「質問できないじゃないか」と大声で抗議した。
フジテレビの説明では、マンションにおいて中居氏からA子さんに「人権侵害の疑い」がある行為があったとされている。ただ、同局は具体的な内容は言えないという回答に終始。
問題発生2ヶ月後の23年8月に報告を受けた港氏が、「女性(A子さん)の心身の状態を勘案し、できるだけ少人数で対応しようと判断した」結果、局内のコンプライアンス推進室にも事案を伝えず、A子さんからの聴き取りも行なっていないためだ。
ここまで分かるまでに最初の2時間で15人の記者が質問していた。この時点で質問を求めて手を挙げていた記者は百人近い。
会見開始前、記者の間では、フジテレビの社員集会が4時間かかったことを引き合いに「きょうも4時間コースかな」という軽口が飛んでいた。だが、それどころではない会見になることは、この頃にははっきり予測がつく状況になった。
「全国民が見てるんですよ」「正直に言いなさいよ」
フジは冒頭の説明で、中居氏の認識はA子さんのものとは「異なっている」と説明した。会見中盤はこれが何を意味するのかを巡って紛糾、怒号が飛び交っていっそう騒がしくなった。
全国紙の記者から中居氏の主張の意味を問われた遠藤氏は、「意思の一致か不一致かということ」と一時回答。2人の間に起きたことについて中居氏が「同意の上だった」と主張しているのかという確認を求める問いにも「その通り」と答えた。
ところがこの後、メモを差し入れられた司会者が遠藤氏の発言を「訂正する」と表明。遠藤氏も自身の発言を「撤回させてもらう」と言い出したところ、記者席からは、
「ヒトをバカにするのもいい加減にした方がいいんじゃないか」
「全国民が見てるんですよ」
「正直に言いなさいよ」
と大声が飛んだ。遠藤氏は撤回の理由を「踏み込みすぎた発言をした」と説明。
これを聞いた記者のひとりは「“人権侵害の可能性”があるとフジテレビも疑っている行為を中居氏が否定しているとの事実は、きょうの会見で新たに分かった最大のポイントでした。いったん認めたその事実に関する説明を引っ込めると言われたことで、抗議の声が出たんです」と指摘する。
質問者が代わり別の話題へ一度飛んだものの、フリーの男性記者が再度「(ふたりの認識は)一致なのか(一致しているのか)、不一致なのか」と遠藤氏に問い直し問題が再燃。
「(ふたりの間に)同意があったのならなぜ(嘉納会長と港社長は)辞めるんだ」とのヤジが飛ぶ中、会社側は「遠藤がなぜそんなこと言ったのか私には分からない。会社としては言うべきではなかった」(金光氏)と徹底抗戦。
20分前後に及んだこのやりとりでフジ側は遠藤氏の発言を撤回するという姿勢を守り続けた。
午後9時52分。開始から6時間が経つのを前に司会者が休憩を提案。この時までに質問に立った記者は少なくとも54人に達していた。
壇上の5人も記者側も、ミネラルウォーターを時おり口に含むだけという過酷な環境での攻防は、たった14分の休憩をはさんで再開され、その後も質問を求める記者の手が延々と上がり続ける。
自分の見解をアピールする記者が目立ったカオス会見
そして時刻は28日午前零時に。嘉納、港両氏はもはや会長と社長でもなくなったが、それを理由に壇上から降りるわけでもなく、質疑応答は続く。
希望者にはすべて質問の機会を与えるとの方針は午前1時35分、ついに貫徹され、一回も質問をしていない希望者の挙手はなくなった。
この時までにマイクを握った記者は少なくとも92人。ここで司会者は、「もうそろそろ10時間になりますので、他に質問のある方はメールででも」と提案を試みる。
しかし約9時間前に最初の質問で司会者を怒鳴ったフリーランスの男性記者がすかさず「ここまで待ったんだから質問させてください」と制し、司会者もやむなく2回目の質問に同意。そこからさらに12人がマイクを持ち、質問者は少なくとも延べで104人に達した。
午前2時22分、最後の質問者が中居氏への対応の詳細を質すと、それまでどんな質問者にも聞き返さなかった港氏が初めて「すいません。もう一度お願いします」と質問内容を確認。集中力が限界にきていることをうかがわせた。
その2分後の午前2時24分、ついに質問が尽き、司会者が「会見を終了させていただきます」と宣言。壇上の5人はひとりずつ一礼し、大量のフラッシュを浴びながら大会見場を後にした。
会見終了時まで会場にいたメディアは目算で150人弱と、開始時の3分の1近くに減っていた。参加者の一人は「フジは社長と会長の引責辞任を発表しましたが、核心である中居氏とA子さんの間に起きた問題や両者の主張、新たに分かったことはほとんどありませんでした」と感想を述べた。
また別の編集者は、「まったく今回の事案を勉強してこず本質をわかっていない記者や、自分の見解をアピールする記者が目立った。結果として記者会見の考え方や、今後は参加する記者の線引きが求められることでしょう。登壇者は最後まで逃げずに座り続けたのに、聞くことを聞いたらさっさと帰ってしまう取材側にもマナーが問われるのでは?」と疲れ切った顔を見せた。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
写真/村上庄吾