「前の会社ではこうだった」大手企業出身者がベンチャー企業では最も嫌われる評論家に成り下がってしまう悲しい実態
「前の会社ではこうだった」大手企業出身者がベンチャー企業では最も嫌われる評論家に成り下がってしまう悲しい実態

トップと現場との距離が近いベンチャー企業では、従業員からの不平不満の声が経営側にもリアルに集まるという。だが、経営者が求めていることはただひとつ「そう思うなら、あなたがやってよ」ということだ。

ベンチャー・スタートアップ転職のプロである、高野秀敏氏の書籍『ベンチャーの作法』より一部を抜粋・再構成し、大企業出身者がベンチャー企業ではただの評論家になってしまう実態を紹介する。

組織に「評論家」は必要ない

「うちの会社の戦略って、もう通用しないんじゃないですか?」

「今のサービス、もうユーザーは飽きてるんじゃないでしょうか」

「もっと宣伝に力を入れたほうがいいと思うんです」

こんなふうに不平不満を言う人がいます。

組織の現状を批判して「もっとこうしたほうがいい」と、アイデアだけはたくさん出してくる。まるで「評論家」のような人たちです。

こうなっては、おしまいです。

現場との距離も近いベンチャー経営者の耳には、日々さまざまな指摘が届きます。

発言者は、その声が経営者に届き「たしかにそうだ。では、宣伝に力を入れよう」「それならプロモーション経験のある人を採用しよう」「営業部の一部を宣伝部に異動させよう」とか、アクションしてくれることを夢見ているのでしょう。

ですが現実に経営者が思うことは違います。

「そう思うなら、あなたがやってよ」

これです。

現場からは見えていなくとも、経営者は多くの仕事を抱えています。「理想論」をいちいち検討する暇なんてありません。思いついただけで、調べてはいないし手足を動かしたわけでもない。



そんな評論家の言葉に耳を傾けてもらえるわけがないのです。

一発退場をくらう「最悪の口癖」

ベンチャーで評論家になりやすいのが、大手企業から転職してきた人です。その口癖が「前の会社ではこうだった」です。

「うちの会社って、ちょっと普通とは違うと思うんです」

「前の会社では、こうやってうまくいってました」

ランチや飲み会などで始まる、現職批判と前職紹介。

または社内チャットやメールでもそれをほのめかしてきたり。挙げ句の果てには、読むのがしんどくなるほどの長文メールを経営者に送りつける人まで。

しかも内容は理路整然としているようで、感情論によるポエムだったりします。忙しいベンチャー経営者は、長文メールなんて読んでいる暇はありません。

それに前の会社はこうだったと言われても経営者は困るだけです。「環境が変わっても結果を出す自信があるから入社したんじゃないの?」

こう思われて終わりです。結果を出せず、「言い訳が多い人」と認定されるだけでしょう。

一発退場のレッドカードをくらっても文句は言えません。

実際、思うように結果を出せず環境のせいにしている節もあると思います。

「前職と同じ状況を用意してもらえたら活躍できるんです」

大手企業などから転職してきた人が、そう思う気持ちも頷けます。ですが同じ環境で、同じ方法で、同じ結果を出すのは誰でもできます。

違う環境でも同じ結果を出せる「再現性のある仕事」をできる人が、本当に仕事ができる人というものです。

追い求めたところで「意味のない」もの

「仕組みがないからできない」と言う人もいます。「今の仕組みはダメだ」「こんな仕組みがあれば結果が出せるはずだ」ないものねだりをするように机上の空論を並べ立てます。

ですが型や仕組みを求めたところで意味がありません。

メガベンチャーと呼ばれる規模の会社を見ても、再現性があるとは言いがたく、経営者の異能に依存している会社も多いものです。

たとえばソフトバンク。経営者である孫正義さんはADSLやボーダフォンの買収、ビジョンファンドの設立など、次々と大きなことを仕掛けています。

商社とも投資家とも言えるその経営手法は、孫さんだからできることです。

もちろん孫さんがいなくても経営は回るのでしょうが、これまでのような奇想天外とも言える快進撃や取り組みは難しいでしょう。

ファーストリテイリングも同様です。創業者である柳井正さんの手腕によって、山口県の小さな会社が世界規模のグローバル企業になりました。

もちろん仕組み化も進めてはいるのでしょうが、事業継承して経営をバトンタッチしようとするも、やはりご本人が戻ってきています。

柳井さんの属人的な手法やノウハウに依存しているということでしょう。

型にできる仕事は、言ってしまえば「誰にでもできる仕事」です。型にできないほど次々と新しいことに挑戦してきたからこそ、これらの企業はメガベンチャーとなり、今日まで生き残っているとも言えます。

エピソード:「型」の存在しなかった、インテリジェンスの仕事

インテリジェンスに入社した際に配属されたのは、人材を求めている企業を探し、転職希望者とつなぐ現場の仕事でした。

現場社員は、IT、金融、医療といった業界や、経理、法務など職種ごとなど、いくつかのグループにわかれていました。

そのなかで私が配属されたのは、そういった専門分野ではなく、「その他の全領域」を担当するグループでした。

規模が大きい分、面白そうだと思って配属希望を出したのです。ですがあとになって気づきましたが、このグループの仕事は現場のなかでもとくにハイレベルなものでした。

一般的に専門職での転職は、求める実績や必要となるスキルなどが明確なため決まりやすいものです。

一方、私が担当していた多種多様な領域では、他業種への転職や採用を実現する必要がありました。結果を出すにはとにかく母数を増やすしかなく、成功する型などありませんでした。

当時のインテリジェンスのメインビジネスは派遣事業で、人材紹介の仕事は新規事業のようなものでしたから、ノウハウや成功例の蓄積もありませんでした。



ですから私が社内の人に相談をしても、誰も答えを持っておらず、とにかく行動して、自らコツをつかんでいくしかなかったのです。

歴史ある成熟企業なら、すでにうまく回っている仕組みが存在するでしょう(とはいえ今の時代、過去の仕組みに頼っていたら大手でさえ危ういですが)。

ですがベンチャーは、たとえ大企業であっても型や仕組みが存在しないことが多く、経営者がいなくなれば成長し続けることが難しくなります。

「型」や「仕組み」があって当然と思うほうが、間違いなのです。

評論家と「改革者」は紙一重の違い

とはいえ経営者としても、型や仕組みがあるといいなとは考えています。

ある程度の規模や社員数になると、経営者が全社員の行動をチェックしたり指導したりするのが難しくなるからです。

経営者が立てた戦術を全社員に遂行してもらうための型が必要になります。

ですが属人的な手法で結果を出してきた天才肌の経営者にとって、自身の感覚や論理を型や仕組みに落とし込むのは不可能だったりします。

ここで、「セカンドペンギン」の出番です。型や仕組みがないなら、あなたがつくりましょう。一部の天才の成果に支えられるのではなく、全員が着実に結果を出せる仕組みを。

自ら率先して任務を遂行して、うまくいった方法をまとめて、他の人でも再現できる型や仕組みを提案するのです。

これができる人こそ、求められている人材であり、評価される人です。

仕組みがないことは、ある意味で、あなたが結果を出すチャンスなのです。

じつは評論家は、もっとも成功に近い人であるとも言えます。組織を俯瞰《ふかん》して欠点や改善できる点に気づく力を持っているからです。

それを指摘するだけで、行動は他人に任せているから評価を下げるのです。「もっとこうしたほうがいい」と思いついたら、他人に任せてはいけません。

仮想の計画を立てたり実地で調査したり、こっそり小さく始めてみたり。なんでもいいから自分でやってみることが大切です。

口だけでなく手を動かし、足を使い、行動するのです。そうして多少なりとも結果が出たアイデアなら、経営者の耳にも届きます。

なぜなら経営者が何よりも好きな言葉は「結果」だから。組織の課題を見つけて評論している人と、課題を見つけて仮説を立てて行動したうえで提案する人。

最初の気づきは同じでも、得られる結果や評価は天と地ほどの差になります。

写真/shutterstock

ベンチャーの作法 「結果がすべて」の世界で速さと成果を両取りする仕事術

高野秀敏
「前の会社ではこうだった」大手企業出身者がベンチャー企業では最も嫌われる評論家に成り下がってしまう悲しい実態
ベンチャーの作法
2024/11/271,870円(税込)352ページISBN: 978-4478119372成長途上の組織には、求められる仕事の仕方、成果の出し方、評価の手に入れ方がある。結果を出したいなら、その「作法」を知ることだ。1万人のキャリア相談、3500社の採用支援を手掛けた、ベンチャー・スタートアップ転職のプロが初めて明かす。組織の力に頼らず、いかなる環境でも「圧倒的に活躍する人」の考え方!!
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