
何かとコンプライアンスやハラスメントに敏感なこの時代。過剰なコンプラ・パワハラ違反にとらわれない昭和気質な芸風で人気の漫才コンビ・金属バットはパワハラについて「美しい日本の文化」というが、本当のところはどう考えているのだろうか。
一億ハラスメント社会
—今年も早くももう2月中旬になりました。金属バットのTHE SECOND出場も無事告知されましたね(笑)。
友保 やっぱり単価上げたいですからねぇ。そういやM-1終わってすぐぐらいにバッテリィズに会いましたよ。劇場来てたから。「売れた?」って聞いたら「売れました~」って(笑)。やっぱM-1はTHE SECONDとは違いますね。
―そんなことないです(笑)。このところパワハラやらセクハラやら芸能界にいろいろありすぎて……。
友保 パワハラなんかしまくりですよ。文化でしょ、パワハラ。美しい日本の文化やけど…。
―芸人さんでいうとTKO木下さん周辺も大変なことになってますね。
友保 まだまだ燃える要素があった(笑)。ついに消し炭になりそうですけど。
小林圭輔(以下、小林) 木下さんの謝罪動画見ました? あのコメント欄おもろすぎます。余罪がいっぱい出てきて「私もこんなされました」って(笑)。(※現在、動画は削除済)
友保 「10年前あそこで飲んでた時に」みたいな(笑)。やっぱ愛想よくせなあかんねん。
—確かにいつもお二人は感じがいいですもんね。街でファンの方に「写真撮ってください」と話しかけられても、ほぼ全てこたえてらっしゃる。
友保 いやね、それこそ昨日なんですけど、飲み屋で横のやつに勝手に写真撮られた時はさすがに俺言いに行きましたよ。
—無断はよくないですね。
友保 「お前も撮らせろ」と。お互いさまやねんから(笑)。
小林 一番いい(笑)。
友保 最後は肩組んで写真撮りました。
—先日とある大物芸能人のパワハラが問題になっていたのですが、その中には「番組収録が終わっても帰らない」というのがありまして、それもパワハラなのか!と。
友保 たしかに。俺らもライブ終わった後みんなでタバコダラダラ吸ってたら、スタッフの人からの「帰れオーラ」あるもんな。
—それは感じるんですね(笑)。
友保 「お前ら出てったら閉めれんのに」っていうね。あん時吸うタバコうまいんすよ。俺の仕事はもう終わってるからな。そうやね、これパワハラっすね。
—それは帰らないハラスメントです。
友保 解散してしまいましたけど、井下好井の好井さんは喫煙所で会うたびに「もうM-1出んなよ」「出ない方が面白いから」っていうパワハラをしてきましたねえ。
—M-1出るなハラスメントですね。
小林 僕はこれ、パワハラしてる方なんですけど。去年、ダイタクのM-1ラストイヤー、決勝進出決まった直後ぐらいですかね。「今この時点でTHE SECONDにエントリーしたら、M-1決勝前の発表でそこに名前あったらおもろいから、THE SECONDエントリーしなよ」って言いましたね。
友保 おまえはやってること好井さんと一緒や(笑)。
後輩に唯一するパワハラ
—ひどい(笑)。優勝させない呪い。
友保 吉本(興業)は下からもパワハラありますからね。わしはビスケットブラザーズの原田にパワハラ食らってますね。
—どういうパワハラですか。
友保 原田と仲いいんですけど、喋ってて、話が一番盛り上がってオチ言う直前にあいつ「タバコ行きましょ」って言うんですよ。
—オチを教えてくれない(笑)。
友保 手前のとこでね、1回タバコ吸いましょう。あれはヤニハラです。
小林 俺もこの間、原田にパワハラ受けたわ。
—小林さんも!?
小林 「小林さん、なんかうまい店けっこう知ってるらしいっすね」って。「なんで飯行こうって言わないんすか!」って。
—それはメシハラの一種ですね。
友保 まぁ吉本なんかパワハラでできてますからね、若手の時なんか人権ないっすからね。俺らなんかパワハラ野郎ですよ、ほんと。パワハラ芸人。
—そういうイメージあんまりないですけどね。
友保 先輩どかしたりしますよ。絶対どかんでええとこ(笑)。ほんと昔は……あったもんな、「バイト休め」とか。それ言われた日は絶対バイト休んで行かなあかんっていう、地獄のルールあったもんな。
小林 あったな……。
—それは仕事が入ったからバイトを休めということですか?
友保 いや、昔、オーディションを朝にやってたんですよ。平日毎日、月から金まで。その予定が1週間前にわかるんですよ、何日にやるから来いって。でもバイトなんか1か月単位でシフト組んでるから。急にオーディション入って「え、ええ……」って。
小林 「この日だけはムリ」みたいなんが来ても行かなあかん。
友保 俺らの今の宣材写真も、急に朝呼ばれて、NSCの廊下にズラーっと並ばされて流れ作業で。全員ほんまに刑務所みたいな写真やった。あれは完全なパワハラ。
小林 「ここに立て」言われてな(笑)。
友保 「撮ったら、はよ出ろ」って(笑)。
—昔はスルーされてきたけど、今は完全にNGみたいなことも多い。
友保 ただ俺は後輩に「俺の酒が飲めんのか」みたいなことはまだやってます。
—でもそれは仲いい後輩の方に、ですよね。
友保 もちろん。
—ですよね。人見知りの権化みたいなお二人ですもんね。
友保 モジモジしちゃうんで。「酒いりませんよ」って言われたら「そうか。ごめんな」って(笑)。
吉本のコンプラ研修
—金属バットさんもネタを作る時はコンプライアンスを鑑みたりするのでしょうか。
友保 吉本の芸人なんでね、コンプライアンスを重視してますよ。我々いつもコンプライアンス研修を受けてますからね。
—どういう内容なんですか。
友保 ほんまは春と冬ぐらい、年2回ちゃんとあって。全芸人集められて。で、時々突発コンプライアンスもあるんですよ。
—突発コンプライアンス。
友保 急に来月の何日に来てくださいみたいな。なんやろうってなるんですけど、そん時になんらか問題を起こしたやつのその問題に関する講習ですね。
小林 毎回口酸っぱく言われてるのが「自転車保険入れ」。
友保 マジで言われるな(笑)。
小林 「普通に終わるぞ」って(笑)。
—あと、若手芸人さんだとよく聞くのが作家さんにめちゃめちゃきついことを言われるとか。
友保 昔はね、めっちゃありましたよ。「どういうつもり?」とか言われて。
小林 あったな~。
友保 まあね、気持ちは分かるんすけどね。普通の作家さんがオーディションで文句言うのは分かる。やっぱ1日50~60本、おもんないネタ見せられたらそりゃムカついてくるやろな。コンビニのネタだけで何組あんねん。
小林 ただ実際、俺らそもそも劇場おらんかったから、先輩からのハラスメントはほぼなかったんよな。
友保 インディーズやったから。無理やり飲みに連れて行かれるとかなかった。
ハラスメントから逃れる2つの方法
—お二人を見ていると、理不尽な上下関係からは上手に距離をとっているような気がします。どうしたらハラスメントを真正面から受けないで済むのでしょうか。
小林 逃れ方ですか。僕が実践してるのは「LINEをしない」。
友保 ……お前そのせいでみんなが俺に「小林にあれ伝えといてくれ」って言ってくるんやぞ、ほんまにだるい。それは巡り巡ってお前が俺にパワハラやから。
—なぜLINEをやらないんですか?
小林 連絡くるのが嫌というか。
友保 いや、これ今でこそこう言うてますけど、昔は「情報抜かれるのが嫌」言うてましたからね。お前になんの情報あんねん。お前から盗める情報なんかない。誰も興味ない。
小林 あの手この手で連絡くるんすけど、(相手がLINEしてないと)もうひと手間あるんじゃないですか。だから、よほどの時にしか連絡はこなくなりましたね。
—友保さんはいかがですか。ハラスメントからの逃れ方。
友保 俺ですか。でも1個思うのは全部おもしろいと思えば。今最悪やん、自分とか。
—ああ、なるほど。
友保 なんでこんなひどいこと言うの、とか。おもろなってくるでしょ。こいつ人間じゃないなって。でもほんまあんまないっすね。その、喉元刺してくるようなこと言われたのは。なんかチクチク言うてんなとかはありましたけど。
—会社から怒られるのは……ハラスメントではないか。
小林 ただ単に悪いことをしたら怒られます(笑)。
友保 立ててはいけない指を立てたとか。とんでもない暴言吐いたとか。
—たしかに。それはただの指導ですね(笑)。
友保 先輩で一人いたんすよ。こいつほんま許さんみたいな。でも俺言わないことにしたんですよ、そいつの名前を。忘れるのが1番強いでしょ。記憶から消してやったらいいんすよ。
—忘れる。
友保 くそ先輩、名前出したらそいつのことが広まっちゃうから俺言わないんすけど。そいつのツイッターをブロックしたらしたで「ブロックされた~」なるんで、それもしない。ただそういうやつは軒並み消えました。
—金属バットがめっちゃ人気になったら、急に手のひら返されたとかもあります?
友保 それはもう、吉本がそうです。ほいほい仕事くれる。ありがたいですね、へへ。
取材・文/西澤千央 写真/石垣星児