八潮陥没事故現場の今…「陥没は年間1万件ほど発生」「可能性はどこにでもある」と専門家が指摘…日本の新たな“災害事故”を避ける方法とは?
八潮陥没事故現場の今…「陥没は年間1万件ほど発生」「可能性はどこにでもある」と専門家が指摘…日本の新たな“災害事故”を避ける方法とは?

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故から、早くも2週間が経過しようとしている。2月11日には、下水道管内で見つかったのは転落したトラックの運転席部分と断定し、巻き込まれた運転手の安否はいまだ不明だが、内部に取り残されている可能性があると発表した。

依然として予断を許さない状況が続くなか、東京都市大学大学院・宇都正哲教授は、「同様の事故はどこで発生してもおかしくない」と警鐘を鳴らす。 

事故現場周辺は、ほとんど立ち入り禁止に 

1月28日に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故。2月11日に行われた埼玉県の会見で、下水道管内にあったのはトラックの運転席部分だと特定され、運転手が取り残されている可能性が高いと発表された。

しかし、運転席を回収する工事に関しては、下水道管内には硫化水素やたい積物などがあり、危険な状況が続いているため、およそ3か月かかる見通しだ。

今回、陥没事故の現場となった県道54号松戸草加線「中央一丁目」交差点は、つくばエクスプレス・八潮駅から約2km離れた場所に位置している。

ここは東京都足立区に隣接しているものの、首都圏とは思えないほど閑静で、周囲にはのどかな風景が広がっている。

八潮駅からバスで現場へ向かうと、事故現場にもっとも近いバス停「中馬場」には、交通規制を知らせる貼り紙が掲示されていた。 

たしかに、周辺道路は至るところで通行止めとなっており、簡単には現場に近づくことができないようになっている。

出入りが許可されているのは、エリア内に自宅や職場がある人のみで、それ以外の人はほとんど立ち入ることができない状況だ。 

地元の人々に、現在の状況を聞いてみた。

「断水はないですが、水の使用は制限しています。トイレが流せないなどの問題も起きていませんね」(40代女性)

「生活への影響といえば、NTTのケーブルが地下に埋まっている関係で固定電話が使えなくて……。でも、インターネットは問題なく使えますし、固定電話を利用することも少ないので、それほど不便は感じていません」(60代女性)

「作業車や迂回を強いられた車の影響で、私たちの駐車場に面した道路が大渋滞してしまって。

駐車場から車の出入りができなくなったため、整理スタッフが1週間前から急遽派遣されています。

一昨日くらいからは、駐車場を出てすぐの道路も通行止めになりました。どうやら、そこで機材を組み立て、陥没現場へ運んでいるようですね」(近隣の駐車場誘導員)

事故の影響で営業がストップしている店舗も 

事故現場となった中央一丁目交差点は、普段から交通量の多い多差路だという。

しかし一帯が封鎖された現在、一般車両の姿はなく、代わりに作業車と作業員が入れ代わり立ち代わり往来しており、大規模な復旧作業が進められている様子がうかがえる。

前出の駐車場誘導員は、周辺の状況を次のように語る。

「作業中に大きな音を立てて崩れてしまった蕎麦屋さんなど、事故の影響で営業できていない店もあります。

実は、あの蕎麦屋さんには、昔ここに常駐していたときに上司と一緒に昼食を食べに行ったことがあって。だから、崩れたと聞いたときは驚きましたし、(今営業していないのは)少し寂しいですね」(近隣の駐車場誘導員)

その後、陥没現場を見渡せる道路にたどり着いた。中央分離帯には、脚立を立ててカメラを構えた各社の取材クルーが並んでいる。

しかし、ここも当然ながら交通規制の対象であり、部外者が立ち入れるのは現場から数十メートル離れた地点までに限られていた。

「陥没事故」といえば、2月6日には愛知県名古屋市でも道路が陥没し、乗用車が巻き込まれる事故が発生している。11日にも、千葉県大網白里市で水道管が破裂する陥没事故が起きるなど、頻発している印象は否めない。

「我が国において、道路の陥没事故は珍しいことではない」

と話すのは、社会基盤(土木・建築・防災)や建築計画、都市計画を専門とする東京都市大学大学院・宇都正哲教授だ。

「道路の陥没は昔から頻繁に発生していて、現在でも年間1万件ほど起きているんです。

特別珍しいことではないので、今回の事故も最初にニュースを見たときは『規模は大きいが、よくあることだな』という印象でした」(宇都正哲氏、以下同)

更新が追いつかない老朽化インフラ。専門家「いつこうした事故に遭うかわからない」 

一方で、宇都教授は今回のような大規模な陥没事故は異例であるとも指摘する。その要因は、いったい何なのだろうか。

「さまざまな要因が複合的に絡み合っていますが、ひとつ挙げられるのは、下水の流量が多い立地であることです。あの場所は下水処理場の近くにあり、大規模な管路が破損すれば、大事に至ってしまいます。

生活排水を止めるわけにはいかない以上、下水の流れを完全に遮断するのは至難の業なんです。浄水のように、浄水場からの水をカットすれば流れなくなる、という仕組みではないので。

今回の事故は、まさに『陥没が起きたら、もっとも深刻な影響を及ぼす場所で発生してしまった』という状況です。まさに『よりによって、そこか……』という思いですね」

また、宇都教授は、こうした事故の背景には国内インフラの老朽化が影響していることも指摘する。

「戦後復興の際に、急速に管路を整備したため、全国的に同じようなタイミングで更新時期を迎えており、その数は膨大になっています。しかし、工事は予算の範囲内でしか実施できず、手が回ってないところはあるでしょう。

ただ仮に今後、十分な予算が確保できたとしても、今の日本は人口減少が進んでおり、人手も人材も不足しています。むしろそっちがネックで、なかなか工事できないかもしれません」

これらの要因を踏まえたうえで、宇都教授は今回のような陥没事故について「それほど頻発するものではないだろう」としつつも、「どこで発生してもおかしくない」と警鐘を鳴らしている。さらに、市民ができるせめてもの対策についても語ってくれた。

「国交省が通達を出しましたが、やはり点検を強化するしかないと思います。

ただ、八潮も2021年に点検を行っていたはずなので、わずか3年で事故が発生していることを考えると、単に点検を増やすだけではなく、点検の精度を向上させることもあわせて進めなければ、今回の教訓は活かされないでしょう。

市民レベルで重要なのは、今回の事故を通じて『老朽化したインフラが身近に存在する』という事態に気づくことです。『いつ自分がこうした事故に遭遇するかわからない』という意識を持つことが大切だと思います。

個人でやれる対策としては、『行政が毎日点検して回るわけにはいかない』ということを前提に、陥没は発生前に路面に亀裂が生じていることが多いので、見つけたらすぐに通報する、ということくらいでしょうか」

“災害大国”といわれる日本。地震や台風だけでなく、今後は陥没事故についても念頭に置きながら生活する必要がありそうだ。 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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