想定外の男性人気、高級チョコレートの名門「ゴディバ」の“ベーカリー”事業ゴディパン チョコレートカレーパンの大ヒットの裏側
想定外の男性人気、高級チョコレートの名門「ゴディバ」の“ベーカリー”事業ゴディパン チョコレートカレーパンの大ヒットの裏側

1972年に日本へ進出して以来、“高級チョコレートの代名詞”という不動の地位を確立し、愛され続ける「ゴディバ(GODIVA)」。チョコレートの印象が強いゴディバだが、2023年には「GODIVA Bakery ゴディパン 本店」を東京・有楽町に出店、ベーカリー業態へ進出し人気を博している。

なぜパンを売るようになったのか。GODIVA Bakeryの運営に携わるゴディバ ジャパン株式会社の奥村和子さんに話を聞いた。 

コンビニ、カフェなど販売チャネルを拡大してきたゴディバ 

大切な人への贈り物や自分へのご褒美など、毎年バレンタインの時期にはさまざまな商品が店頭に並ぶ。

ゴディバでは、期間限定のチョコレートを詰め合わせ商品や他社とのコラボレーション商品が人気となっている。

当たり前のように私たちがその名前を知っているゴディバ、それは2000年代の後半から、ゴディバが常に新しい需要を創出する販売戦略を展開してきたからである。

2010年にコンビニでの販売を開始すると、毎年ラインナップを増やしながら、ゴディバ監修のスイーツやパン、チルドカップ飲料といったコラボ商品を次々と投入している。

コンビニへの販売チャネル拡大に続き、2017年に、ここでしか味わえない特別なゴディバに出会えるコンセプトストア「Atelier de GODIVA」をオープン。

2020年にはゴディバの世界観を日常で楽しめる「GODIVA café」を東京駅に出店。

そのほか、2022年にはゴディバのオリジナルクレープなどを「GODIVA dessert」、2023年は駅ナカや改札付近で見かけるコンセプトストア「GODIVA GO!」など、さまざまな新規事業を立ち上げてきた。その一環として、2023年8月に世界初出店を果たしたのがGODIVA Bakery(ゴディバ ベーカリー)以下ゴディパンだ。

オープン以来連日大盛況で、「整理券の配布(現在は終了)」や「1人5点までの購入制限(現在は10点まで)」が設けられるほどの反響を呼んでいる。

ゴディバにとっては異業種であるベーカリー業態に、どうして参入することになったのか。立ち上げに参画した奥村さんは「日常の中でどれだけゴディバを楽しんでいただけるかを軸に構想を練った」とし、次のように説明する。

「バレンタインなどの『ギフト需要』はあるものの、日常的に自分用に購入する機会はまだ少なく、もっとゴディバを気軽に楽しんでいただきたいという想いがありました。そこで、普段から食べる機会の多いパンに着目し、ブランドとの接点を自然に広げていくことを考えたのです。

また、パンとチョコレートは相性も良く、いろんなことができるのではと考えたのがゴディパンを作る構想の原点になっています」(奥村さん、以下同)

当初は既存のゴディバの店舗に併設する「ショップインショップ」型の出店も検討したそうだが、鮮度が重要なパンをどこで作るのか、美味しさをどう保つかといった点で難題に直面したそうだ。

色々と試行錯誤していくなかで、「自分たちでその場で焼いて、その場で提供すること」に行き着いたと奥村さんは話す。

「準備段階では、ビジネスとして成り立つか見通せない状況でしたが、だからこそ、ひとつひとつ丁寧につくっていくことが大切だと感じました。チョコレートは温度や食材との組み合わせによって多彩な変化を楽しめるのが魅力です。そういう意味でも、ショコラティエのアイディアとそれを体現すべく、手間ひまかけたパンを提供できれば、お客様にも喜んでいただけるのではと考えていました」

初の業態だったからこそアイデアが形になるまで2年かかった 

パンの基本的なレシピは、ゴディバのエグゼクティブシェフ・ショコラティエ兼パティシエであるヤニック・シュヴォロー氏が発想し、ゴディパンのシェフであるブーランジェ(パン職人)がパンとして体現するという流れになっている。

(ショコラティエでありパティシエである)エグゼクティブシェフが日本ならではの菓子パンや惣菜パンを再解釈し、美味しさやオリジナリティを追求するのに対し、 ゴディパンのシェフは現場目線で焼き方や発酵方法などが現実的かどうかを判断するため、両者のキャッチボールを繰り返しながら1つの商品を開発していくわけだ。

しかし、ゴディバにとっては初のベーカリー業態だったからこそ、「コンセプト作りに非常に時間がかかり、構想から店舗を出すまでに2年かかった」と奥村さんは振り返る。

「我々はベーカリーではないので、『どうやってベーカリーを立ち上げるか』というのは全く未知の世界でした。また、単に普通にパンを作って販売するだけでは差別化が難しく、ブランドとしてどんな付加価値やストーリーを生み出すかを考えるのに多くの時間を費やしました」

ベルギー生まれのゴディバといえば、洗練されたヨーロッパスタイルのおしゃれな店舗が思い浮かぶだろう。しかし、もっと身近で親しみやすいパン屋にするには「現在のゴディバの高級なイメージではなく、もう少しカジュアルで身近に感じてもらえるブランドにしたかった」という。

「お客様に親しみを持ってもらうために、シェフのアイデアや独自性をどう付加価値として組み込んでいけるかを考えました。

そうしたなかで、パンはもともとヨーロッパ発祥のものですが、菓子パンや惣菜パンは“日本のソウルフード”として親しまれていることに着目しました。

ヨーロッパのブランドである我々が、『懐かしさ』と『新しさ』を融合させた形で日本で根付いているパンを再解釈していく。このような方向性から『町のパン屋さん meets ゴディバ』というコンセプトが生まれたんです」

日本人なら馴染みのあるチョコレートコロネやクリームパンでも、チョコレートのパリッとした食感やカカオフルーツの果汁などを加えることで、懐かしさの中にも“新しさ”や“意外性”を発見できるものを目指したという。 

 男性からの想定外の支持、カレーパンは「オープンに間に合うか不安だった」 

こうして、2023年8月に東京・有楽町の東京交通会館ビル1階に「GODIVA Bakery ゴディパン 本店」をオープンさせた。 

まずはとにかく1店舗出店してみて、そこで得た学びや反省を生かして次のステップを考えていく。

そうした心構えで臨んだそうだが、ふたを開けてみれば連日大盛況。ヒットの要因は男性からの支持だという。

「通常のゴディバの店舗は圧倒的に女性の比率が高いんですけど、有楽町のゴディパンのお店に来る女性と男性の割合はおよそ7:3で、男性のお客様も結構多いんですよ。もともとは30~40代の女性をターゲットにしていたんですが、実際にはご夫婦で買いに来られたり、男性ひとりで来られたりと、すごく客層が幅広いなと感じています」

ゴディパンは常時約20種類以上のラインナップをそろえていて、特に人気の商品はコロネ(ショコラ)、クリームパン、カレーパンの3種類。

なかでも、見た目がスイーツのようなカレーパンは商品開発に約1年の時間を要したという。ゴディバはスイーツが得意分野であるため、菓子パンはこれまでの知見を活かして開発を進めてきたが、惣菜パンは初の試みで「試行錯誤の連続だった」と奥村さんは言う。

「カレーの隠し味にチョコレートを使うのはよく知られていますが、そこをあえて隠さず、チョコレートの存在感をしっかり感じられる味を目指したかったんです。しかしカレーの風味は非常に強いため、それに負けないチョコレートのインパクトを出しつつ、両者を違和感なく融合させて一体感のある味に仕上げるのは想像以上に難しくて…。

どの種類のチョコレートをどの割合で加えるかをシェフとともに試作を重ね、何度も味がわからなくなるほど試食を繰り返しながら最適なバランスを探りました。オープンに間に合うか本当に不安でしたが、なんとか商品化のGOが出てほっとしたのを覚えています」

最終的にはカレーの中だけではなく、パンの生地にもチョコレートを入れて焼くことで、カレーとチョコレートが調和した味を見出すことができ、ゴディバならではのカレーパンが完成した。

地域に根差したベーカリーを目指し、ご当地限定の商品展開も

 オープンから2年半経った東京・有楽町の店舗は今も人気が続いている。

閉店を待たずして毎日パンが売り切れてしまうそうだ。

ゴディパンは5年間で20店舗を出店する計画を立てており、2025年3月28日には2号店を名古屋にオープンさせる。

「日常的にチョコレートの楽しさを届けていくために、地域に根差していくベーカリーを目指しています。今回の2号店は『ゴディパンが町にやってきた!』というコンセプトで、東京とは違う場所で出店したかったんですね。

名古屋は喫茶店の文化が根付いていて、非常にゴディパンとの相性も良い。今後は各地域ならではのローカライズ商品も販売し、ゴディパンの魅力をさらに広げていければと思います」

ゴディバは長年にわたり、高級チョコレートブランドとしての地位を築いてきた一方、近年は「日常の中で楽しめるゴディバ」という新たな価値を生み出している。

今年のバレンタインは、ゴディバのチョコレートパンを試してみてはいかが?

取材・文・撮影(人物)/古田島大介

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