「子どものケツを蹴っ飛ばす」少年野球での愛甲猛のスパルタ指導に親たちの反応は…“球界の野良犬”が思い描く新たなプロ野球のあり方
「子どものケツを蹴っ飛ばす」少年野球での愛甲猛のスパルタ指導に親たちの反応は…“球界の野良犬”が思い描く新たなプロ野球のあり方

“球界の野良犬”こと愛甲猛氏のインタビューから学ぶプロ野球、今と昔。1980~90年代のプロ野球選手の豪快&怖すぎるエピソードだけでなく、真剣にプロ野球界の未来について考える。

(全3回の3回目)​

「人気も年俸も今がプロ野球史上MAX」

#1 選手たちの奔放すぎる女遊びの実態
#2 命がけの昭和プロ野球界の恐エピソード

――今オフ、注目の移籍といえば、なんと言っても佐々木朗希投手のメジャー挑戦。愛甲さんは、佐々木投手はアメリカで活躍できると思いますか?

愛甲猛(以下、同) 活躍できる球は投げてるよ。ただ、メジャーに行ったら持続力が試されるだろうと思う。日本にいたときみたいにちょっとどこか痛いからってすぐ休んでいては評価がどんどん下がっちゃうから。

――しかし、日本人選手のメジャー流出が止まりませんね。

だって、今の日本のトップ選手だって10億円もらえてないんだよ。それに比べて大谷翔平はいくらもらってるんだって話。

――愛甲さんはいくらもらっていたのですか?

俺の最高年俸が6500万円。当時のロッテはお客さんが全然入らなかったから、当時の俺の成績で今なら2億円はもらってるな(笑)。

――日本も1980~90年代に比べれば、選手の平均年俸もだいぶ上がっていますね。

今はどこも観客動員数を伸ばしてるからね。とは言っても、今後、5~6万人もお客さんが入る球場をボコボコつくれるわけじゃないし、放映権でうまく稼げるシステムもつくれてない。球界の人気も選手の年俸も今がMAXだと思うよ。

――プロ野球はあくまでも日本人向けのコンテンツだと。

日本のプロ野球界って何でもかんでも考えが内向き。芸能界もそうだけど、市場規模がそこそこ大きいから国内で完結しちゃうんだよね。でもこれからの時代はアジア圏も視野に入れるとか、もっとグローバルに目を向けてやっていかなきゃいけないと思うよ。

――では球界はこの先、どうしたらいいと考えますか?

チケットを高くするのは逆効果。やっぱり球場まで行けないファンのためにメディア側が、どう形を変えていくのかがすごく重要でしょう。もうただ地上波で中継するって時代じゃないから。例えば、球団によってはYouTubeに力を入れて選手の素顔を見せたりしてるけど、まだまだ足りない。

――いまだに日本のプロ野球は放映権を一括にできていない面もあります。

あと、俺がよく言ってるのは、リーグを拡張すること。でも、よく議論される16球団構想は結局、国内向けに留まってしまう。だから実現可能か不可能かは置いておいて、韓国、台湾、それに中国を加えた東アジアリーグみたいなものをつくる。

そうすれば、ファンは海外にも広がって放映権やインバウンドで市場規模が広がるし、年俸が高くなれば、メジャーの一流選手が逆にこっちにやってくる流れをつくれるんじゃないかって。

“指導者”愛甲猛としても野球界に貢献

――意外と言ったら失礼ですが、愛甲さんは野球界の未来をとても真剣に考えてるんですね。現在は野球とはどのような関わりを?

「TOKYO METS」という社会人クラブチームでコーチをしてるのと、他にも定期的に小学生から大学生まで幅広く野球の指導をしてますよ。以前、俺が教えてた立正中学校は、弱小だったのが3年間で都大会(中体連東京都大会2022)や東日本大会(水戸市長旗東日本少年軟式野球大会2023)で優勝するまでになったしね。

――名指導者じゃないですか。いろいろ面倒な世の中ですが、愛甲さんの厳しい指導でも問題ない?

全然大丈夫。少年野球では親の前で子どものケツ蹴っ飛ばしてるけど、何も言われないよ(笑)。

――それは愛甲さんが怖くて何も言えないんじゃ……(苦笑)。

いや、結局、子どもとも親とも信頼関係を築くためにコミュニケーションが大事ってこと。ケツを蹴るのだって、「期待してるから指導するんだ」って気持ちを伝えてやったら、翌日「また蹴ってください」って向こうからケツを出してきたよ。

――和気あいあいとした光景が浮かびます。

それと「血が出なきゃケガじゃねーよ」って言い続けてたら、それが子どもの中で流行っちゃって。

誰かが痛いって言って倒れても、子どもたちは「血が出てないからこれはケガじゃないね」って冗談を言い合ってる。

――昭和的指導が令和の今は逆に新鮮なのかも。

時代が変わったとしても、人間って根本はそんなに変わらないからね。

――そんな愛甲さんが今後やってみたいことを教えてください。

日本版のドライブラインをやりたいとずっと思ってて、その話がいま着々と進んでいるから、それが実現できればって感じかな。

――ドライブライン?

ハイスピードカメラやモーションキャプチャなど最新機器を使って、野球の動作解析や球質の数値化をもとに科学的にトレーニングする世界最高峰の施設のことだね。アメリカにはあるんだけど、日本にはそういった施設がまだないんだよ。

――知りませんでした。

じつは、大学まで野球をやってたある病院の理事長先生が、自分の手でメジャーに行く選手を育てたいと、病院の敷地内にドライブライン的なものをつくろうとしていて、その手伝いをお願いされてるんだよね。

だから、今後はそういうかたちでも野球界のために働ければいいかなと思ってるよ。

――愛甲さんが教えた選手や子どもたちがいつかプロ野球やメジャーで活躍してくれることを期待してます!

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愛甲猛●1962年8月15日生まれ。神奈川県逗子市出身の元プロ野球選手。

左投左打。1980年には夏の甲子園でエースとして優勝を果たす。同年ロッテオリオンズに入団、1995年オフに中日ドラゴンズへ無償トレード移籍。2000年に引退後は野球解説者、俳優として活動。現在、YouTubeチャンネル『愛甲猛の野良犬チャンネル』を運営中。

取材・文/武松佑季 撮影/村上庄吾

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