
今年の春季キャンプも終わり、オープン戦がはじまった。今年も連日多くの報道陣が各キャンプ地を訪れたが、巨人、ソフトバンクなど5球団のキャンプ地となった宮崎で、最も大きな注目を集めていたのが、巨人入りした田中将大だ。
今春キャンプの一番人気「今年はマー君ですか?」
「やっぱり、マー君を見に来たんですか?」
2月上旬、プロ野球キャンプの取材で宮崎を訪れた際、タクシーの運転手や飲食店の店員から、何度かこんな言葉を投げかけられた。この時期は例年、プロ野球キャンプでにぎわう宮崎。東京から訪れたことを告げると、たいていは「キャンプですか?」と声をかけられる。
広島がリーグ3連覇を成し遂げた頃は「広島ですか?」、ソフトバンクが日本一に輝いた翌年は「今年だとやっぱりソフトバンクですか?」と、地元の声がそのまま、プロ野球界の勢力図を表すと言っても過言ではない。
2025年に関して言えば、宮崎では前年リーグ王者のソフトバンクと巨人がキャンプを開催。当然、世間の注目もこの2球団に集中するはず――。しかし、今年、最も多く聞かれたのは冒頭の「マー君ですか?」だった。
実際に巨人のキャンプを訪れても、メディアからの注目は段違い。ブルペン投球だけでなく、ウォーミングアップから一連の練習まで、つねにテレビ、新聞社のカメラが「マー君」を追いかけている。
改めて、「田中将大」というプロ野球選手の注目度の高さを実感した。
2025年、田中将大は楽天を退団。巨人のユニフォームを着て、新たなスタートを切る。日米での実績は改めてここに書くまでもないだろう。
キャンプ地でブルペン投球を見たが、実績のあるベテラン投手らしく、一球一球、フォームを確認しながら丁寧にボールを投げていたのが印象的だった。この時点でボールのクオリティ云々を語るレベルではないのは、明らかだ。
ただ、筆者の目には明らかに他の投手とは違う緊張感と、覚悟のようなモノ、独特の雰囲気を感じることができた。それらも踏まえて、今季の田中将大が果たして「復活」を果たせるのか、主観ではなくデータの部分を交えながら考察する。
復活の鍵を握るのは「アウトローの真っすぐ」!?
昨季、田中将大は前年受けた右ヒジ手術の影響もあり、シーズン通してほぼファームで過ごした。これは、2007年のプロ入り後、自身初のことだ。
楽天に復帰した2021年からの3年間も、決して「期待通り」の結果ではなかったとはいえ、先発ローテをしっかりと守り抜いていただけに、やはり年齢的なコンディション調整のむずかしさ、右ヒジ手術の影響は大きかったと言える。
近年の田中将大の成績、投球データを振り返ったとき、もっとも気になる部分がある。それが、「球速」だ。MLB最終年となった2020年、田中将大のフォーシームの平均球速は92.3マイル(約148.5キロ)だった。
しかし、昨季9月28日のシーズン唯一の一軍登板では、ストレートの平均球速が140キロ代前半まで落ち込んでいた。昨季は登板がこの1試合だけだったため、一概に「球速が落ちた」とは言えないが、2023年を見てもストレートの平均球速は140キロ台中盤を記録しており、年々球速が下がっているのは間違いない。
もちろん、田中将大にはストレートだけでなく、キレのいいスライダー、スプリットという武器がある。ただそれも、「ストレート」という生命線があってこそだ。2013年に楽天が日本一を達成し、シーズン24勝0敗という異次元の記録を残した際にバッテリーを組んだ嶋基宏(現ヤクルトコーチ)が、田中将大についてこんな話をしてくれたことがある。
「アウトローに強い真っすぐを『いつでも投げられる』という自信が、本人にも僕にもありました。困ったらそこに投げれば、大怪我はしない。投手の基本でもありますが、それを高いレベルで体現できるのは、本当にすごいと思います」
あれから12年がたった今、当時のクオリティを再現しろ、というのはむずかしい話かもしれない。ただ、投手の高速化が著しい現代野球で、「140キロ代前半」のストレートを軸にするのは非常に困難と言える。
「田中将大の最終章」
だからこそ、田中将大には今季、まずは本来持っている「強い真っすぐ」を少しでも取り戻してほしい。経験、スキル、メンタルに関して言えば、現在のプロ野球界でも屈指の存在なのは間違いない。
そこに恩師でもある故・野村克也氏が幾度となく説いた「投球の基本」でもある「アウトローへの真っすぐ」が復活してくれさえすれば……。
日本球界復帰後、田中将大の投球、成績に関しては多くの心無い声が浴びせられた。「結果がすべて」の世界である以上、ある程度の批判は仕方ないかもしれない。
楽天でプロ野球選手としてのキャリアをスタートさせ、名門ヤンキースでエースを張り、再び古巣楽天へ復帰。そして今季、自身初のセ・リーグとなる巨人で再起を誓う背番号11。「田中将大のプロ野球人生最終章」がどんな展開を迎えるのか、期待を込めて見守りたい。
取材・文/花田雪