
医療費が高いアメリカでは予防医療の意識が日本よりも高く、多くの人がビタミンCを積極的に摂取しているという。日本でもビタミンCは人気だが、どれくらいの摂取量が必要かを知っている人は少ないのではないだろうか?
書籍『新装版ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』より一部を抜粋・再構成し、はちみつと一緒に摂取することで免疫力の推進に繋がるビタミンCの基礎知識をお届けする。
「病気の予防や治療にビタミンC」という一般的な習慣
「ビタミンC博士」と呼ばれるアメリカの生化学者、ライナス・ポーリング博士が残してくれた功績の輝きはとても大きい。
博士はその他にも化学者としてさまざまな業績を残した人だが、ごく普段の私たちの生活にシンプルに役立つありがたさという意味では、ビタミンCの研究は、ほんとうに希有な偉業と言えるのではないだろうか。
ポーリング博士が1970年に『ビタミンCと風邪*1』、1976年に『ビタミンCとかぜ、インフルエンザ*2』を出版して以来、ビタミンCをサプリメントとして摂ることを習慣にする人が世界中に増えたのは確かなことだ。
その後、博士によってビタミンCの抗がん作用に関する論文や本*3が発表され、風邪ばかりでなく他の病気の予防や治療にまで研究が広がったことが知られるようになり、関心は世界中でさらに高まった。
思い返してみると、日本でも80年代半ばの一時期はビタミンCブームの最中。通学、通勤途中の電車の中吊り雑誌広告や本などで、その効用を謳うたう文句をよく見かけたような気がする。
今ではビタミンCは心臓病やその他さまざまな病気の予防にもいいということが広く知られるようになって、実際、アメリカにいる身内や友人、知り合いは、ほとんどの人が病気の予防のためにビタミンCのサプリメントを摂っている。
ビタミンCを上手に摂ることができれば、うっかり風邪をひきかけてもひどいことにはならず、お医者にかからなくても乗り越えられるとみんなが知っているからだ。
医療費がべらぼうと言っていいアメリカでは、そう気軽に病院に行くわけにいかず、おちおちひどい風邪もひけない。
心臓病などになったら、請求書のことを考えただけで心臓マヒを起こしてしまうから、自己管理して防衛しなければ、と考えている人も冗談抜きにたくさんいる。
何しろあちらは高額治療で破産するという中産階級もそう珍しくない、病気と医療に関しては荒野の世界。
ビタミンCはそんな中、荒野でうっかりのたれ死なないために、病魔に繰り出す手裏剣みたいなものなのだ。
国の摂取推奨量は、「壊血病」にならないための数字でしかない
アメリカでは、自分がひょいとガムやキャンディを口に放りこむついでに、「あなたもどう?」というような感じで、ビタミンCの錠剤を勧められる場にたまに出くわす。どれだけ摂っても害がなくからだにいいもの、とみんなが認識している点では、ビタミンCは「安全な食品」扱いだ。
私自身の体験を思い起こせば、はじめにビタミンCと印象的な出会いをしたのは、やはりブームの最中の日本で、25年以上前のことだった。
ビタミンCの摂り方について、ポーリング博士来日時のインタビュー記事*4を読んだとき、なんだかすごく面白そう! とワクワクしたのを覚えている。
アメリカでのビタミンCの1日当たりの摂取推奨量がたったの60ミリグラムだった時代(当時の日本は50ミリグラム*5)に、ポーリング博士は何年間も、ビタミンCのグラム単位での摂取を提唱、実践していた。
85歳当時は、普段、日に18グラム(1万8000ミリグラム)を摂っていたと言う。それは、もっとたくさんのビタミンCを摂れば、病気の予防や治療が効果的にできるのだという理論の発見に基づいた摂取量なのだ。風邪をひきかけたりしたら、さらにもっと量を増やすということらしい。
もともと、国の摂取推奨量というのは、あくまでビタミンC欠乏症である「壊血病」にならないための数字なのだ。
ちなみにビタミンCの別名「アスコルビン酸」は、「壊血病=スコルビュティック(scorbutic)」の前に、それを否定する「a」をつけることから生まれたことばなので、「壊血病防止ビタミン」というわけで、確かに命名の理屈は通っている。
しかし、壊血病というのは死と隣り合わせの病であって、壊血病になるほどビタミンCが不足したら、それは大変な非常事態だということだ。
ビタミンCの「適量」は自分で見つける
ポーリング博士の発見のポイントは、ビタミンCは、その何倍にも摂取量を増やしても安全だし、増やすことによって、壊血病だけではなく、もっとさまざまな病気を未然に防ぎ、また治療することができる力を持っているということだった。
18グラムというのは正直ちょっとびっくりしたが、適量の数字は人によってまるで違うし、また同じ人でも年齢や体調によって全然違ってくるので、ちょうどの頃合いを自分で探し出すのが賢い使い方だと言う。
当時85歳のポーリング博士も、60代の頃は、一日2、3グラムから始めたらしい*6。
水溶性のビタミンは、摂りすぎても余分は尿に出てしまうから副作用の心配はいらないし、やや軟便になることが十分足りているという目安になるので、適量の判断を自分でするのも簡単だと言う。
なるほど、いずれにしても、理論がシャープなだけではなく、研究を我が身で実践している先生の話は、聞いていて安心感があり、やってみようという気になりやすいのである。
何より「自分のからだで確かめながらポイントを探す」というのは、普段の私の遊びのつぼ、ど真ん中だ。
そこで我が身をじっくり観察しつつ、500ミリグラムのビタミンCと、それと組み合わせるといいとおすすめのマルチビタミン・ミネラルの錠剤とともに、春夏秋冬をひとまわり過ごしてみることにした。
その結果、毎日の量とタイミングをある程度うまく調整できるようになるまで1、2ヵ月。
1年が経過する頃には、風邪を素早く治すのにも、ストレスがたまりがちなときも、タイミングよく量を増やすことでうまくしのいでいくコツと、絶対風邪をひきたくない! というときの予防の術を、まがりなりにも身につけた。
個人的には、我が家では家族も含めて、ビタミンCの効果をからだでめでたく納得し、うん、なるほど役に立つんだねえ、という実感を得たのは確かなことだ。
元気なときとひどい風邪をひいて体調が悪いときの適量の差は、当時の私の場合、1日2グラムから10グラムぐらいの間だということもわかった。
ああ懐かしい。あれは、やってみて、ほんとうに面白かった。風邪やストレスとの新しい闘い方を習得し、とってもためになったことも事実だ。
写真/shutterstock
脚注
*1 原題『VitaminC and the Common Cold』(邦題『さらば風邪薬!ビタミンCで風邪を追放』)。
*2 主要参考文献 Vitamin C, the Common Cold and the Flu, L. Pauling, 1976. W.H. Freeman & Company.(『ライナス・ポーリングのビタミンCとかぜ、インフルエンザ』L.ポーリング著 村田晃訳 1977 共立出版)
*3 主要参考文献 Cancer and Vitamin C: A Discussion of the Nature, Causes, Prevention, and Treatment of Cancer with Special Reference to the Value of Vitamin C, E. Cameron and L. Pauling,1979. W.W. Norton & Company.( 『がんとビタミンC』 L.ポーリング、E.キャメロン共著 村田晃、木本英治、森重福美共訳 2015 〔初版は1977〕 共立出版)
*4 主要参考文献『おいしく治そう・栄養療法の権威が答える健康ハンドブック』丸元淑生著 1986 文藝春秋
*5 現在の推奨量は、アメリカ90ミリグラム、日本は100ミリグラムになっている。
*6 主要参考文献『新・ビタミンCと健康・21世紀のヘルスケア』村田晃著 1999 共立出版
これまでに専門的な研究によって一般的な安全性や効用が発表され、広く確認されてきた素材やその活用法について、著者の経験を合わせながら紹介しています。しかし、どんなに安全性が高いとされる素材も、全ての人に相性がよいということはありません。「自分との相性」を注意深く確かめながら、自己判断の上で、活用するようにしてください。
また、はちみつは、幼児の発達と健康に大変よいとされているものの、過去にはちみつの中にボツリヌス菌が見つかったことがあることから、腸内細菌叢が未発達な1歳未満の乳児には与えるべきではないとされています。
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*本書は2015年に発行した『ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』の新装版です。新装版の制作にあたり、脚注など一部を加筆修正し、巻頭カラーページ「おいしいおうち薬局の作り方」を新たに加えました。