「こんなに弱い僕でも、僕でよかったの?」小学校までもたないと言われた病を抱えたひとり息子と俳優・原田大二郎が歩んだ50年
「こんなに弱い僕でも、僕でよかったの?」小学校までもたないと言われた病を抱えたひとり息子と俳優・原田大二郎が歩んだ50年

俳優として今年で55周年を迎える原田大二郎さん(80)。小さい頃から病気がちな50歳のひとり息子と生活する原田さんご夫妻の今、そして今後に迫った。

(前後編の後編) 

〈前編〉 

「いいな、ママは体が痛くなくて」

俳優・原田大二郎さんのひとり息子の虎太郎さんは、生後間もなくして、難病「ヒルシュスプルング病(結腸巨大症)」を患っていることが発覚。その後もさまざまな病気や困難に悩まされながらも、2023年には父親が書き下ろした舞台で、憧れだった役者への道を歩き始めていた。

しかし、嬉しいこともある反面、2019年に受けた大手術の影響で、自宅での時間が長くなり、外へ出かけることもままならなくなっていた虎太郎さん。

そんなストレスからか、お風呂に入るタイミングやチャンネル争いなど、日々、些細なことで父子のいさかいが起きてしまうという。

「最初は小学校までもたないと言われ、次は卒業できないと言われ続けたこた(虎太郎)が、50まで頑張ったんだよね。だからもう文句言うことないんだよね。『ああしなさい、こうしなさい』と言わないで、こたの好きなように生かさせてあげるのが正しいんだよね、本当は」

原田大二郎さんは独り言を言うかのように、日々のありがたみを噛みしめる。

先日、虎太郎さんは母に、「いいな、ママは体が痛くなくて」と漏らした。

「日々、私に迷惑をかけているという思いもあるんだろうなと。『ママ、こんなに弱い僕でも、僕でよかったの?』と言われたんです。それくらい、こた自身もすごく気を遣っているんだと思う。産まれた時に私はこの子を一生守っていくと決めて、ありのままのこたを受け入れようと思っています」(原田大二郎さんの妻・規梭子さん)

その母の覚悟が虎太郎さんにはしっかりと伝わっていて、「家族で一番優しい」と、少し甘えた表情を見せた。

そして「兄弟を作ろうと考えたことはなかったのか?」と筆者が問うと、

「こたと同じように、(身体が)弱い子だと2人は育てられないぞと思いました」(大二郎さん)

「もう無理だったね。

気持ちの上で、まずこの子を育てなきゃって。それに(病気は)先天的なものだからね、仕事もすごくしたかったし、この子1人で精一杯だった」(規梭子さん)

という。その言葉からは、これまで家族3人が一丸となって、今日という日を大切に過ごしていることが感じ取れた。

今は、原因不明の「線維筋痛症」という、全身に慢性的な痛みやこわばりの症状が出る病に苦しんでいる虎太郎さんは「夜になったり、雨が降ったり、天気が悪かったりすると痛くなる」と話す。

昼夜問わず痛みを感じ、規梭子さんは寝ずに虎太郎さんの身体を擦り続けている。

「痛い場所が移動するのよね。マッサージしたりすると少し気が紛れて、スーッと寝付ける。毎晩のことで、私は全然寝られていない」と規梭子さんは言いながらも、「生きててくれるだけでありがたい」と笑顔を見せる。

「いつかひとり息子がひとりぼっちになってしまう」不安を消した出会い

夫婦は今年で81歳。いつかひとり息子がひとりぼっちになってしまう、という不安にいつも襲われていた。しかし10年ほど前に、その不安に対する転機が訪れていた。

それは、原田さんとの共演をきっかけに、虎太郎さんとも仲よくなった俳優Aさんがいるからだと、原田夫婦はそろって口にする。

「私と共演して、こたを舞台に誘ってくれた俳優のAさんと出会えるまでは、すごい不安だった。

俺たち夫婦でその話をしたことはないけれど、もう絶対に俺たちが死んだら、こいつ1人だよなって。周りの人にこたは恵まれているから、知り合いたちが面倒見てくれるだろうとは思ってはいたけど」(大二郎さん)

「Aさんはとても素敵な方で、こたにとても優しい。舞台が決まるとこたと台本の読み合わせをしてくれたり、稽古にも根気強く付き合ってくれるんです。それもあって、こたも舞台に立つことができました。将来の頼みはAさん。私たちの2人目の子どものような感覚でもあるの。一緒にこの家で、こたとAさんのごきょうだいとかでシェアハウス的に暮らしてくれれば嬉しい」(規梭子さん)

原田大二郎「まだまだ死ねないね」  

取材後、筆者に豪華な手料理を振舞ってくれた規梭子さん。配膳の準備は、原田さんが主になって、虎太郎さんも手伝う。

温かい料理を頂いているうち、虎太郎さんは時折手が止まり、途中で横たわってしまった。2時間にわたるインタビューに、言葉通り、全力で応じてくれた疲れが出てしまったようだ。

恐縮する筆者に規梭子さんは「たまにはこういう刺激がないと、毎日家にいるだけだと仕方がないから」といい、横たわる虎太郎さんの隣に座ると、頭痛を訴える虎太郎さんの頭を優しくマッサージし続けた。

原田さんは「あなた(筆者)に心配してもらいたいんですよ(笑)」と笑いを混ぜてくれる。

規梭子さんは「大二郎さんが明るくいてくれるから、救われています。そのおかげで大丈夫だって思えるし、笑顔が多いわよね」と。

その通り、取材中、原田さんが幾度となく会話に冗談を入れ、規梭子さんと虎太郎さんも一緒に声を出して笑った。

虎太郎さんの次の目標は、6月に公演される山本周五郎著の『柳橋物語』に出演し、長崎県の五島列島で再演される『ちっちゃな星の王子様』で主演すること。5月には稽古が始まる予定で、「楽しみにしている」と話してくれた。

取材の最後、虎太郎さんに、両親への想いを聞いた。

「両親に感謝することはしょっちゅうです。本当に小さい頃から、よくこの僕を育ててくれたなっていうのがあるから。やっぱりそこはすごい感謝します」

夫妻は、「そんなこと思ってたの?」と口にし、驚きと喜びが入り混じった表情で息子を見つめた。

一方、原田さんは3月23日にはパーカッショニストの佐藤正治さんと6年続けている『朗読とパーカッションの新世界』を「STAR PINE’S CAFE」(吉祥寺)で公演、9月にも豊岡演劇祭で朗読の舞台を控えている。

「まだまだ死ねないね」といい、家族を和ませるのだった。

 〈前編はこちらから『「玄関の外で『お前死ぬ気か』って…」俳優・原田大二郎の病を抱えた息子が見つけた一筋の光』〉 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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