
「遠くない将来、都心部のタワマンはほとんど中国人所有になるかもしれない」。年々、増加するインバウンドだが、それによりマンションをはじめとする不動産価格も上がり続けている。
『2030年の不動産』(日経BP/日本経済新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
外国人投資家によるタワマン爆買い
外国人投資家も、本の不動産に注目しています。地震や洪水などの自然災害が多い日本ですが、それでも他国と比べればカントリーリスクが低く、魅力的な投資対象と見なしているためです。
数としては、隣国の中国人投資家が圧倒的に多くなっています。それ以外だと、欧米のほか、最近ではその他のアジア諸国(台湾、シンガポールなど)出身の投資家も珍しくありません。さまざまなタイプの物件が買われている印象ですが、顕著なのは都心部のタワマンです。
これまでの円安の後押しにより、高額物件を爆買いする外国人投資家が増えましたが、今後、為替が円高に振れても日本の魅力は揺るがず、不動産投資も加速していくでしょう。
ちなみに、現時点の日本では10億円を超えるような超高額物件というとまだ数が少ないですが、先進国の主要都市には、富裕層をターゲットにした超高額物件がトにした超高額物件がたくさんあります。
たとえば、ニューヨークでもっとも高層の住宅用ビル「セントラルパーク・タワー」最上階のペントハウスは、2億5000万ドル(1ドル=150円で計算すると、日本円にして375億円前後)という異次元の販売価格で世界的に話題になりました。
2023年に竣工した東京都港区の麻布台ヒルズのレジデンスは、販売価格が最高200億円以上と報道されましたが、日本でも今後、このような超富裕層・投資家向け物件の供給が増えていくと考えられます。
日本の不動産を買っている外国人投資家は、10億、100億という単位のお金を即金でポンと出せる並外れた富裕層ばかりではありません。最近は、一部の外国人の間で、日本の空き家に対する関心が高まっています。
ご存じのとおり、日本では住み手のいなくなった戸建の空き家が急増しています。郊外に行くと、そうした物件を激安で入手できるため、伝統的な和風のしつらえの民家(日本人の普通の感覚からすると、古めかしい昭和のボロ家)を安く買い、DIYして住んだり、民泊にして貸したりする事例が増えてきているのです。
駅前の豪華なタワマンと郊外にある古い戸建──両極端ではありますが、これらは2030年以降も外国人投資家の関心を集め続けるでしょう。
地方にもタワマンの波が押し寄せる
タワマンの総数が圧倒的に多いのは東京です。次いで多いのが大阪、神奈川、兵庫、千葉、埼玉といったところ。いずれも日本の中では特に人口が密集しているエリアですが、実はそのほかの大部分の道府県にも、すでに多くのタワマンが建設されており、その数は少しずつ増加し続けています。
原則として、タワマンは駅前・駅近の好立地に建設されるため、新幹線の停車駅周辺などには高確率でタワマンがそびえ立っています。
地方でタワマンが増えていることには、いくつかの理由が考えられます。まず、デベロッパーが都心部で新築のタワマンを供給できなくなり、地方に流れてきているというのが一点。加えて、自治体のニーズも挙げられます。
都心ほど人が多くないエリアにわざわざタワマンを建てる必要があるのか、と思われるかもしれませんが、多くの地方都市では郊外から市の中心部に人口が回帰する現象が見られています。
一人暮らしが困難になり、車の運転も難しくなった高齢者の場合、利便性の高い駅前に移り住んだほうが安心・安全です。自治体としても、タワマンが建つと人口が増え、地価の上昇も見込めますし、人口密度が高くなるため行政効率がアップ。
つまり、コンパクトシティ計画の促進に役立てることができるため、タワマンを歓迎しているケースが多いのです。
他方で、兵庫県・神戸市は2020年に市中心部におけるタワマン建設を規制し、大方の流れに逆行する動きを見せています。中心部にはタワマンよりもオフィスや商業施設を設けることを目指し、近郊のベッドタウンにテコ入れすることで、市全体にバランスよく人を呼び込もうという狙いがあるもよう。このように、生き残りをかけた自治体の都市計画もさまざまです。
地方都市のタワマンは、そのエリアの中の高額物件であることは間違いありませんが、東京などの一等地物件と比較すると、かなり手の届きやすい価格設定になっています。2025年時点で、都心にある新築タワマンの販売価格は1億円をはるかに超えています。
タワマンは管理費や修繕積立金といったランニングコストも、普通のマンションの1.3~1.5倍程度高くつくので、かなり世帯年収が高くなければ住み続けるのが難しいものです。
これに対し、地方都市のタワマンは高層部を別にすると、1億円未満で買える住戸もたくさんあります。もちろん、ランニングコストは高額なので、地元でも裕福な層がターゲットになりますが、極端な富裕層でなくとも、駅近・新築のタワマンが買えるのは魅力的です。
都心部では、一等地のタワマンに住んでいることが一種のステータスになっていますが、それは地方都市でも変わりません。2030年以降もタワマン人気は続き、タワマンならば不動産の価値が毀損しづらいという状況が続いていくでしょう。
さて、ここまで少し先の未来に起きているであろう変化を予測してみました。
長嶋修●ながしまおさむ/さくら事務所会長、らくだ不動産顧問、日本ホームインスペクターズ協会理事長、さくら事務所会長。らくだ不動産顧問。日本ホームインスペクターズ協会理事長。国交省・経産省等委員歴任。多数のメディア出演 ・講演・出版・執筆活動で政策提言や社会問題全般。
文/長嶋修 写真/shutterstock
『2030年の不動産』(日経BP/日本経済新聞出版)
長嶋修
【内容紹介】
85%の地域が下落する?――不動産「三極化」時代に備えよ!
異次元の不動産格差時代がやってくる。人口減少、金利上昇、外国人投資家の急増、気候変動――マクロな変化が市場を根底から揺るがす。
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市場のルールが変わる今、正しい知識がなければ、大きな損失を招く。
不動産の購入や売却を考える方はもちろん、市場の未来を見据え、賢い選択をしたいすべての人に贈る1冊。
◆本書の内容より
・下がりにくい物件、高騰する物件の4条件とは?
・国道16号の外では売るのも貸すのも難しくなる
・住宅ローン金利はこれからどうなる?
・2001~03年、2010~14年竣工の中古はなぜ狙い目なのか?
・和光市、藤沢市、堺市北区…これから注目のエリアは?
【「不動産のあれこれ三極化診断」がダウンロードできるQRコード付】
【目次】
はじめに 「グレート・リセット」にどう備えるか
序章
2030年の不動産市場を揺るがす7つの変化
第1章 異次元の不動産格差時代がやってくる
第2章 2030年、マンションの選び方はこう変わる
第3章 2030年の戸建市場の行方
第4章 2030年に“地価が上がる”地域とは?
第5章 2030年の住宅コストと不動産投資