「第2のニセコ」といわれ、近年注目を集めている長野県・野沢温泉村。特にコロナ禍以降はインバウンドの影響もあり、外国人観光客が急増。
「第2のニセコ」野沢温泉村で深刻化するオーバーツーリズムの問題
現在、日本各地で“ニセコ化”が進んでいる。ニセコ化とは、北海道ニセコ町周辺のスキーリゾート地のように大量の外国人観光客が訪れることで発生しているバブル現象を指す。
その中でも、長野県の北東部に位置する野沢温泉村は「第2のニセコ」といわれており、上質なパウダースノーのスキー場や歴史ある温泉を求めて、毎年、多くの外国人観光客が訪れている。
SNS上では、実際に野沢温泉村を訪れた日本人観光客から「外国人の多さにびっくりした」「いまや店員まで外国人ばかりで日本語が全く通じない店がある」などの声があがっている。
また、SNSでは野沢温泉スキー場の上ノ平方面にある道路標識が観光客によってステッカーまみれになり、傷も多くつけられていることが話題になっている。
標識はゲレンデ脇にある県道にあり、柱の部分が雪に埋まっていることから「手が届く道路標識」といわれ、連日多くの観光客が訪れている。
中国で人気のSNS「小紅書(RedNote)」には、中国人観光客が標識にぶら下がる動画や写真が多く投稿されている。
それを受け、スキー場を運営する「株式会社野沢温泉」は3月2日、利用者に公式ホームページにて以下のように呼びかけた。
※以下、公式ホームページ原文
上ノ平方面にあるブルーの道路標識が大変話題となっております。
写真に収めるスポットとして、多くの皆さまが思い出の一コマを収めていただいていますが、一部の方々が道路標識に傷を付けたりステッカーを貼り公共の道路標識に損傷を与えている事は大変残念です。これらは罰せられる行為となります。思い出の写真を持ち帰るだけに留め、マナーを守って頂ますようお願い申し上げます。
(https://nozawaski.com/report/23571/)
また、今月5日に県北信建設事務所 飯山事務所が標識を確認したところ、ステッカーはなんと約170枚も貼られていた。そこで、同事務所はステッカーをはがし、ロープで囲って注意書きの看板を掲示する対応を取ったという。
特にコロナ禍以降はインバウンドの影響もあり、外国人観光客が急増。それにより、野沢温泉村では“オーバーツーリズム”が引き起こす問題が年々深刻化している。
「仕事中は基本的にずっと英語で接客しています」
オーバーツーリズムが引き起こす問題に対し、地元民はどう考えているのだろうか? 実際に現地を訪れ、取材を行なった。
野沢温泉村の最寄り駅「飯山駅」付近で観光業を営む50代女性はこう話す。
「駅の利用者のほとんどがスキーや野沢温泉目当ての外国人観光客で、日本人よりも外国人の数が圧倒的に多いです。言葉が通じず、意思疎通が図れないことにいつも苦労しています。日本語を話す私たちのほうが少数派に感じるくらいです。この歳にして英会話教室に通うことも考えています」
長年、野沢温泉村の観光業に携わる60代女性も、仕事をする上で「英語は必須」だと語った。
「お客さんのほとんどが外国人だから仕事中は基本的にずっと英語で接客していて、日本語はあまり使いません。中国や台湾、東南アジアからのお客さんも最近増えてきているので、翻訳アプリもよく使っています」
野沢温泉村に古くからある土産屋を営む70代男性は、お客さんの約7割が外国人観光客だと話した。
「この歳で英語を聞き取るのはすごく大変ですが、英語が話せなかったら商売上がったりなので毎日必死ですよ。カタコトでも日本語を話そうと努力する観光客や、翻訳機を使ってくれる観光客には好感を持てますが、『英語が理解できて当然だろ』というような態度の外国人には正直、イラッとしますね。
それでも、我々世代はスキーバブル崩壊を経験しているので、贅沢なことは言えないんですよ。客足が戻ってきているだけでありがたい」
野沢温泉村では、1990年のバブル経済崩壊とともにスキーブームが終焉し、スキー場来場者数が減少。スキー場は赤字経営へと転落し、ついにはシーズンあたり3億円、累計19億7千万円もの赤字を出す状況へと陥った。
しかし、2007年にはインバウンド振興のための協会が設立され、その後10年間でインバウンドの宿泊客は約10倍に増えた。
野沢温泉村の観光業に古くから携わる60代男性もこう語る。
「長野県では1998年にオリンピックが開催され、野沢温泉村でも昔からスキーの国際大会が開かれているんです。だから、地元民は外国人に寛容な人が多く、60代70代でも英語が話せる人はたくさんいます。
ただ、外国人観光客が体調不良や怪我で救急車を呼んだとき、救急隊員の方は英語が話せないことが多く、意思疎通ができなくて困ることもあると聞きます」
マナー違反が横行するも…「温泉のルールはたくさんあってムズカシイ」
外国人観光客は野沢温泉村に対してどう思っているのだろうか? マレーシアから来た30代男性はこう話す。
「雪を見るなら北海道まで行かなきゃいけないと思っていたけど、東京から新幹線でたった2時間半でウィンタースポーツができるなんてアメージング! 生まれて初めて雪を見られて感動したよ! でも、温泉のルールはたくさんあってムズカシイね…」
以前、ニセコにも行ったことがあるというイギリス人の30代男性もこう話した。
「ここはニセコと違って、東京駅から新幹線で気軽に来られるからいいね。
温泉街にいる外国人観光客に話を聞いたところ、5日~1週間の長期滞在者が多く、中には1ヶ月以上滞在するという人もいた。1ヶ月間滞在中のオーストラリアから来た30代女性に話を聞いてみた。
「毎年、野沢温泉村にスキーをしに来ています。ここは雪の質がすごくいいからオーストラリアのスキーヤーからも大人気スポットです。しかも、ニセコほど混雑していないし、無料で外湯に入り放題なのが最高! でも、お湯の温度は外国人にとって熱すぎるから水で薄めないと入れない」
とはいえこのところ、観光客のマナーの悪さが度を超えているとの声も。野沢温泉村で生まれ育った30代男性はこう話した。
「一番困るのは観光客の“歩きタバコ”と“ゴミのポイ捨て”。温泉街のいたるところに喫煙所があるにもかかわらず、店や宿の前で平気でタバコを吸い、吸殻をポイ捨てする観光客もたくさんいます」
また、野沢温泉村には外湯が13ヶ所あり、それらは古くから地域住民の共有財産とされているため、だれでも無料で利用できることから観光客に人気を集めている。前出の男性は、外湯でのマナーについてこう続けた。
「最近、大声で騒いだり、周りに人がいるのに立ったままかけ湯をしたり、温泉に水を勝手に足したりする人が増えました。もともと温泉は地元民の暮らしの一部だったのに、ゆっくり過ごせなくなってしまいました。
地域へのリスペクトがなく、ルールを守らない観光客にはうんざりです。
その後、17時半頃になると日が落ちてきて、街中に“夕食難民”の姿が増え始めた。記事後編では、オーバーツーリズムによる飲食店不足の実態や日本人観光客の本音に迫った。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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