
生徒たちが学舎から卒業するこのシーズン。その成長した姿を微笑ましく見送りながらも「これ以上、教員を続けられない」と「教員卒業」を決める人々がいる。
年下の教員から“お前”呼ばわりされ…
ひとり目の情報提供者は、関東近郊の県立高校に勤務して20年になるK先生だ。40代前半の男性で総括教諭という立場にあるという。そのメールはこう始まっていた。
「現在、3つ目の高校で勤務をしておりますが、来年度末で退職を予定しております。現在の勤務校も含めて『教師のいじめ』は存在していると思います。
特に、いじめをしている本人にはその意識がなく、むしろ正義感からそうした行動に出るようでした」
これまで勤務した2つの高校でも大なり小なり理不尽なことはあったが、現在の高校は特にひどく、状況が変わらないことに失望したK先生は退職を決断した。K先生に話を聞いた。
「現在私が勤める高校には、かなり問題行為の多い30代の一般教員がいます。この教員は、他の一般教員や、総括教諭という自分よりも立場が上の私に対してなど、相手の年齢や役職に関係なく大声で叱責したり、注意や指摘をしてくるのです」
ある時、K先生はPTA会長である親御さんから「PTA活動に関してHPの内容が更新されていない」との連絡を受けた。
その30代教員はPTA担当でもあったようで、K先生が親御さんから受けた報告を30代教員に伝えたときに返ってきたのが、こんな言葉だったという。
「私はその30代教員の机に行き『親御さんから連絡があった。
するとその教員の表情が一変し、私を指差しながら『お前がやってるのは越権行為だ!』と“お前”呼ばわりしてきたのです。
私が驚いて『先生、ご自身の言ってること、お分かりですか』と言い返すと、『それが越権行為なんだよ!』とのことでした。この教員からこのような理不尽な怒声を受けた先生は何名もいます」
PTAの過去4年間の会計に「使途不明金」が…
また、何よりも問題を感じたのは、PTA担当が30代教員からK先生に切り替わった年に改めてPTAの会計を見直した際に、過去4年間にもわたり「使途不明金」があったことだという。
「保護者側と教員側のどちらにも領収書のないものや、誰が使ったかもわからない香典など、5万円ほどの使途不明金がありました。
副校長と先ほどの30代教員に問い合わせると『自分は印鑑を押しただけ』と言い、挙句『今年の担当はあなた(K先生)だから、そちらで確認してくれ』とか『もう校長の決裁が下りてるから問題ない』などと言ってきて…。過去の問題は、今年の担当者である私が対応すべきだと責任をなすりつけてきたのです」
隠ぺい体質の管理職とゆとり世代の教員の間で板挟みとなり、理不尽な対応を迫られる形となったという。
K先生は「県立校は県のお金で、PTAは保護者のお金で運営されていること、そんな意識を元に『ミスなく良好』の精神で20年間教員を続けてきた」という。
そんなK先生にとって、これらは「これまでの教員生活で自分が信じてやってきたことは何だったのか」と打ちのめされる出来事だった。
「この高校に入り、総括教諭の立場に推薦していただけたのはよかったですが、昇給はたった7000円です。他に5名いる総括教諭の中には、やりたくない仕事は全力で断る方もいます。私を含め他の教諭に仕事のしわ寄せが行きます。
これまで私が勤めてきた県立高校には、教諭同士がタッグを組んで偏差値の上がった高校もありましたが、この学校の教諭の『やる気のなさ』は、他の教諭にも伝染します。
K先生はすでに退職届も出しており、その決断が変わることはない。今後、一般企業への就職も考えているという。
「学年主任からのいじめを教育委員会や校長に訴えたのですが…」
次の情報提供者は、関西地方の公立中学校で「講師」(教員免許を有してはいるが、教員採用試験に合格していない非正規雇用の先生のこと)として15年間勤めてきた、40代後半女性のU先生だ。
U先生は大学在学中に教員採用試験を受けるも、「今でこそ倍率は過去最低ですが、当時は倍率がものすごく高くて難しかった。私はその採用試験に落ち、再度トライすることなく、講師として勤めてきた」と言う。
「講師といえど、クラスの担任を持つこともあるんですよ。講師は正規教員よりも、もちろん立場は下なんですが、これまで5校以上経験した中でも、嫌な思いは一切してきませんでした。
しかし、現在の中学校の学年主任の先生は、ことあるごとに私をいじめてくるのです」
一体どんないじめなのか。
「昨年の入学式の際に私の礼服を見て『礼服って、どんなのか知ってる?』と嫌味を言い、『私の後ろを歩きなさい』と新人扱いしたのです。
『まああなた、正規(教師)じゃないしね』とみんなの前で言ったり、学生の答案の私の採点にミスがあったことに対し、わざわざ間違った部分に付箋を貼って『この人、こんなに間違ってるの!』と言いふらしたり。
ときには、私のマーカーペンが主任の筆箱に入っていたので『それ、私のです』と言うと『あ、これ? はい』と謝ることなく返してきたこともありました」
また、その学年主任からは職員室内で他の先生がいる前で「そろそろ気づいたら? あなた、みんなから嫌われてるよ」と言われたこともあったという。
日々の些細な嫌味や指摘とはいえ、これを毎日されたら嫌になるのも当然だろう。
「学年主任の言動について覚えてる限りのことを列記して訴えました。メールを送ったのは去年の初夏です。夏休みの終わりに校長とも話しました。でも『今回はパワハラに該当しない』と言われてしまいました。
私の経験上、このようなケースは前々任校までさかのぼり、当該教師に不適切行為があったかどうかの調査が行なわれるはずで、それに『該当』する言動もあったようですが、年度途中だからということで本人に対するお咎めもありませんでした」
今年度で退職を決めたU先生の次の就職先は「塾講師」だという。
「やはり子どもの教育には関わっていきたいから塾に勤めます。ただでさえ教員ひとりの作業量が増えている中で、教員同士の足の引っ張り合いや嫌味を言うなどの行為が横行すると、立場の弱い先生や真面目に職務にあたろうとする先生が疲弊します。教員は国の根幹です。その教員の質の低下は何を意味するのでしょうか」
文部科学省の「令和4年度学校教員統計」によれば、公立高等学校の教員離職者は3年前より355人増加。
また離職の理由については、公立中学・高校ともに「病気のため(精神疾患含む)」「転職のため」とする回答がこの10年ほどで増加し続けているという。
果たしてこの中のどれだけの人数が、今回のふたりのようなケースで退職に追い込まれているのか、これ以上の「教員卒業」を食い止める手立てはないのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班