
白昼堂々の女性ライブ配信者の惨殺事件発生から2週間が経ったが、この事件ではあらためて配信者とリスナーが陥る危うい関係性の一面が明らかになった。その後、「集英社オンライン」にはライバーと金銭トラブルに陥った複数のリスナーからの情報が寄せられたが、そのなかには配信者に過剰投資した夫が急逝し、知らぬ間に夫が抱えていた負債1000万円を背負う羽目になった女性がいた。
夫の死後、トータル1000万円もの債務が判明
関東近郊在住のAさん(40代)は、持病が悪化した夫に数年前に先立たれた。夫はある夜に不調を訴え、翌朝に脳幹出血のため43歳という若さで帰らぬ人となった。
「夫とは再婚でしたが、彼は私の連れ子の息子も可愛がってくれ、家事の手伝いから細かいところまで気が利き、私の両親からもありがたがられていました。15年連れ添う中では感謝しかなく、毎日『こんなに幸せでいいのか』と言っていました。
でも死後5日頃に、それまで慌ただしかったために出る暇のなかった家の電話や彼の携帯電話に出たところ、それはさまざまな金融機関からの債務の督促電話だったのです」
Aさんは最初、混乱したという。
「夫は私が心配になるほど無趣味で、本人はよく『家族至上主義なのが俺の美学』と言っていたから、何にお金をつかってたかわからなかった。
でも彼が勤める会社の社長から『デスクからこんなものが出てきた』と見せられたのが、ライブ配信アプリのコインを大量に買った領収書でした。多い月で16万円、総額70万円の領収書が出てきました」
その領収書には某大手配信アプリの名前が記されており、それ以外にも複数社のキャッシングカードで限度額まで借り入れており、債務額はトータルで1000万円近くにものぼった。
「それまで夫のスマホなど見たことはありませんでしたが、LINEにものすごい数のメッセージがきていて、見ると『ライブ配信で億を稼ぐ』ことを豪語する女性ライバーBを推す方々とのグループLINEが存在していました。
そこで夫の死を伝えると、その方々から夫がいかに『Bを支えたい』と熱く語り、貢いでいたかがわかりました。私に“出張”と偽って外出していた日には、彼らとオフ会をしていたこともわかりました」
糖尿病の通院と服薬をやめて“投げ銭”にあてていた
Aさんは「恥ずかしいやら情けないやら、この負債をどう処理しようか」と頭を抱えた。
自分の両親だけでなく義父らにも負債のことを伝えると、義父らから驚きの言葉が返ってきた。
「葬儀までは『息子が亡くなっても家族だから』と言っていた義父らが、『死人に口無しで息子は何も言えない。その負債はあんたも使ったんだろう。
自分が知らぬところで夫が作った負債の処理を一手に担わなければならなくなったAさん。自身の生命保険を解約し、さらには弁護士の助言や夫の勤めていた会社の社長からの援助により、約1年かけて債務整理に奔走した。
「社長の話だと、亡くなる数年前から仕事も身が入っておらず、携帯ばかりみていたようです。夫は我が家のタンス貯金の140万円のうち50万円も抜き取っていたし、夫婦でかけていた個人年金さえも勝手に解約して使い果たしていました。
もっと驚いたのは、脳幹出血に至った理由です。夫は糖尿病でしたが、亡くなる半年ほど前から通院もやめ、薬も飲まず、その費用すらも配信アプリにあてていたのです」
夫が亡くなったその日は、家族3人で寿司を食べた後、夫婦でゴルフの打ちっぱなしに行き、ごく普通に過ごしていた。
しかし23時頃に夫が「目が変だ」と言った後に倒れ、救急車内で測った「血糖値は580」で「血圧は250」だった。
「夫は通院しているはずなのに、どうしてこんなことになったのかと私には訳がわかりませんでした。でも後に夫のかかりつけ医に聞くと『半年前から来ていなかった』と。
今にして思えば、債務で首が回らなくなり、自暴自棄になって『死んでもいい』と思っていたのかもしれません」
Aさんと夫の最後の会話は、救急車を待つ間に夫から苦しそうにうめきながら言われた『ごめんな…』という言葉だった。
「そのときは苦しい中で私に迷惑をかけていることを詫びているのだと思いましたが、債務が出てきてから『このことを詫びたのか』と悟りました。
でも、搬送中と病室に移った後の夫の苦しみようは凄まじく、手足をバタバタさせて『ぎゃー!』『助けてくれ!』と、見ているのも苦しくなる有様でした」
その後、Aさんの夫は意識が戻ることなく、朝方に息を引き取った。Aさんは夫の死を振り返る。
「夫は記念日や私の誕生日によくメッセージをくれました。『これからも変わらず仲良く過ごそうね 愛してるよ』『自分の体を大切にして悲しませない様にするね。感謝と愛をこめて』こんなメッセージをくれる夫が、キャバクラや風俗でもなく、20代のライバーに命を削ってまで貢いでいたなんて。夫の死の直後は絶望して夜も眠れず、食欲もありませんでした」
夫が”投げ銭の沼”にはまった、ライバーBとはどのような人物なのか。ある業界関係者はこう証言した。
「Bはもともとラウンジで働いていたのですが、業界のキーマンに声をかけられ芸能界入りしました。コロナ禍で仕事が減り、副業としてはじめたのが配信業だったようです。配信で金が稼げるようになると、横柄になり、給料やギャラの取り分で事務所のとの関係も悪くなったと聞いています」
「債務整理を終えてから死後離婚しました」
その後、Aさんは夫の遺骨を義父母に渡し、現在はどこに納骨されているかも知らない。
「債務整理を終えてから死後離婚しました。今回の件で人間には二面性があるのだと知りましたし、真っ当に生きて無趣味だった夫が何かの拍子でライブ配信にハマって、自分で処理できないほどの債務を抱え、自分の命さえも失ってしまった。
Aさんの自宅には夫の位牌もなければ写真もない。Aさんは嘆く。
「夫がどんな顔をしていたかさえ、今では忘れてしまいました(苦笑)。夫は自業自得だと言われたらそれまでですが、人の人生を狂わせかねない過剰な“投げ銭”投資ができてしまう仕組みには、今後なんらかの対策がなされないかなあ、とは思います」
ライブ配信の投げ銭システムに、今後なんらかの規制がかかる日はくるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班