
親子で趣味を一緒に楽しむことができる家庭では親の認知症予防ができ、子どものIQがぐんぐん伸びる……まさに一石三鳥のこの状況は、脳科学の観点から説明ができるという。
脳科学者瀧靖之氏の著書『本当はすごい早生まれ』より一部を抜粋・再構成し、「単純接触効果」と「ミラーニューロン」という2つの脳の働きについて解説する。
ワクワクすると記憶力が高まる脳の仕組み
好奇心が高いと、なぜ成績が良くなるのか。
その理由の一つは、好奇心は記憶力を高めるからです。これはグラフからもわかります*1。
好奇心のレベルが高い人は、記憶を担当する脳の中の海馬や、報酬系に関わる領域(腹側被蓋野、側坐核、中脳黒質等)の活動が活発になります。
問いへの正答率も、好奇心のレベルが高かった人の方が高いのです。好奇心が高い人というのは、「~を知りたい」「~をしたい」と、ワクワクしながら物事に取り組める人です。このようなワクワク感が記憶力を高めるのです。
注意しなければならないのは、イヤイヤ行う勉強です。ここには「扁桃体」というアーモンド型をした脳の領域が関わってきます(扁桃はアーモンドのことです)。上のイラストのように、記憶を担当する海馬の隣には、ストレスや不安に関わる「扁桃体」という領域があります。
これらは機能的に、しっかりと連携しています。ストレスや不安があると、扁桃体が海馬の活動にマイナスの影響を与えてしまうのです。
感情と記憶力に、密接な相関があるのはそのためです。
好奇心は、将来の認知症リスクを下げる可能性がある
好奇心は、どの世代にとってもとても大事な「サプリ」です。
私たちが「東北大学加齢医学研究所」で行った研究で、知的好奇心レベルが高いと、高次認知機能を担う領域である「側頭部頭頂部」の萎縮がより抑えられるということを明らかにしています*2。
好奇心が高い人ほど、脳の健康が保たれることが、科学的に証明されたのです。
私自身も多くの趣味を持っています。種々のスポーツ、楽器演奏や自然観察、芸術鑑賞、車、読書、かなりのことを仕事の合間にしています。これらは脳の可塑性(かそせい)を高める上でも、主観的幸福感を高める上でも、会話のエッセンスとしても、非常に重要で、いずれも脳の健康の維持や将来の認知症リスクを下げる上で重要なものです。
趣味は何でもいいのです。好きを突き詰めるだけで、皆さんの脳は元気に保たれるからです。みっちりとした脳を保つために、好きなことを続けていきましょう。
「親子で同じ趣味」がおすすめなワケ
すでに好きなことが見つかっている皆さんは、それを突き詰めて下さればいいのですが、小さいお子さんを持つ親御さんは、「子どもの好きがわからない」といいます。
それは当然です。まだ、数年しか生きていないのですから、世の中に何があるのか、どう選択すればいいのかがわからないのが普通です。
そのような場合は、親が好きなものを一緒に楽しめばいいでしょう。そうすると、子どもは自然と親が好きなものを好きになってくれます。
例えば「昆虫図鑑が家にあると、昆虫好きになる」というのはこの効果のおかげです。目に触れた回数が多いものを、人は好むようになるのです。
「親の興味を押し付けていいの?」と心配される方がいるかもしれませんが、親の興味の対象に誘導するというのは、決して悪いことではありません(無理強いはだめですが)。
親子の会話は脳にも好影響
コミュニケーションという観点から見ても、親と同じ趣味を持つことはプラスです。なぜなら、同じ趣味を持つことで、親子の会話が増えるからです。
「1時間あたりの育児量と肯定的な発話内容が多いことが、その後の子供のIQに強く関連していた*3」「親から肯定的に豊富な語彙で多く話しかけられていた1~2歳児は、そうでない群よりも3歳になった際に語彙数が2倍になり、IQが1.5倍高かった*4」「コミュニケーション能力の達成は、学生の学業成績の向上と有意な相関が見られた*5」など、親子の肯定的な会話の量と、培われたコミュニケーション力が、子どものIQや成績を上げることは様々な調査で証明されています。
難しく考える必要はありません。
私は昆虫が大好きなので、息子と自分それぞれ網を持って、「どっちがトノサマバッタをたくさんとれるか」と競い合いました。
図鑑も一緒に読みました。図鑑があるもの(昆虫、動物、電車、植物、星、魚、鳥、恐竜など)は、実物と一緒に本と現実の世界を結びつけるといいですね。恐竜は実物はいませんが、化石があります。これも単純接触効果を高めてくれます。
楽しく親子でたくさん会話をすれば、子どもは賢く育つのです。
子どもは親をマネして育つ
親子で同じ趣味をするのがいい理由には、「ミラーニューロン」が私たちにあるからです。ミラーニューロンは、相手の動きに反応するだけでなく、相手の動きを見ているときにも、聞いているときにも反応します*6。
そして、ミラーニューロンによって、他者の意図を理解することで、共感する力がはぐくまれることもわかっています。これは、社会で生きる私たちにとって、とても重要な能力です。
そうであるならば、模倣する身近な対象である保護者が、自ら楽しんですることを一緒に行うというのは、子どもの行動や感情、社会性の発達にとって大いにプラスになります。
親が楽しんでしていることに連れて行くのもいいですし、家で何かを一緒にするのもおすすめです。公園でサッカーをしたり、家でプラモデルをつくったり。できることはたくさんあります。一緒に楽しめることを選んで下さい。
一生懸命な親御さんの中には、休みの日に無理して、動物園や水族館に連れて行く方がいます。親子で楽しめるのであれば素晴らしいのですが、渋滞にイライラし、家に帰ったら「あー疲れた……」とこぼすのであれば、親子ともに脳へのサプリにはなりません。ましてや、「親はどこかで休んでいる」というのでは、ミラーニューロンの出番がありません。
無理せずとも、家で料理をする、ボードゲームをするなど、共に楽しめることをしたほうがいいでしょう。一緒に何かにハマるようになると、お子さんの脳はぐんぐん成長していきますし、親御さんの脳も負けじと生き生きしてくるものです。
脚注
*1 Matthias J Gruber, et al. States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit. Neuron, 2014 Oct 22;84(2):486-96.
*2 Taki Y, et al. A longitudinal study of the relationship between personality traits and the annual rate of volume changes in regional gray matter in healthy adults. Hum Brain Mapp. 2013 Dec;34(12):3347-53.
*3 Betty Hart, et al. American parenting of language-learning children: Persisting differences in family-child interactions observed in natural home environments. Developmental Psychology, 1992, 28(6), 1096–1105.
*4 Betty Hart, et al. Meaningful Differences in the Everyday Experience of Young American Children. Baltimore, MD: P.H. Brookes Publishing, 1995.
*5 Mahmud Maria Mahmud. Communication Aptitude and Academic Success. Procedia -Social and Behavioral Sciences, May 2014, 134:125–133.
*6 Evelyne Kohler, et al. Hearing sounds, understanding actions: action representation in mirror neurons. Science, 2002 Aug 2;297(5582):846-8.
写真/shutterstock
図/書籍『本当はすごい早生まれ』より
本当はすごい早生まれ
瀧靖之
16万人以上のMRIを見た脳科学者であり、
早生まれの子どもを育てる著者が、
「早生まれは不利」という常識を科学的に覆す!
・生まれながらに「変化に強い力」を持つ早生まれ族
・いちばんのNGは、「親が勝手に悲観すること」だった!
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