
散歩するにはいい季節になってきた。運動不足解消と気分転換にウォーキングしよう!と張り切ったものの1日目は1万歩がんばれたけど、2日目は通勤時間のみで3500歩くらいしか歩けていない……。
歩けば歩くほど健康にいいわけではない
ウォーキングは気軽にできる有酸素運動で、ウォーキングと健康の関係についてはさまざまな研究が行われている。
なぜウォーキングが健康にいいとされているのかというと、ウォーキングすることで、全身に血液を送り出している心臓の心室に筋力がつき、心臓の動きが活発になることと関係しているではないかと言われている。
「わかりやすくいえばウォーキングすることで、心肺機能を若々しく保つことができるのではないかということです。歳を重ねていくと、体を動かさない生活を続けたり、ちょっとした距離でも車移動することが多かったりするなど、筋肉や臓器はあまり使われなくなっていきます。そうなると筋肉や臓器の機能はどんどん落ちていくのです。
けれど、ウォーキングを習慣化することで、家でじっとしているときには使わない筋肉や心肺機能を定期的に動かし、内臓の機能を活発に保つことができるのです。
台湾で40万人以上を対象とした調査では1日15分運動する人はまったく運動しない人に比べて死亡リスクが14%減ったと報告されています」(森勇麿先生、以下同)
このように手軽にできて、健康にいいウォーキングだが、間違った取り組み方をしてしまうと、自分の努力とは反対に身体にダメージが加わってしまう危険性もあるという。
「ウォーキングをして歩数を増やせば増やすほど、健康になってどんどん長生きできると思っている人が案外多いのですが、実はそれは間違っています」
日本でも海外でも歩数と寿命の関係について研究されている論文が多く存在するが、例えば1日=1万5000歩や2万歩など、かなりの歩数をこなしている人たちの寿命が延びたかというと、実はあまり変わらなかったという結果になっている。
歩けば歩くほど、寿命が長くなるというわけではないようだ。
1日8000歩以上歩いても死亡率は下がらない
では、ウォーキングするなら1日何歩くらいを目指すのがベストなのか?
それはずばり「8000歩」と言われている。8000歩までは歩けば歩くほど、死亡リスクが低下する。
この8000歩については、国内でも海外でもさまざまな研究機関から発表されている。
例えば、アメリカでは1万5000人の女性を対象にした調査でも8000歩まで死亡率が下がっていたが、8000歩以降はそれほど変わらなかった。
他の研究でも1日8000歩~1万歩くらいまでは健康効果が期待できるという結果が多いようだ。
「65歳以上の人なら6500歩くらいでも、健康効果が期待できます。ウォーキングをする人はついがんばってたくさん歩こうとして無理しがちです。がんばって1万歩以上歩こうとして、逆に膝や腰が痛くなってしまっては本末転倒です。
無理して歩く必要はなく、その分、膝周りや太ももの筋肉のトレーニングをして、膝をサポートする筋肉をつけたほうが健康にいいですね」
歩く速さがポイントになる
1日8000歩を達成したら、次のステップとして「歩く速さ」に着目したい。
ウォーキングは自分のペースで歩いてもいいが、さらに健康効果を期待するなら、だいたい隣の人と会話できないくらいのスピードで歩くといいと言われている。
「ちょっと汗ばむくらいで、このままおしゃべりしながら歩くのはしんどいと思うスピード…これぐらいだと心拍数が適度に上がり、心肺機能が向上することが期待でき、普段あまり運動しないと人でも挑戦しやすい速度ですね」
またウォーキングで大切なのが、継続だ。1週間に1~2日ぐらいやっても効果は期待できず、できるだけ毎日続けるほうが健康にはいい。
続ける方法としては、やはり何歩歩いているか分かる歩数計を利用するのが一番だ。
歩数計はスマホアプリもあるので、誰でも使いやすいだろう。
まずは自分の1日の平均歩数を知ることが大切で、8000歩に足りない場合は自分の生活リズムの中に無理なくウォーキングを組み入れることが長続きするポイントだ。
「実は歩数計を持ち歩くだけで、なんと1日2000歩の歩数の増加に繋がったという研究もあります。
例えば、1日の歩数が平均6000歩だったとわかれば、目標の8000歩のため、あと2000歩をどうするか、自分の生活の中でアレンジしやすくなります。
平日、毎日電車通勤をしている人は、いつもの通勤で自宅の最寄り駅の1駅前から降りて歩いて帰る、家の周りを1周してから出勤するなど、自分の生活習慣の中からちょっと調整することで歩数を増やせます」
もし在宅勤務や家事などで家にいることが多い場合は、気分転換に30分ほどまとめてウォーキングをして、一気に8000歩を歩いてしまうのもいいようだ。
「ウォーキングは、骨粗しょう症、認知症、生活習慣病、うつ病などさまざまな病気の予防効果がある最強の健康法です。だからこそ逆にがんばって歩きすぎて、身体にダメージを負うのはもったいないのです」
ウォーキングは1日=8000歩程度、速さは隣の人の会話できないくらいで歩き、継続することが何よりも手堅い健康法のようだ。
出典・参考文献
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023/厚生労働省
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html)
Wen CP, et al. Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study. Lancet 2011 Oct. 1;378(9798):1244-53
取材・文/百田なつき