
フジテレビは、自局アナウンサーだった女性Aさんが「業務の延長線上」で元タレントの中居正広氏から性暴力被害を受けたが、中居氏を守ることでAさんに二次加害をした――。同局の第三者委員会が3月31日に公表した290ページにも及ぶ調査報告書は、巨大テレビ局が加害者とともに被害者の社員を追い込んでいった事件の全容を明らかにした。
第三者委は「経営判断の体をなしていない」と非難
調査報告書によると、中居氏はタレントとして高視聴率をとれる立場を利用し、密室での食事を断れない状況にAさんを追い込み、2023年6月2日に自宅マンションで性暴力を加えたとある。
「当時の港浩一社長(1月に辞任)や大多亮専務(現関西テレビ社長)らはAさんが性暴力被害を訴えたのに“プライベートな男女間のトラブル”と決めつけ、Aさんが復帰するまで何もしないという方針を決めたんです。
これで中居氏の番組出演が続けられただけでなく、B編成部長(現人事部付)は中居氏のパシりとして“見舞金”と称する現金100万円をAさんが入院中の病院に届けたり、バラエティ部門のリーガルアドバイザーだった弁護士を中居氏に紹介したりしたと報告書は指摘しています」(フジ関係者)
こうした対応を第三者委は「経営判断の体をなしていない」と非難し、原因分析に踏み込んだ。それによると、フジでは取引先と良好な関係を築くために「性別・年齢・容姿などに着目して呼ばれる会合」が開かれ、ここに呼ばれた社員やアナウンサーらがハラスメント被害にさらされてきたという。
重大なのはこの悪習が編成制作局の「業務」だったと断定されたことだ。同局の幹部が若い女性アナウンサーや女性社員をハラスメントのリスクにさらしながら有力出演者と良好な関係を築いて“キャスティング力”を高める企業活動だったと第三者委は解説。
さらには「港社長ら編成制作局の幹部(出身者)」が率先してこのような業務を推進していた、と言い切っている。
「Aさんが被害に遭う2日前に、B氏やAさんも参加するバーベキューが中居氏のマンションで開かれています。2021年12月には都内ホテルのスイートルームで中居氏やB氏、別の女性アナウンサーらが参加する飲み会があったことも確認されました」(フジ関係者)
報告書はフジ社内ではハラスメントの問題があった人物が役員に昇格するなど、ハラスメントが蔓延、放置されてきたと指摘。「社内にハラスメントに寛容な土壌があり、地続きで取引先からのセクハラ被害がある」と第三者委の竹内朗委員長は3月31日の記者会見で話した。
現執行部選出の裏でも日枝氏が影響力行使
ではこのような「業務」はいつ、どのように始まったのか。
竹内氏は、第三者委の調査対象期間である2016年4月以降に問題の飲み会が行なわれていたことは確認したが「いつから始まったかは確認できていません」という。
一方、こうした企業文化が続いたことについて、長年経営を仕切って来た元取締役相談役の日枝久氏(87)による説明を求める声が記者会見では続出した。
日枝氏は3月27日付でフジの取締役相談役を退任し、親会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の取締役相談役も6月に辞めることが決まっているが、これまで氏がいかに強大な権力を持ってきたかが改めて確認された。
「1983年にフジ取締役に就任し、代表取締役社長と会長を歴任した日枝氏について第三者委は、フジとFMHの代表取締役会長と代表取締役社長の人事を決めていた、と報告書で言い切っています。役員以下の人事も社長は社長、会長が決めていましたが、それも日枝氏にお伺いをたてている状況が見受けられた、とも指摘し、日枝氏が組織風土の醸成に与えた影響も大きいと分析しています。
さらに、今回港前社長が退任した後、後任の執行部を選ぶ過程でも日枝氏が大きな影響力を行使したことが報告書に書かれています」(会見に出た記者)
清水氏は1月27日、フジテレビが当時の社長だった港氏と会長だった嘉納修治氏の辞任を発表し、10時間以上続いた記者会見に新社長として登壇している。
清水社長は「日枝の説明責任はあるのかという点ですが…」
報告書によると、前日の26日までにフジの常勤取締役らは港、嘉納両氏の退任を決め、空席となる代表取締役に遠藤龍之介副会長を充てる案を出していた。ところが当の遠藤氏が日枝氏にこの案を確認すると日枝氏が否定し、実現しなかったというのだ。
結局、金光修FMH社長がFMH専務だった清水氏をフジの代表取締役社長とすることを会見当日の27日になって提案し、これをFMHとフジの取締役会が承認していた。
第三者委は清水氏の社長就任は「日枝氏から何らかの影響力行使があったとは認定できなかった」としている。しかし、日枝氏が反対した遠藤氏が代表取締役社長になれなかった経緯を慮れば、清水氏の社長就任は日枝氏の了承なしだったとは考えにくい。
日枝氏からの説明を求める声に、竹内氏に続いて会見した清水社長は「日枝の説明責任はあるのかという点ですが、取締役の選定は取締役会で決議し株主総会で承認を得るのが本来の姿です。ですので、説明責任を取締役の個人個人が持つのかということに関しては、そこまでではなく、組織として受け持つことになるのではないかと考えています」と突っぱねた。
「再生・改革に向けて」と題した会社の立て直し計画を会見冒頭で長々と述べた後、日枝氏を矢面に立たせないよう腐心した清水氏。
フジテレビの再生はなるのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/村上庄吾