〈新卒1日で辞めた人は今何を?〉今年も出社初日で退職代行を依頼する人が続々…退職代行「モームリ」が明かす会社側の反応
〈新卒1日で辞めた人は今何を?〉今年も出社初日で退職代行を依頼する人が続々…退職代行「モームリ」が明かす会社側の反応

新年度がスタートするとともに、SNSには新入社員の悲鳴が殺到している。中には出社初日に新卒で入った会社を辞めてしまった人もいるようだ。しかし彼らはその後、どうしているのだろうか。 

新卒が1日で辞めた理由「やりがいを感じる機会がない」

 退職代行サービス「モームリ」によると、今年の4月1日に2025年度の新卒社員5人からすでに依頼があったという。モームリの公式Xにはそれぞれの退職理由が記されている。

・社長が入社式の最中に新卒社員ともめて、みんなの前で怒鳴ったことに加え、廊下に出して「なめてんのか」と説教。(女性・事務関連)

・入職前の研修がありマナーやコミュニケーションなどの5時間ほどの研修で講師の方の脅しのような言葉、看護学生と社会人は違うとの言葉があり自信を無くしてしまった。(男性・医療関連)

・実際の業務を想像するだけで、すごく吐き気と鬱のような状態となり、働ける状態にないため。(男性・教育関連)

・思っていた接客業務と違い、やりがいを感じる機会がないと感じた。(女性・飲食業)

・心身ともに不調に陥り、この状態では正社員として働くことが困難になってしまったため。(女性・事務関連)

毎年、この時期になると新卒入社した会社を一日で辞めたと明かす人々がSNSに出現するが、昨今は初日から退職代行を使って辞めることもあるようだ。さらに4月2日には新卒8名、3日にはなんと新卒18名から依頼があったという。

近年の傾向について、モームリを運営する株式会社アルバトロスの担当者に話を聞いた。

「今年が多いかどうかは、まだ始まったばかりですので何とも言えませんが、やはりゴールデンウィーク明けをピークにご依頼が多くなっていきます。昨年の実績ですと、新卒の方が依頼してきた数は、4月が256名、5月が298名でした」(株式会社アルバトロス・担当者)

Xで公表されている新卒の退職理由は、納得できるものもあれば、「ん?」と首をかしげてしまうものもある。実際に入社早々に退職されてしまった会社側はどのような反応をしているのだろうか。

新卒1日で辞めた人のその後 

「会社様によってさまざまなので一概にはなんとも言えないのですが、新卒の方の退職代行をした際は、『理由を聞かせてほしい』と言われることが多いですね。やはり採用までに費用と手数がかかっていることもあるからでしょう。また、理由を聞いたうえで『改善に努めます』という会社様もあれば、『そういうのが理由になるんですねぇ』と反応される会社様などがおりました」

今回のモームリのポストは広く注目を集めており、SNSユーザーからは、「1日で辞めた人のその後が知りたい」という声もあった。

そこで、2022年3月に大学を卒業し、同年4月に新卒で入った会社を1日で辞めたという男性・もんてん。さんに、辞めた後の3年間の話を聞いた。

もんてん。さんがスピード退職した理由は会社のブラック体質。入社前の一泊二日の研修で、辛さのあまり同僚が泣き出したり、就業規則を守れない場合は罰金250万円を請求するなどと言われたりしたことで、1日で辞める決断を下した。

「退職後はすぐに一人暮らしのアパートから実家に戻りました。5月にメンタルクリニックに見てもらい、社会不安障害と診断されて薬物治療を始めました。その間、基本的にやっていたことは、寝るか、散歩か、飼っている猫と戯れるくらい。猫や景色の写真を撮ったりもしていました。

あとは、YouTubeの動画をずっと見ていましたね。心が明るくなるようにお笑い系の動画ばかりを見ていたと思います」(もんてん。さん、以下同)

再就職も考えたが、たった1日で辞めたことで自信と気力をなくしていたという。そしてそのまま10ヶ月無職の期間が続いたあるとき、一個上の先輩から「仕事してないなら、うちで働く?」と声をかけられ、千葉県の会社で事務員として働き始めることになった。

「フルタイムではなく、8:30~17:00を週4回、合計で週に30時間くらい。入力作業がほとんどで、単純作業はあまり好きではなかったんですが、誘ってくれた先輩が隣の席だったのでわりと気楽にやることができました。結局、そこでは2ヶ月勤務しました。

さらに2023年4月からは同じ会社の別部署で半年勤務。通年採用ではなく、4~6月、翌年の1~3月の3ヶ月ずつ、繁忙期だけの契約という感じでした。

ただ、部署異動してからは知り合いもおらず、勤務中に冷や汗が止まらなくなり、倒れそうになっていた時期もありました。社交不安障害がまだ治っていなくて、知らない環境に適応するまでに時間がかかったのだと思います。ですが、だんだんと慣れていくことができました」

新しい職場で仕事のやりがいを知り…… 

またその間、知り合いのレンコン農家を週6で手伝って収入も得ていたという。収穫したレンコンを作業場に運び、カットして洗って袋詰めして、スーパーや道の駅に卸すという作業だ。

さらに2023年3月ごろからは、YouTubeで動画投稿も開始。「昔からゲームが好きだったので、ゲーム実況をやり始めました」というもんてん。さん。動画投稿を始めて以降は、仕事以外の時間はほぼ、動画制作に費やしているという。

大学で建築を学んでいたこともあり、選んだゲームは『マインクラフト』。一つ一つの動画制作に時間がかかるため、投稿本数はそれほど多くはないが、ここで副収入が得られるように頑張り続けているそうだ。

「2024年4月には1年契約を結び、2025年4月からも契約を更新して勤務を続けています。仕事内容は若干変わり、報告書作りの作業も任されるようになりました。業務上の交友関係なんかも広がってきましたね」

新しい地で新たなキャリアをスタートさせ、自分の居場所を作ることができたもんてん。さん。だが今でも、辞めた当時のことをふと考えてしまうという。

「『辞めなければどうなっていただろう』『自分の心が健康なら辞めずに済んだんじゃないか』と、この三年間はよく考えていました。今は非正規ながらも働き続けることで、会社から信頼され、相談を受けたり、仕事を任されたりすることが増えました。

もしかしたら新卒で入った会社でも、こうしたやりがいは感じることができたんじゃないかと、少し後悔もします。ただそうは思っても、3年前のあの日に戻って、もう一度あの会社で働きたいかと聞かれたら、絶対に働きたくないと強く感じてしまいます。

正直なところ、当時の自分が冷静な判断ができていたかは怪しいのですが、22歳の僕が違和感を覚え、『いやだ、働きたくない』と思ってこの選択をしたのですから、きっとこの選択は間違いではなかったと信じています」

新たなスタートを切る勇気を持つことは、決して簡単なことではない。だが、たとえどんな決断をしても、その先に新しい可能性は広がっているものだ。自分が安心して生活できる場所が見つかるまであきらめないでほしい。

取材・文/ライター神山

編集部おすすめ