グリーンカレー×国語教室、餃子×韓国屋台なのに店名はエチオピア…実態予測不能な“情報量の多い料理店”「なぜこんなことに!?」店主に聞いてみた
グリーンカレー×国語教室、餃子×韓国屋台なのに店名はエチオピア…実態予測不能な“情報量の多い料理店”「なぜこんなことに!?」店主に聞いてみた

街中を歩いていて、“看板だけではコンセプトがつかめない”ユニークな店舗を見たことはないだろうか。今回は、パッと見ただけでは理解ができない驚くほど“情報量の多い料理店”2店に取材を敢行。

その誕生秘話や来店客の反響などについて話を聞いた。 

とある塾講師の行きつけのグリーンカレー屋さんが閉店し…

まず取材したのは、東京・池袋エリアの要町駅から徒歩5分の場所にある『グリーンカレー&国語教室 M』。

昼はグリーンカレー店、夜は小学4年生から中学3年生までを対象とした国語専門の学習塾として営業するという異色のスタイルを持つお店だ。 

店を一人で切り盛りするのは、店主の保科雅之さん。店名の「M」は、保科さんの下の名前と、保科さん行きつけだったグリーンカレー店「Mee」(現在は閉店)から取ったものだという。

「この店の原点は、“自分の塾を開く”という構想にありました。私はもともと15年ほど塾講師をしていて、そのなかで“リビングのようにリラックスできる空間で授業を受けられる教室を作りたい”と考えるようになっていきました。

そしてちょうどその頃、行きつけだった銀座のグリーンカレー屋さんが閉店してしまったんです。そこのグリーンカレーが大好きだったので、シェフに作り方を教えてほしいとお願いしたんですが、『お客様にレシピを教えるつもりはありませんが、自分の店を開くなら話は別です。店舗を用意したら連絡してください』と言われました」(保科雅之さん、以下同)

そこで、昼はグリーンカレー店、夜は国語専門の学習塾という、異色のスタイルのお店を出せるのではないかと思い付いたそうだ。

「どのみち、子どもたちが学校から帰ってくる夕方までは塾は開けませんし、グリーンカレーの飲食店は、ランチ営業だけならできるんじゃないかと考えたんです。それで今の場所に教室を作り、シェフからレシピを送ってもらい、カレーを完成させました」

料理メニューはグリーンカレーのみ  

さらに、この要町という立地も、グリーンカレー店と国語教室という異色の二刀流スタイルにぴったりハマったのだとか。

「店を構える前に街を歩いてリサーチしてみたら、子どもを乗せられるママチャリが多いことに気づきました。さらに、要町や池袋近辺にはオフィスもたくさんある。

だったら、お昼はカレーを食べに来る社会人や主婦層向けのカレー屋、夜は学習塾という形が成立するんじゃないかと考えたんです。

実際、カレーを食べに来た主婦の方が国語教室に興味を持ち、授業の説明を聞いてくださることも多かったですね。そのおかげで、次第に生徒も増えていきました」

行きつけのグリーンカレー屋の閉店が、思いがけず“理想の国語教室”につながることになった。では、お店を開く前の心境はどうだったのだろうか?

「塾のほうは15年の経験があるので、それなりにうまくいくのではないかという思いがありました。でもグリーンカレーのほうは、コロナ禍でのオープンということの不安が大きかったですね。

ただ、絶対に妥協したくないという一心で取り組んでいたら、オープンから1、2週間でリピーターのお客様がつくようになったんです。そこで自分の料理がきちんとお客様に届いているという手応えを感じました」

取材時はちょうど塾の時間帯。店内の暖かい照明や装飾も相まって、確かに一般的な塾よりも心地よく、落ち着ける空間だ。授業中は生徒たちの発言も多く、授業を楽しんでいるように感じた。

メディアでもたびたび取り上げられるというが、この反響は想定外のものだったそうだ。

「ワンオペで運営しているので、店の宣伝はXくらいしかしていないんです。でもまさか看板がここまで宣伝になるとは驚きました。

お店を訪れた方がネットで素敵な感想を書いてくださったり、拡散してくださったりして、本当にありがたいです」

取材前は“情報量の多い料理店”という印象だったが、実際に訪れてみると、料理メニューはグリーンカレーひとつのみ。逆に、驚くほどシンプルな店だった。 

お客さんから「エチオピア料理はないんですか?」と聞かれる店

続いて話を伺ったのは、北海道・札幌の狸小路7丁目アーケード内にある、餃子×韓国屋台 の『suEzouエチオピア』。 

店名だけでかなりの情報量だが、いったいどんなお店なのだろうか。オーナーの千葉栄佑さんに、まずは、そのユニークなネーミングの由来を聞いた。

「店名を“エチオピア”にしたのは、完全に直感だったんですよね~。コロナ禍の真っ只中にオープン準備をしていたんですが、ある日、図書館で世界図鑑をパラパラめくっていたときに、エチオピアの人々や風景の写真を見て“これだ!”とビビビッときたんです。

餃子や韓国屋台とはまったく関係ないんですが、むしろそのギャップがおもしろいかなと思って、そのまま店名にしました」(千葉栄佑さん、以下同)

もちろん、スタッフは困惑。お客さんからも「エチオピア料理はないんですか?」と聞かれることがあったという。だが、今ではすっかり定着しているそうだ。 

「料理長の顔を見たら“韓国っぽい”と思って(笑)」 

では、肝心の“餃子×韓国屋台”というコンセプトはどう決まったのだろうか?

「もともと姉妹店で台湾点心をやっていて、それが好評だったんです。それなら、まったく違う皮や餡を使って、さらにこだわった餃子を作ってみようと思いました。

ただ、餃子だけだと少し弱い。

居酒屋スタイルにするか、アジアン系にするか迷っていたときに、ふと料理長の顔を見たら“韓国っぽい”と思って(笑)。それで韓国料理を取り入れることにしました」

そして偶然にも、第2次韓国ブームが到来。結果的に、コンセプトが時流に乗る形となったそうだ。

「一番大変だったのは、コロナ禍でのオープンですね。もともと9年間続いていた男の居酒屋をリニューアルしたのですが、前のお店には常連のお客様も多く、業態を変えることへの迷いもありました。

オープン前の心境は、『これはいけるぞ』という確信と不安が半々。でも新しいことに挑戦するワクワク感も大きかったですし、おかげさまで、オープン直後から多くのお客様にご来店いただいています」

――奇抜な店名に、個性的なコンセプト。一見すると謎だらけの店だが、その裏には、挑戦を恐れない店主の姿勢があった。こうした“分かりにくいけれど気になる店”が、人々を惹きつけるのかもしれない。 

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 

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