新守護神・マルティネスが球団積年の課題を一掃! 過去には守護神のコールで対戦相手が沸いた巨人「暗黒のクローザー史」
新守護神・マルティネスが球団積年の課題を一掃! 過去には守護神のコールで対戦相手が沸いた巨人「暗黒のクローザー史」

新守護神・マルティネスと、セットアッパーに回った大勢…巨人が盤石のリリーフ体制を築きつつある。「クローザーが短命に終わりがち」との球団の積年の課題は、これにて一掃されるのか? 

マルティネスと大勢、どちらが守護神にふさわしいのか――。

シーズン前から、そんな贅沢な議論が沸き上がったのが、今年の読売ジャイアンツだ。昨季は77勝59敗7分でセ・リーグ優勝を飾ったうえに、オフには中日ドラゴンズのクローザーを務めたライデル・マルティネスの獲得に成功。

昨季29セーブを挙げた大勢と、43セーブを挙げたマルティネスを擁する、豪華なブルペン陣になった。

巨人の阿部慎之助監督はマルティネスを獲得した時点で、新守護神に起用することを明言。実際にシーズンが開幕すると、セットアッパー・大勢、クローザー・マルティネスに固定されている。

5月12日現在、マルティネスは開幕から15試合連続無失点の快投を見せ、12セーブ(リーグ1位タイ)、防御率0.00の盤石ぶり。大勢は14登板で3勝0敗10ホールド(リーグ1位)、防御率1.23と好成績を残している。

ここまでは大成功となっている大勢&マルティネスの起用法だが、安心するのはまだ早い。というのも、巨人の近年のチーム事情を紐解くと「クローザーが短命に終わりがち」という歴史的な事実が浮かび上がってくるからだ。 

 短命に終わりがちだった巨人の守護神

1980年代には角三男(盈男)、鹿取義隆といったリリーフ陣が活躍したが、投手の分業化が進んだ1990年以降はクローザーの活躍期間が短くなっている。

たとえば1993年に30セーブを挙げた石毛博史は、制球難のため投球内容が不安定に。しまいには石毛の登板がコールされただけで、対戦相手スタンドから歓声が沸くほどになってしまった。

先発実績のある槙原寛己、河原純一、上原浩治、澤村拓一(現ロッテ)などを守護神に据え、一定の成果を残した時期もある。

だが、どの投手も巨人のクローザーとしては短命に終わった。

岡島秀樹、林昌範、久保裕也、西村健太朗なども、守護神として活躍できたのは長くても2年まで。昨季までのクローザーの大勢にしても、プロ2年目の2023年は14セーブ、防御率4.50と不安定な成績に終わっている。

過去20年のなかで最高の成績を収めているのは、2008年に入団したマーク・クルーンだ。横浜(現DeNA)ベイスターズでの3年間で通算84セーブを挙げ、当時の日本最速となる162キロを計測した。巨人移籍後は3年間で通算93セーブをマーク。

クルーンが在籍した3年間のうち、2年はリーグ優勝(日本一1回)と結果につながった。ただし、37歳になった2010年は防御率4.26と衰えが目立ち、同年限りで退団している。

NPBの通算セーブ数の歴代トップは、岩瀬仁紀(元中日)の407セーブ。そのほかにも高津臣吾(元ヤクルトほか)、佐々木主浩(元横浜ほか)、藤川球児(元阪神ほか)といった名投手が通算セーブ数のランキングに名を連ねる。

ところが、巨人在籍時に積み上げた数字だけで、歴代トップ40に入った投手は皆無。いかに「巨人の守護神」という仕事が過酷で、消耗しやすい証拠と言えないだろうか。

「守護神補強」は死屍累々…… 

巨人の「守護神補強」はクルーンのような成功例もあったが、失敗例のほうが圧倒的に多い。もっとも有名な例は、2005年に来日したダン・ミセリだろう。

MLB通算579登板、35セーブの実績を引っ提げ、本人は「50セーブを目指す」とコメント。ところが、春先から状態が上がらず、開幕戦からいきなり救援失敗。

対戦相手スタンドから「ミセリコール」が沸き起こり、4試合の登板で0勝2敗、防御率23.63。最終的には2軍落ちを拒否し、4月19日に退団。家族と浅草観光をした後に帰国した。

ほかにもダイエー時代に通算117セーブを挙げたロドニー・ペドラザ(2003年)も巨人では0セーブ、防御率12.00。ロッテでリリーフとして活躍し、抑えとして見込まれたブライアン・シコースキー(2004~2005年)も、クローザーとしては5セーブと見切りをつけられている。

日本人登録の投手にしても、他球団でクローザー実績のある金石昭人(1998年)、河本育之(2000~2004年)、豊田清(2006~2010年)、MICHEAL(2009~2011年)、小林雅英(2010年)らを獲得。

だが、いずれも選手としての峠を越えており、前所属での成績を超えられなかった。

その点、マルティネスはまだ29歳と若く、今季も最高の滑り出しを見せている。現時点では衰えは見られないが、その一方で、中日時代に通算303試合に登板した疲労は少しずつ蓄積されているはず。

手放しに「安泰」とは言えないだろう。

 ダブルクローザー案もある⁉

巨人ではクローザーが短命に終わっている経緯を踏まえ、マルティネスと大勢の「ダブルクローザー」も選択肢に入れてはどうか。大勢には「人気球団の守護神」という重責をルーキーイヤーから担ってきた経験と実績がある。

大勢、マルティネスともに登板間隔を空けることで年間通しての消耗を抑え、少しでも選手寿命を延ばす案だ。

巨人での実例は少ないが、1985年の阪神(中西清起19セーブ/山本和行11セーブ)、1990年の西武(鹿取義隆24セーブ/潮崎哲也8セーブ)1995年のロッテ(成本年秀19セーブ/河本育之10セーブ)、1997年のヤクルト(伊藤智仁19セーブ/高津臣吾7セーブ)、2011年の中日(岩瀬仁紀37セーブ/浅尾拓也10セーブ)などの例がある。

今季の巨人も、マルティネスは縦の角度、大勢は横の角度と個性が異なるだけに、状況次第では、ダブルクローザーも面白そうだ。

ちなみに過去3年、大勢は阪神戦に通算防御率5.68と相性が悪かったが、今季はここまで阪神戦に3回登板し、ランナーを一人も許さない圧巻の内容を見せている。

もちろん今後、マルティネスや大勢が不動の守護神として新たな歴史を刻む可能性も十分にある。シーズンが進むなかで彼らがどんな投球を見せてくれるのか、目が離せない。

取材・文/菊地高弘

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