日本でよく聞く「パリコレ出た」、実はホンモノじゃない⁉  元バレーボール選手で現役モデル・林田季子が解説する「パリコレ」の真実
日本でよく聞く「パリコレ出た」、実はホンモノじゃない⁉ 元バレーボール選手で現役モデル・林田季子が解説する「パリコレ」の真実

ファッション業界にとって欠かせない「ファッションウィーク」が今年も6月12日のロンドンからスタートする。特に世界最高峰のショーとなっているパリコレクションやミラノコレクションは、世界中のモデルやデザイナーにとって憧れの舞台だ。

一方で、「パリコレ」という言葉が安易に使われ、実態とは異なる認識も増えつつある。そこで、元プロバレーボール選手で、現在は国内外でモデルとして活動する林田季子さん(43)に話を聞いた。

パリコレとトレードショーの違いについて

林田さんはまず、公式コレクションいわゆるパリコレとトレードショー(商談や見本市としても利用される非公式のショー)との決定的な違いについてこう話す。

「一般的に観客席が販売されているショーはトレードショーであり、公式コレクションではありません。文字通りトレードショーですから、その場で商談も行なわれています。

一方、公式コレクションでは、挨拶程度のやりとりはあっても、具体的な商談は後日行なわれます」(林田さん、以下同)

彼女は、パリコレやミラノコレクションといった公式コレクションと、トレードショーは本来の目的が異なると語る。

「公式コレクションのオーガナイザーは、たとえ気に入ったモデルであっても、正規のモデルエージェントを通さなければ起用はしません。観客もバイヤーやVIP、記者など限られた関係者のみで、一般の観客は入場すらできないのです」

そもそも、公式コレクションが行われるようになったのは、次シーズンのトレンドを示すことや、世界的な映画祭のレッドカーペットで着用されるような高級ドレスの紹介が主な目的であり、商業よりも文化的意義が高い。それらをふまえたうえで、長年取引関係にある富裕層へアプローチし、直接商業につなげていた、という。

「超高級ドレスを貸し出す役割も担い、デザイナーの服が実際にどれだけ注目をあつめられるか、そして売上につながるかを厳しく審査しています。お金を払えば出場できるわけではなく、実績やプレゼンテーションのレベルが低い場合は、たとえ有名ブランドであっても参加を断られます」

さらに林田さんは、公式コレクションは「モデル」ではなく「服」が主役だと指摘する。

「モデルの仕事は、自分自身のためではなく、ショーやブランドのために存在するもの。つまり、ドレスのために人間が存在しているのです。

身長の基準は、女性で178cmから185cm、男性で185cmから195cm程度が最低ライン。骨格も重要な判断基準の一つです。したがって、公式コレクションに出るには、アジア人の平均身長ではまず無理。177cmの私でさえ『低い』とされてしまう世界なのです」

詐欺問題、ダイバーシティの進展 

「パリコレ」といえば、話題になっているのが「パリコレ詐欺」だ。

苦労を重ねた人物が千載一遇の機会を手に入れ、モデルとして「パリコレ」のランウェイを歩いた――。また、モデルを務めた人やスタッフ、出展した新興ブランドなどが「パリコレに出た」ということを肩書にするケース。

こういった話題の際に登場する「パリコレ」は、非公式のトレードショーがほとんど。それを揶揄して「パリコレ詐欺」と呼ばれている。

「モデル自身やブランド側も非公式であることを認識しており、参加費に納得している場合はまだいいかもしれません。

悪質なのは、仲介者が『パリコレ』と誤って伝え、参加を募っているケース。仲介者自体も『パリコレ』に対する理解が不足しているため、このようなことが起きてしまうのだと思います」

とはいえ、「公式コレクションの動向も世界的に変わりつつある」とも話す。

「近年、アジア圏の富裕層の影響力が大きくなってきたこともあり、インドネシアやカンボジアなどアジアで行われる公式コレクションも注目度が高まっています。それに伴い、デザイナーたちが作るドレスも、アジア圏の人の体型や好みに寄せているものが増えている。

そういった経緯からアジア人のモデルも雇用され始めています。

また、これまではなかった、ドレスのその場での買い付けを認められる公式コレクションも登場しています」

モデルキャリアの多様化と業界の認識変化 

アジア圏への進出に伴い、モデルにも「ダイバーシティの傾向」が求められ始めた。

「90年代初頭に一世風靡したスーパーモデルのナオミ・キャンベルさんが、今また重用されています。当時はナオミさんをはじめ、その若さもモデルの必須条件の一つでしたが、現在のシーンでは『若さ』は必須ではありません。ナオミさんには、年齢を超えたモデルとしての魅力があるということです。

また、個性を売りにしたモデルだけを抱えているエージェンシーも増えています。タトゥーだらけだったり、高齢のモデルを専門としたエージェンシーも存在しています」

もともとはビューティスペシャリストとして海外で活動し、モデルやミスコンテスト出場者の育成を行なってきた林田さん。

モデル業を本格的にスタートさせたのは結婚、出産を経た30代に入ってからだったが、そういったキャリアは現在では特にネックではなくなった。

モデルで俳優の冨永愛も、出産後も現役でモデルを続けており、彼女の長男も母と同じく海外でモデルデビューをしたという快挙を成し遂げた。また、イーロン・マスクの母であるメイ・マスクは70歳を過ぎた今も現役でモデルを続けている。

「モデルやファッション業界の認識も変わりつつあるのを感じています。ファッションウィーク自体も時代に合わせて形を変えていくかもしれません」

モデルやファッション業界の先々を見据える林田さん。

ファッショントレンドという移りゆきの早い世界で培ったモデルという仕事への誇りを纏い、彼女は今日も歩みを進める。

林田季子●モデル、Kiel Management Japan代表、モデルトレーナー、ビューティスペシャリスト。
1982年生まれ、兵庫県出身。Vリーグで活動後、日本人初オランダリーグにてプロバレーボール選手として活躍。アメリカ生活を経てビューティスペシャリストとして活動。世界的ウォーキングトレーナーであるスティーブン・ヘインズに師事。モデルやウォーキング講師を務めつつ、2019年9月にはモナコで行われたMiss The Glam Monaco Internationalの日本代表として出場。現在は世界に通用するモデルの育成及び世界各国のデザイナーの飛躍の場を目指すJapan Runway Showの主催を務める。

取材・文/木原みぎわ

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