
テレビやYouTubeなどに多数出演し、「電気・ガス・水道を契約しない自給自足家族」として注目を集めている田村さん一家。夫の余一さん(47)、妻のゆにさん(37)、たいちくん(6)の3人は、青森県南部町で暮らしている。
排せつ時は「キウイの葉」を利用
――電気・ガス・水道を契約せずに、どうやって生活しているのでしょうか?
ゆにさん たとえば、家にお風呂がないので、週に1回近場の温泉へ通っています。それ以外の日は、お風呂に入っていないですね。夏は自宅で水浴びをして済ませることもあります。
余一さん ガスがないのでお湯は出ませんが、電気は自宅に設置したソーラーパネルでまかなっています。使っている電化製品は、冷蔵庫と洗濯機、僕の仕事用の電動工具、スマホ、パソコン、照明だけですね。
ゆにさん 水道も契約していないので、飲み水は町内の湧き水を汲みにいきます。毎月1回くらいのペースで、合計100リットルほどを汲んで運んでいます。
――冬場の青森は、特に寒さが厳しそうです……。
ゆにさん そうですね。
――トイレも自作されたそうですね。どのような仕組みなのでしょうか?
余一さん 「コンポストトイレ」と呼ばれるもので、排せつ物が下に溜まっていく仕組みです。排せつ物がたい肥になったものを大地に還元したいので、トイレットペーパーは使用せず、キウイの葉っぱで代用しています。
幼稚園・保育園に通わなかった息子が、この春から小学校に
――この春、息子・たいちくんが小学校に入学されましたが、通い始めた頃は不安でしたか?
ゆにさん たいちは幼稚園や保育園に通っていなかったので、「ちゃんとやっていけるのかな」という不安はありました。
でも今は、まだ学校に完全には慣れていない部分もあるものの、友達と遊んだり、授業の中で好きなことを見つけたりと、彼なりに楽しんでいるようです。
これからは学校でいろいろな経験をしていってほしいですね。
――なぜ幼稚園や保育園には通わせなかったのでしょうか?
余一さん 僕自身、幼稚園や保育園に通っていなかったので、「幼少期は家で過ごすのが自然なんじゃないか」という思いがありました。
ゆにさん 余一さんは御用聞きの仕事以外にもデザインの仕事などもしていて、私たちは夫婦ともに在宅で仕事をしていることが多く、曜日で当番を決めて交代で子どもを見るようにしていました。
正直大変な時期もありましたが、気がついたら小学校に入る年齢になっていたんです(笑)。それまでは、日中に一緒に洗濯をしたり、畑仕事を手伝ってもらったり、遊んだりして、毎日を一緒に過ごしていました。
――小学校に通い始めてから、たいちくんにどんな変化がありましたか?
余一さん 少したくましくなったように感じます。自分でちゃんと朝起きて、毎日宿題をやって、次の日の準備も自分でできるようになりました。少しずつですが、しっかりしてきましたね。
ゆにさん 学校に通うようになって、たいちの中で世界が広がったんだと思います。今のところ、他の家庭との違いをあまり気にしている様子はなくて、我が家の暮らしにも満足しているように見えます。
――ママ友やパパ友はいますか? また、PTAには入りましたか?
ゆにさん 同級生の親御さんは元々の知り合い以外の方とは、まだあまり接点がないですね。PTAの常任委員に立候補したのでこれから、自分にできることがあれば積極的に関わっていきたいと思っています。
――たいちくんの友人やその家族、学校の先生は、自給自足生活をしていることを知っていますか? それに対して何か言われることはありますか?
ゆにさん もともと知り合いだった人たちは私たちの暮らしを知っていますが、小学校を通じて知り合った方たちがどこまで知っているかは、正直わかりません。
先生には、たいちが幼稚園や保育園に通っていなかったことはお伝えしましたが、それについて特に何か言われることはありませんでした。
――保護者や教師との付き合いで、“ズレ”を感じる瞬間や会話が噛み合わない瞬間はありますか?
ゆにさん 普段、保護者の方や先生方とお話する機会はまだそんなにないので、そう感じることは今のところないです。私たちのほうがちょっと変わった暮らしをしているので、他の方々に寄り添った付き合いをしていくべきなんじゃないかなぁと思っています。
――学校で使う道具の購入について、疑問を感じたことはありますか?
ゆにさん 鍵盤ハーモニカの購入用紙が学校から配られたんですが、「短期間しか使わないのに、新品を買うのはもったいないな」と思いましたね(笑)。
――この先、たいちくんが「この暮らしは嫌だ」と言い出したら、どうしますか?
ゆにさん そのときは、自分で家を出ていくなど自立のタイミングが来たということなんでしょうね。そうやって自然と大人になっていくんじゃないかなぁと思いますね。
SNSでは「子どもがかわいそう」という声も
――SNSやメディア出演を通じて、批判的な意見を受けたことはありますか?
ゆにさん 「子どもがかわいそう」という声をいただくことが一番多いですね。でも、どの家庭でも、親元で暮らしているうちは、少なからず親の価値観の中で育つものだと思うんです。だから、おっしゃる意見も理解できますし、あまり気にしないようにしています。
――それでもSNSやメディアを通じて発信を続ける理由は?
ゆにさん この暮らし方を実践する人が増えれば、自分らしく、幸せに生きられる人ももっと増えると思うんです。そのきっかけとして、少しでも多くの人に知ってもらいたいという気持ちがあります。
私自身、この暮らしをとても楽しんでいますし、心から「幸せに生きている」と実感できています。
――メディアに出ることで、遠方から見に来る人がいたり、それによって迷惑を感じたりすることはありますか?
ゆにさん 2~3年前、テレビに出始めた頃は、特に理由もなくアポなしで家に来る方がけっこういて、家が観光地のようになってしまっていました。町役場や近所の方に家の場所を聞いて来た方もいましたね。
嫌がらせのようなことをされたわけではありませんが、一人ひとりに対応しているうちに時間が取られてしまい、こちらの作業が進まなくなることもあって、少し迷惑に感じていました。
夫も、アポなしで来られることをあまりよく思っておらず、「ここは観光地ではないので、遊び目的では来ないでくださいね」といったことを直接お伝えしていましたね。
――これから先、たいちくんにはどのように育ってほしいと考えていますか?
余一さん とにかく、自分で「ここまで」と限界を決めてしまわない人になってほしいですね。僕たちのような暮らしを見て育てば、「できない」という感覚そのものがあまり芽生えないんじゃないかと思っています。
ゆにさん 私としては、自分のことをまず好きになってほしいです。そのためにも、なるべく本人の意思を尊重することを大切にしています。自分が夢中になれることを見つけて、幸せな人生を歩んでくれたら嬉しいですね。
――今後の夢や目標を教えてください。
余一さん 今、自給自足生活を広める活動をしていて、弟子が3人いるんです。いつか学校を作って、家の建て方やこの暮らしをより多くの人に伝えていきたいですね。
ゆにさん より多くの人にこの生活を知ってもらえるように、今後も発信したり、知識をシェアしたりし続けたいですね。それに、自分自身もこの暮らしをさらに探求していきたい。たいちには、このまま順調に成長してほしいです。
学校から帰宅したたいちくん本人にもインタビュー
――学校は楽しいですか?
たいちくん まあまあ楽しい。休み時間は、いつも友だちと外で遊んでいるんだ。でも、家のほうが好き。トト(余一さん)とカカ(ゆにさん)と一緒にいられるから。
――学校で大変なことはありますか?
たいちくん 明日が運動会だから、毎日練習しているの。練習は楽しいけど、暑くて疲れる。今日は28度もあったんだよ。
――勉強は好き? 特に好きな教科を教えてください。
たいちくん 勉強はちょっとだけ好き。算数が一番好きかな。数字を書くのが楽しいから!
――友だちはできたかな?
たいちくん うん。新しくできた友だちもいるし、小学校に入る前からの友だちもいるよ。
――友だちの家に遊びに行ったことある?
たいちくん ある! 逆に遊びに来てもらったこともあるよ。友だちは、僕の家のニワトリを見てビックリしていたよ!
――テレビに出たことを、友だちは知っているかな?
たいちくん 学校の友だちは何も言ってこないから、知らないと思う。
――お家のご飯と給食はどっちが好き?
たいちくん 家のご飯のほうが好き! 家のご飯は選べるけど、給食は選べないから……。カカはいつも僕に「今日は何食べたい?」って聞いてくれるんだ。給食はハンバーグが1番好き!
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元気よく無邪気に質問に答えてくれたたいちくん。今後の成長が楽しみだ。
〈前編はこちらから『元ダンサーと着物販売員が選んだ青森での“自給自足生活”の驚きの中身…』〉
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班