
東京都が新たな交通手段として推進している「船通勤」。5月14日には、五反田と天王洲アイルを結ぶ定期船の運航が始まった。
五反田~天王洲アイル間の新航路に乗ってみた
満員電車を避けられる新たな通勤手段として、東京都がいま推し進めている「船通勤」。5月14日からは、五反田と天王洲アイルを結ぶ定期船の運航もスタートした。
東京都は通勤などに利用できる定期船を運航する事業者に補助金を交付しており、2023年10月には中央区・日本橋と江東区・豊洲を結ぶ航路が、2024年5月には中央区・晴海と港区・日の出を結ぶ航路が運航を開始している。
今回新たに運航を開始した五反田~天王洲アイル間の定期船は、「五反田リバーステーション(五反田船着場)」と「東品川二丁目防災桟橋」を結んでいる。
現在、平日の午後4時から午後10時までの間に往路復路合わせて7便が運航されており、運賃は大人(12歳以上)1便あたり1人900円。所要時間は1便あたり約35分だ。
船の発着場所である「五反田リバーステーション(五反田船着場)」は、五反田駅から徒歩約2分の場所にある。「東品川二丁目防災桟橋」は、天王洲アイル駅の目の前に位置している。
電車で五反田駅から天王洲アイル駅まで移動する場合、乗り換え時間を含めて所要時間は約15分、運賃はICカード利用で418円(大崎駅でりんかい線に乗り換えた場合)。そのため、この船を利用すると、通勤時間も運賃も電車の倍以上かかってしまう。
しかしこの船には、目黒川沿いや天王洲運河沿いの景色を楽しみながら、混雑や渋滞を気にせず、ストレスフリーに移動できるというメリットがある。それにもかかわらず、都民の間でいまいち浸透していないのはなぜだろうか?
まず、新たに運航を始めた定期船の利用状況はどうなっているのだろうか。定期船の現地スタッフに聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「船の定員は44人ですが、現状では1便あたりの利用者は数名から十数名程度です。毎回通勤で利用している方は、いまのところ見かけません。乗船チケットは事前のWEB予約か、当日に現地で購入していただけますが、予約が埋まる日はほとんどないのが現状です」(現地スタッフ)
船内にはアルコールを楽しむ客も「観光しているような気分」
実際に運航している現場はどうなっているのだろうか。さっそく乗船してみることに。
この日の乗客は、取材班を含めて、18時五反田発の便が10名、19時天王洲発の便が14名(うち4名は往復乗船)。
定員44名には程遠い状況だったが、船ならではの移動のメリットがはっきりと感じられた。
まず電車との大きな違いは、座席が確保されていることだ。加えて、今回乗った便は乗客が少なかったため、船内にはゆとりがあり、ゆったりと過ごせた。座席はすべて自由席で、公式サイトによれば、自転車やベビーカーの乗船も可能となっている(台数には制限あり)。
さらに船内では、飲食(アルコールを含む)も可能だ。
「景色がすごくいいね! 仕事終わりに乗ってみたけど、観光しているような気分。東京がまるで水の都みたいに思えて、コンビニで買った酒が普段よりうまく感じるよ」(50代男性・品川区在住)
いっぽうで、乗船した瞬間から鼻を刺すような都内の河川特有の臭いが漂っていたのが気になった。この臭いの中で、飲食をしながら約35分間乗り続けるのは、正直なところ厳しいかもしれない。
「ハイボールを飲んでいたから、川の臭いなんて全然気にならなかったよ! 屋形船と比べたら価格もだいぶ安いし、いいんじゃないかな。風にあたりながらお酒を飲んでいたら気持ちよくて、あっという間に着いちゃったよ」(前出の50代男性)
との声がある一方で、仕事終わりに乗ったという別の男性は「やはり独特の臭いが気になる」と話す。
「とにかく、ずっとドブ臭さが気になりました。特に風が吹くたびにモワッと臭いが漂ってきて、それがかなりキツかったです。目黒川を通っているときが一番臭いましたし、川の汚れも気になりましたね。興味本位で乗ってみましたが……正直、もう乗らないと思います」(30代男性・品川区在住)
最大の課題はニオイ?
また、別の女性は「今の季節はいいけど……」と前置きしつつ、乗船に適した時季が限られることを指摘。さらに、やはり臭いも気になる点だと率直な意見を述べた。
「テレビで新しい定期船の運航が始まったと知って、試しに乗ってみましたが、これで900円なら安いと思います。ただ、今の季節はちょうどいいけど、夏は日差しが暑そうだし、冬は風が冷たそうで、乗る時季は限られる気がします。通勤にはあまり向いていないですね。
それに、東京湾が近づくにつれて、尿のような臭いがして……。臭いに敏感な人には、あまりおすすめできないです」(50代女性・港区在住)
船を運行する株式会社ジールに利用者数や、臭いの原因について尋ねたところ、2日にわたり担当者不在のため回答が得られなかった。
しかし、定期船の現地スタッフによると「今の時期は表層水と底層水が入れ替わる“ターンオーバー”という現象が起こるため、川や海の水が濁り、臭いも強くなる傾向がある」とのことだった。
心地よい風に当たりながら、ゆったりと都内を移動できるという魅力がある一方で、多くの乗客が「臭い」を課題として挙げた船通勤の新航路。あまり気にならない人は、一度試してみるのもアリかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班