
職場に、できればかかわりたくない人が誰しもいるだろう。その人の顔を見るだけで、名前を聞いただけで、あるいは考えるだけで、「嫌い」「苦手」といった感情を抱いてしまうのはなぜなのか。
現役の脳神経外科医が頭に住みついたあの人を忘れる脳科学的なアプローチを書いた『あの人を脳から消す技術』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
脳は「覚える」より「忘れる」ほうが苦手
なぜ特定の人が私たちの脳に強く刻み込まれてしまうのか。まずは具体的な事例からそのメカニズムを理解していきましょう。
新入社員の山田さんは、入社して3か月になりますが、まだ部署の雰囲気に馴染めていません。特に気になるのは、課長との関係です。
先日の週例ミーティングで、彼女の作った資料の説明部分が少しわかりにくかったため、課長は穏やかな口調で、
「もう少し丁寧に説明したほうがいいかもしれませんね」
と助言をしてくれました。決して厳しい指摘ではなく、むしろ課長の優しさを感じたほどでした。
ところがそれ以来、山田さんは廊下で課長とすれ違うたびに、あのときの課長の表情と言葉が鮮明に蘇ってきます。「もっと違う説明の仕方をすれば良かった」「課長は私のことをどう思っているんだろう……」と考え始めると、夜も眠れなくなるほどです。
実はこれは、私たちの脳が持つ重要な特徴を表しています。
脳は「覚えている」ことより、「忘れる」ことのほうが苦手なのです。
生存のための重要な機能
これは生存のためです。人類が集団で暮らし始めた時代から、他者との関係は生存に大きな影響を与えてきました。
限られた資源を分け合い、協力して生活していく中で、誰が信頼できる相手で、誰が警戒すべき相手なのかを判断し、それを記憶することは極めて重要でした。
この記憶システムの中心となっているのが扁桃体です。扁桃体は「この状況は要注意だ」と判断すると、その出来事を強く記憶に刻み込もうとします。これは、一度でも危険な目に遭った場所や相手のことを忘れないようにする、生存のための重要な機能なのです。
山田さんの場合、課長からの穏やかな指摘であっても、「上司からの評価」という山田さんにとって重要なシーンとして扁桃体が認識し、その記憶を強く保持しようとしているのです。
そのため、周囲から見れば些細な場面であったにもかかわらず、彼女にとってはそのときの状況が鮮明に思い出されることになります。
私たちの脳は、特に「職場」での出来事を強く記憶に留める傾向があります。これは、会社という場所が私たちの生存、つまり生活の基盤に直結しているからです。上司や同僚との関係は、私たちの評価や仕事の継続、さらにはキャリアの形成にまで大きな影響を与えます。
そのため扁桃体は、職場での些細なやり取りであっても、「生存に関わる重要な情報」として認識しやすいのです。
山田さんが課長の言葉を気にしてしまうのも、決して特別なことではありません。むしろ、脳が正常に働いている証拠です。
「忘れない脳」が私を悩ませる
「記憶する」という脳の働きは、必ずしも「その記憶に振り回される必要がある」ということを意味しません。
山田さんの場合、確かに課長との出来事は脳に記録され続けるでしょうが、その記憶がつねに意識の中心にあって不安や緊張を引き起こし続ける必要はありません。
これは、私たちが過去に転んで怪我をした場所を覚えているようなものです。その場所を通るたびに「ここで転んだな」と思い出すかもしれませんが、だからといって毎回その記憶に動揺したり、その道を避けて通ったりする必要はないはずです。
ところが、扁桃体はときとして過剰に反応してしまいます。課長の何気ない一言を「重大な警告」として受け取り、その記憶を「極めて重要な危機情報」として保存し続けようとするのです。
その結果、廊下で課長と会うたびに緊張したり、夜、自宅に帰ってからもその場面が頭から離れなくなったりしてしまいます。
このような扁桃体の過剰な反応は、現代社会において、しばしば私たちを悩ませる原因となっています。原始時代には生存に役立った「忘れない仕組み」が、むしろ私たちの日常生活に支障をきたすようになってしまっているのです。
写真/Shutterstock
あの人を、脳から消す技術
菅原 道仁
発売前からSNSで共感の嵐!
せめて離れてるときくらい
あの人を忘れたい・・・
「あの人の顔を見ただけで、イヤな気持ちになる」
「寝る前にあの人とのイヤな会話を思い出してしまう」
「あの人からのメールや電話は後回しにしたい」
「会話中にあの人の話題が出ると、愚痴を言っちゃう」
「誰かがあの人の名前を出すと、話題を変えたくなる」
これは、頭の中に住みついている
そんな「あの人」のことを忘れて、
ストレスのない日々を送るための本です。
あの人とは、たとえばこんな人です。
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・失礼なあの人
・見下してくるあの人
・支配してくるあの人
・批判してくるあの人
・陰口を言うあの人
・生意気なあの人
・嫌味なあの人
・だらしないあの人
・自慢げなあの人
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「あの人」が目の前にいるときだけじゃなくて、
離れているときも、夜寝ようとするときも
四六時中、頭の中に住みついてる。
よくイヤな人からは離れたほうが
いいと言われますが、
家族や会社や学校にあの人がいたら、
それもなかなか難しいですよね。
であれば、せめてあの人が
目の前にいないときくらいは、
脳から消してしまいたいものです。
●脳があの人を危険人物扱いする!
脳には感情を司る「扁桃体」があります。
扁桃体は、イヤなあの人を
「危険人物だから要注意!」
とつねに警戒態勢をしてきます。
だから、あの人が頭に住みついちゃう。
消したければ、扁桃体に
「もう警戒態勢をといていいよ」
とサインを送るのが効果的です。
本書は、現役の脳神経外科医が書いた
脳から、あの人を消す技術です。
脳は「覚える」より
「忘れる」ことのほうが苦手。
だからこそ、頭に住みついた
あの人を忘れるためには、
脳科学的なアプローチが必要です。
本書には、誰にでも実践できる
7つのテクニックが書かれています。
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1.映画化テクニック
2.書き出しテクニック
3.リフレーミング・テクニック
4.タイムリミット・テクニック
5.今ここテクニック
6.身体化テクニック
7.言語化テクニック
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脳科学の視点から、あの人を
忘れる方法を解説した画期的な一冊。
「気づいたら、あの人が頭から消えていた」
という解放感を、ぜひ味わってください。
【本書の目次】
はじめに 脳は「嫌いな人」を「重要な人」と判断する
第1章 あなたのモヤモヤの正体を知る
第2章 なぜ、あの人が頭から離れないのか
第3章 あの人を脳から消す7つのテクニック
第4章 あの人が「いない脳」を作る
第5章 睡眠は「あの人」を消すチャンス
第6章 イライラ知らずになる5つの脳トレ
第7章 実践!困った「あの人」への対処法
第8章 人生で一番大切なことは何か?
エピローグ あなたの心が晴れますように