「進次郎の“いつものパターン”だよ」小泉コメ担当大臣の大博打に党内から冷ややかな声…「生産者側への配慮を怠ってないか」
「進次郎の“いつものパターン”だよ」小泉コメ担当大臣の大博打に党内から冷ややかな声…「生産者側への配慮を怠ってないか」

政府は5月29日から、一部事業者に対して、随意契約で売り渡す備蓄米の引き渡しを開始する。就任から一週間の間に、矢継ぎ早に手を打ってきた小泉進次郎農水相(44)は、備蓄米が5キロあたり約2000円で6月の1週目に店頭に並ぶ見通しを示す。

小泉農水相は安価な備蓄米の放出により、「価格破壊みたいなかたちを一定程度おこさないと」とテレビ番組で語ってきたが、全体のコメ価格の引き下げにどれだけ寄与するかいまだ不透明な面もある。 

昨年の総裁選時と重なって見える? 

「担当大臣としてしっかりと、国民の皆さんが、昨年と比べたら2倍近くになっている米の価格が下がったと。これだったら安心してお米を買える、食べると。(中略)しっかりと米の価格が下がるという、そういった方向性に向けた第一歩を示していきたいと思っています」

5月21日の就任会見でこう語った小泉進次郎氏。失言により江藤拓・前農水相(64)が辞任し、緊急登板したが、参院選を前に深刻な支持率低迷にあえぐ石破政権の命運を握っているといえる。

全国のスーパーでは、コメの価格が5キロあたり4000円台まで高騰。焦りを募らせる石破茂総理(68)は、5月21日の党首討論で「(5キロあたり)3000円台にしなければならない」と語った。

参院選を前に、コメの価格高騰を一定程度落ち着かせ、なんとか政権浮揚の材料にしたいのだろう。

小泉氏も就任会見で「総理の思いも確認をしながら、3000円台ということの思いを私としても、共有をしながら農政を進めていきたい」と、コメ価格の大幅な引き下げに意欲を示した。

石破総理の指示のもと、小泉氏が描いたシナリオはこうだ。

備蓄米の放出を、従来の入札方式から、国が事前に価格を決め、任意に受注者を選んで契約する随意契約に転換する。これにより、5キロあたり約2000円の備蓄米を店頭に並べることを実現させ、「価格破壊」を起こす——。

小泉氏はすぐさま大手小売業者を対象に合計30万トン(21年産が10万トン、22年産が20万トン)の購入申請の受付を開始し、約70社の応募が殺到した(22年産に人気が集中し、上限を超えてしまったため、現在は受付を一時停止)。

ところが、自民党内には当初から、小泉氏の取り組みを冷ややかな目で見る向きもあった。

「進次郎の“いつものパターン”にならないといいが……」

そう漏らしたのは、自民党の重要閣僚経験者だ。小泉氏の就任会見での言動が、「昨年の総裁選時と重なって見えた」と打ち明ける。

「進次郎氏は総裁選の出馬会見で、解雇規制の緩和やライドシェア解禁、選択的夫婦別姓などを1年以内に実現させるとぶち上げた。しかし、言ったはいいものの、なぜそれが1年以内に実現可能なのかという根拠には乏しかった。

案の定、他の候補者との論戦が進む中で、どんどん疑問符がついていき、進次郎は失速した。はじめに勢いのよすぎる発言をしたことで、あとで追い込まれてしまったのです」

今回のコメ価格の引き下げ問題についても、同様のパターンになるのではないか、と見ているという。

「当初の決意通りに、コメ価格全体の引き下げにつながれば、参院選を前に、石破政権の大きな実績になる。進次郎氏としても、次の総理候補として名をあげるチャンスになります。その反面、期待外れに終わった時の国民の落胆は小さくない。まさにイチかバチかです」(同前)

「農業協同組合(JA)などの反発も出てきかねません」との懸念も 

実際、小泉氏の奮闘にもかかわらず、見通しはそう明るくない。

「だから、(現在コメ5キロあたり)4200円のものが落ち着きますか? 本当に。

これ(放出する備蓄米)30万トンって、4.6%でしょう。年間消費量が700万トンで」

5月28日の衆院農水委員会で、小泉氏を詰問したのは、日本維新の会の前原誠司共同代表(63)である。

備蓄米の在庫には限りがあり、総需要に占める割合はごく一部。それらを安価で供給できたとしても、果たしてコメの全体価格の引き下げにつながるのかと疑問を呈した。

小泉氏は「備蓄米は古米で、ブランド米と同じ価値ではない」と断ったうえで、「安く買いたいという人たちにも選択肢を増やすことで、高止まりしている平均4200円の価格が落ち着いていく、マーケットの状況をつくりたい」と答弁した。

確かに、小泉氏の言うとおり、消費者にとって安価な選択肢は増える。ただ、それが全体のコメ価格の引き下げにどれだけの効果を持つかは、いまひとつ明確にならない。

国民民主党の玉木雄一郞代表(56)も、「どれぐらい(の価格)に持っていくつもりで取り組んでいるのか」と尋ねた。しかし、小泉氏は、「まずは備蓄米で落ち着かせ、冷静に議論できる環境をつくる」と具体的な金額には踏み込まなかった。

いくつもの課題が指摘された農水委員会での論戦。自民の重鎮はこう指摘する。

「政府主導による価格引き下げという意味では、菅義偉政権時代の携帯電話料金引き下げがありました。

ただし、あの時は事業者側の事情を丁寧にくみ取っており、消費者側と事業者側の双方が納得できる引き下げ幅の落とし所が、最初からある程度具体的に見えていたのです」

今回は、それが見えてこないのが不安だという。

「大手集荷業者などを排除し、大手小売店に安価な備蓄米を直接供給すれば、価格破壊がおこるだろうというのも、やや楽観的過ぎるように思います。消費者側の視点が先行し、生産者側の視点が弱すぎるのではないか。生産者側への配慮を怠れば、農業協同組合(JA)などの反発も出てきかねません。先行きは極めて不透明です」

果たしてコメの価格は、石破総理が語った通り、3000円台まで下がるのか。コメの価格高騰に、手をこまねいてきた石破政権のツケを、緊急登板した小泉氏が背負わされている。

取材・文/河野嘉誠 

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