
小泉進次郎農相が誕生して1週間あまり。さっそく政府の備蓄米について、これまでの競争入札での売り渡しをやめ、決まった価格で小売業者に売り渡す「随意契約」を始め、注目を集めている。
「『買ったことない』発言は消え、久々の自民党の上げ潮ムード」
「率直にどれもおいしい」「そこまで(味の違いを)感じなかった」。
5月29日、農林水産省で備蓄米の試食会に出席した小泉進次郎農相は2021年産の「古古古米」などをほおばり、備蓄米のおいしさをアピールした。
小泉氏は農相就任後、これまでの競争入札での政府備蓄米の売り渡しをやめ、随意契約を開始した。再来週にも「中小のスーパーに1800円ぐらいの備蓄米が行き渡る」との見通しを明らかにしている。
連日、メディアでは小泉農相の会見や試食会が取り上げられ、さながら「メディアジャック」のような状況になっている。
この状況に喜んでいるのが、裏金問題以降、なかなか明るいニュースがなかった自民党だ。
「物価高の象徴ともなっているコメ問題が好転している。もはやみんな江藤拓前農相の『コメは買ったことがない』発言の記憶は消えているだろう。自民党にとっては久々の上げ潮ムードだ。なんとか参院選まで続いてほしい」(自民党関係者)
小泉農相のメディアジャックは、石破首相にとって「救世主」になるかもしれないというのだ。
「石破首相にとっては、衆院選での自公過半数割れ、10万円の商品券問題と、我慢の政権運営が続いていたが、『進次郎人気』の恩恵を受けて参院選で踏みとどまれれば、続投の可能性が高まる」(全国紙政治部記者)
参院選で与党が非改選議席と合わせて過半数割れとなれば「石破おろし」に直結するが、過半数を維持できれば、しばらく国政選挙がないこともあり、石破政権はなんとか延命できそうだというのだ。
立憲は苦虫、国民民主の玉木代表も「エサ米」発言でピンチ
一方、連日の「進次郎のメディアジャック」を複雑な思いで見ているのが、野党第一党の立憲民主党だ。
立憲は、江藤前農相の「コメは買ったことがない」発言に批判を強め、ほかの野党とともに農相の不信任決議案の提出をちらつかせた。その直後、江藤氏が辞任に追い込まれた経緯がある。
「江藤氏を辞任に追い込んだことが、結果として石破政権に好転のチャンスを与えることになった。コメ価格が下がるのは国民にとっていいことだが、江藤氏が続投してくれていたほうが、コメ発言がボディーブローのようにじわじわと政権にダメージを与えていたのでは」(立憲議員)
そして、国民民主党の玉木雄一郎代表は5月28日の衆院農林水産委員会で備蓄米について「1年たったら動物のエサになるようなもの」と発言。
小泉農相は「事実としてはそうだとしても、放出のあり方について取り組んでいるときに、私としてはちょっと残念だなという印象」と苦言を呈し、与野党問わずほかの国会議員からも玉木氏の発言に批判が広がった。
玉木氏は「小泉大臣も『エサ米』という言葉を使って同じ説明をしています」などと釈明したが、全国紙政治部記者は「国民民主党は今、過去に不倫報道があった山尾志桜里氏を擁立し、批判が高まっている正念場。事実関係は間違っていなくても、注目されている小泉農相との議論のなかではとくに、言葉遣いに慎重にならないといけない」と指摘する。
6月最大のヤマ場「内閣不信任決議案」の行方に影響も
小泉農相の登場によって、コメ価格同様、少し潮目が変わりつつある永田町。「進次郎のメディアジャック」は国会における6月最大のヤマ場・内閣不信任決議案の行方にも少なからず影響を与えそうだ。
立憲の野田佳彦代表は産経新聞のインタビューで、米国との関税交渉に触れ「国難と言われるテーマで国益をかけた交渉をしているときに『不信任案を出します』と言って足を引っ張っていいのか」と、不信任案提出に慎重な姿勢を見せた。
仮に不信任決議案が可決された場合、石破政権は総辞職か衆院解散を選ぶことになり、そうなった場合、「石破首相は自分の手で解散し、勝負するのでは」との見方が永田町では強い。
とある立憲議員は「参院選で小泉農相がコメ価格を下げた実績をもって全国を回ったら、立憲としては厳しい戦いになる。
野田代表としては、こうした党内の空気も踏まえ、不信任決議案の提出について最終判断を下すことになりそうだ。
昨年の3位に終わった総裁選では「決着」をキャッチコピーに掲げていた小泉農水相。コメ問題に「決着」をつけられるかどうかが、石破政権の命運を左右しそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班