
備蓄米を「5キロ2000円で店頭に並ぶようにする」と連呼して話題づくりを狙った小泉進次郎新農水大臣。しかし、食味に疑問符がつく古古古米などが対象なこともあり、野党から「1年経てば動物のエサ」と揶揄されるなど、新農水相としての船出は順調とは言い難い。
「最終的にコメ農家を苦しめ、コメの価格も上げてしまう可能性があるんじゃないか」
藤松さんは無農薬、無肥料による「自然農」スタイルを貫き、全国のコメ農家や酪農家たちが一斉蜂起した「令和の百姓一揆」の実行委員を務めている。
3月30日に東京都内で行なったデモでは、トラクターに乗って徒歩隊を先導した行動派だ。
まず、小泉農水相への期待感はどれほどのものか。
農家や消費者にとって本当にプラスになるような農政改革を行なってくれるならいいですが、私としてはまだそこまでは期待はしていません。政府はこれまで長年、減反政策を行なってきたわけですし、コメの価格が高騰してからも私の周囲では以前と変わらず離農していく人が大勢います。
減反政策をもっと早くからやめるべきだったし、今やめたからといって現状がすぐに解消されるわけではありません。コメ農家や消費者にとって、大臣が代わったから本当によくなるのかと聞かれたら、僕にはわかりません
これまでコメは「足りている」というスタンスだった農政から、小泉氏が就任以来「コメが足りない」というスタンスで動き始めたことに関してはどう思うか。
「正直なところ選挙対策かなと思ってしまいます。参院選が近いので、自民党はコメ問題に積極的に斬りこんで人気を得るという、ある種の賭けに出たのかなと。もちろん農協には組織票があるわけですから、だから賭けということなのだと思います。ただ、人気取りという意味ではかなりの効果が出ているんじゃないですかね。
備蓄米が入札から随意契約になり、これまで高かったおコメが2000円程度で買えるようになる、企業もPRできる絶好の場ですからとにかく安く出す。そこだけを切り取れば効果があるように見えますから。
ただ、根本的な解決とは思えません。それに農協=悪みたいな構図になってしまっていますけど、僕はすべて農協が悪いという風には思っていません。農政改革は行なうべきだと思いますが、農協を悪として切り離せばすべて解決するような簡単な話ではないと思っています。
例えばですが、農協が所有しているおコメの乾燥だったり貯蔵などの施設を個人農家も安価で使用できたりします。これは個人ではとても用意できない施設なんですよ。そういういい面もあるわけですから、共生していく方法も探すべきでしょう」
農協を敵役に仕立てて人気取りに腐心する手法は、かつて父の小泉純一郎元首相が仕掛けた郵政民営化議論を彷彿とさせる。ましてや進次郎氏は米国戦略国際研究所(CSIS)でいわゆる「ジャパンハンドラー(日本を操る者)」たちの薫陶を受けた生粋の親米派だ。
それだけに藤松さんはこう危機を訴える。
「小泉農水大臣には危うさも感じます。最終的にコメ農家を苦しめ、コメの価格も上げてしまう可能性があるんじゃないかと……。
お父さんがそうだったからではないですけど、郵政民営化でも結局ハガキ代も上がってますし、消費者からするとお金がかかるようになっています。同じように小泉農水相が『農協を民営化する』とか言い出さないとも限りませんしね。
それにいま政府が推し進めているスマート農業ですが、あれも個人農家で参入するのは無理です。農業ドローン導入などの費用を半額補助すると言ってますが、全部揃えたら1億円近くかかります。その半額だから5000万円は自分で用意しなきゃいけないわけですよ。企業の方向ばかりを向いた改革が進めば、おコメの値段は上がっていくと思いますよ」
国民民主・玉木代表の「エサ」発言には…
今回放出する備蓄米は2021年産の古古古米が含まれ、それについては価格が5キロ1800円程度に落ち着くのではと予測されているが、どう思うか。
「備蓄米を合計30万トン放出するということですが、コメの年間消費量から明らかなようにそれで足りるわけではないと思います。価格も5キロ1800円程度で『安い』とアピールしていますが、古古古米ですから元から安くなっているおコメなんです。
古古古米は保存状態が良ければ著しく味が落ちることもないし、まったく問題なく食べられますよ。ただ、臭いとは言いませんが、ご飯を炊いた時のあの食欲を刺激するような新米の香りはないですね。もちろん品種などにもよって違うので一概には言えませんけど。
おコメの値段も現状は農協の概算金が60キロあたり23000円とか25000円とかなんですから、コメ農家から見ても異常だと話題になっています」
概算金とはJAが各農家からコメを集荷する際に払う前払い金で、これに流通コストが加わって消費者が手にする店頭価格になる。
「これ以上高くなればコメ離れも進むでしょうし、それは避けたいですね。60キロ20000円くらいならコメ農家も生活していけると思うので、そのくらいで落ち着いてくれるといいですね。
古古古米が1800円~2000円と言われると安くなった印象を受けますが、今年の新米に関してはまだ高騰したまま値段が落ちることはないと思いますよ。
現にウチにもこれまで取引がなかった業者から『新米の予約をできるだけしたい』という問い合わせがきているし、周辺でもコメを探しているところが多いという話を聞いてます。
これから田植えが本格化する時期ですが、去年はもうこの時期から暑かったので苗の成長が良かったんです。その後、暑すぎて収穫量は落ちてしまったのですが、今年はまだこの時期でも冷え込むことがあります。そのせいで苗の成長が良くないんです。今年も猛暑が予想されていますが、このままさほど暑くならなかった場合、コメの収穫量にどう影響するかもわかりませんしね」
最後に、国民民主党の玉木雄一郎代表が古古古米について「1年経ったら動物のエサに出なるようなもの」と発言したことをどう思うか。
「実際に1年経ったら動物のエサになるわけですから発言の内容自体は間違ってはないんですけどね……。ただ、言い方も含めてわざわざ公の場で言うことではないんじゃないかとは思いました」
その通りだと膝を叩く人がほとんどではないだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班