
悪質なホストクラブへの新たな規制や罰則強化を盛り込んだ「改正風営適正化法」が先月衆議院で可決され、6月下旬より施行される。近年の悪質ホスト問題や、トクリュウ認定されたスカウトの摘発ラッシュをきっかけにした今回の改正について『歌舞伎町弁護士』の著者・若林翔弁護士に話を聞いた。
色恋営業の禁止の実態
――5月20日に可決された「風営法の改正」は、ナイトビジネスの健全化につながりますか?
若林翔(以下同) 悪質ホスト問題に端を発した「色恋営業の禁止」は、ホスト業界にかなりのインパクトを与えると思いますが、イメージ先行で、条文の意味が正確に伝わっているのかどうかは疑わしいですね。
――そもそも「色恋営業」とはどういった営業スタイル?
熱心にホストクラブに通う客は、自分が指名する担当ホストのことをしばしば『私の彼(氏)と言い、こうした「ホストと客の状態」は、ホスト業界において『本営』と呼ばれます。「本彼女営業」を縮めた隠語です。
――その『本営』が、つまり「色恋営業」ですか。
いいえ、そうではありません。本営は、ホストと客の間に「交際関係」がある場合の隠語です。「色恋営業」はどちらかといえば、本営の「手前のイメージ」。つまり、ホストが客に対して恋愛感情を持っているかのように装い、客と「疑似恋愛している」(客の側は本物の恋愛だと錯誤している)状態を提供する営業方法のことです。
――改正された風営法では、今おっしゃったような営業方法が禁止された?
そこが誤解されているところで、法的には「こうした状態」を作り出すこと自体は禁じられていません。このような色恋営業の状態を利用して、ホスト側が「関係の破綻」や「不利益」を告げて、客を「困惑」させ、それによって遊興や飲食をさせることが禁止されたのです。
ガイドラインの線引き
――具体的な事例としては、どういった行為が考えられますか。
シャンパンを入れてくれなかったらもう付き合えない、とか。この売上を達成しないと、ホストとして降格してしまう、とか。そうした表現は「関係の破綻」や「不利益」を告げて、客を「困惑」させていることになると考えられます。
――逆に、改正された風営法でも「OKな表現」はどうですか。
条文を読むかぎり、たとえば「おれはナンバーワンを目指しているんだ(だから、応援してほしい)」は違法とはされないでしょう。同じナンバーワンというフレーズを使っても、「締め日に来て、タワーをしてくれないとナンバーワンになれない。そうなったら別れるしかない」はダメですね。
――違反してしまった場合、ホストたちにはどのような罰が?
ホスト個人に対する罰はなく、そのホストが勤務するホストクラブに対する「行政処分」が行なわれます。簡単にいえば「連帯責任」ですね。ひとりのホストが違反をするだけで、(風営法の)1号許可を得て営業しているそのホストクラブ自体が「指示処分」や「営業停止」、「許可の取り消し」を受けてしまいます。
ホストクラブの営業許可に追加された3つの要件
――「違法な色恋営業の禁止」に抑止効果が期待できるようにも思いますが。
どうでしょう。「色恋営業の禁止」よりも「欠格事由(人的要件)」の範囲の拡大に注目している関係者のほうが多い印象です。
――欠格事由とは何ですか。
営業許可が下りない人の要件です。これまでは、次のようなものでした。
・未成年者。
・破産手続開始の決定を受けて復権を得ないもの。
・1年以上の懲役刑や風営法違反などの特定の犯罪での刑罰から5年を経過していない者。
・暴力団の構成員。
・風営法の許可取り消しから、5年を経過していない者。
今回は、既存の要件にさらに3つが追加されたのですが、ホスト業界は「親会社、子会社、兄弟会社などが許可を取り消された法人」という内容の条文に震撼しました。一般的に親会社というのは、2つ以上の法人が支配従属関係にある場合の「支配的な法人」を指します。
そして、親会社に従属する法人は子会社と呼ばれますが、この親子の関係は「子会社の株の過半数を持っていること」や「親会社の役員が、子会社の取締役会の過半数を占める」など、外形的な基準として示されることが一般的です。
――そうなると、ホストクラブの「グループ」は「親子会社」には当たらないんじゃないですか。風営法の1号許可は店舗ごとに取得しなければなりませんし、いわゆる「ホスト・グループ」は、各店のエース格のホストがまだ半人前だった時代に働いていた特定の店を中心にした一種の「友達軍団」でしょう。店舗間でお金のやりとりが生じていないケースも少なくないはず。
ですから、今回の改正案では「親子会社」の定義を曖昧にして、「実質的に支配」とか「事業に重要な影響を与える関係」といった抽象的な表現が用いられています。
詳細については国家公安委員会規則で定められることになっており、11月28日の施行までには公表されます。業界は固唾を呑んで注視している状況ですね。
ナイトビジネス規制への抵抗
――資本関係がなくても、警察や行政に「支配関係がある」と見做されたら、違反した店舗が1号許可を失うだけでなく、友好的な関係にあった別の店舗も1号許可を取り上げられてしまうということですか。
こうした「ホスト・グループ」では、ひとつの店が許可を失ったとき、その店舗で働いていた――違反行為を行なっていない――ホストやスタッフに対して、グループ内の別の店舗が一時的に働く場を提供する、セーフティネットの側面もあります。
そうした集団まで、問答無用で「連帯責任」として1号許可を失うとなれば、これはナイトビジネスおけるホストクラブという夜の文化の絶滅につながりかねません。
――著書『歌舞伎町弁護士』は、不思議な読後感を味わわせてくれる一冊でした。若林さんはある場面ではナイトビジネスの不正を追及し、ある場面ではローカルな流儀を尊重しようとする。先生は結局、ナイトビジネスを守りたいのですか、それとも潰したいのですか?
私は、人間にとって、何より大切なのは「自由」だと信じています。ですから「何でもかんでも規制する」という政治的風潮には抗っていきたい。もちろん、不当に権利を侵害される人を守るための規制は必要ですが、基本は「自由」で、規制は「最小限」であるべきでしょう。正しいか、間違っているかという以前に、そのほうが人間らしくいられると思うのです。
取材・文/山田傘
歌舞伎町弁護士
若林 翔