〈古古古米も店頭へ〉「楽しい食卓」「和の一膳」「和の輝き」…見慣れない備蓄米の商品名はどうやって付けられた? メーカー・小売業者に聞いて発覚した”意外な事実”
〈古古古米も店頭へ〉「楽しい食卓」「和の一膳」「和の輝き」…見慣れない備蓄米の商品名はどうやって付けられた? メーカー・小売業者に聞いて発覚した”意外な事実”

依然、先行き不透明な「令和のコメ騒動」。政府備蓄米の売り渡し方法が随意契約に変わり、いよいよ店頭に「古古米」「古古古米」などの備蓄米が店頭に並び始めた。

かつての価格帯での販売に安堵する消費者も多いだろうが、価格とともに、どうしても気になるのがその商品名だ。なじみのあるブランド米に代わって店頭に姿を現した謎めいた備蓄米の商品名には、どんな背景があるのだろうか? 

「和の一膳」「楽しい食卓」…見慣れない備蓄米の商品名たち

随意契約によって売り渡された政府備蓄米は、5月31日より店頭およびネット通販での販売が始まった。

5kgあたり2000円程度のものが多く、以前の価格帯で購入できるとあって、大手スーパーやディスカウントストアなどには店頭に並んだコメに多くの客が詰め掛け、早くも完売する店が続出している。

だが、価格もさることながら、「和の一膳」「わが家のお米 楽しい食卓」「和の輝き」など、ブランド米とは異なる見慣れない商品名が気になる人もいるのではないだろうか?

そこで「高くてコメが買えない」と嘆く新人記者(23)が、都内の大手ディスカウントストアに向かい、備蓄米「和の一膳」を買い求めに来店していた客に話を聞いた。

「『和の一膳』という名前は和食っぽくていいんじゃないですかね。ただの『備蓄米』だとなんか美味しそうに感じないので」(近くに住む女性2人組)

「思ったよりちゃんとした名前だったので驚いています。ただの『政府備蓄米』とかかと思っていたので。あれだけ話題になっていたし、ほかのコメと比べたら圧倒的に安いので買ってみました」(隣県から来た男性)

 「面白い名前が多いですよね。美味しそうな印象を持ってもらえるように考えているのだと思いますが、『四季の彩り』はよくわかりませんでした。『田植えから収穫まで4ヶ月ほどなのに“四季”ってなんだよ』って(笑)。

でもほかのものは割とまともなんじゃないですかね? 『和の輝き』もちょっと変だなとは思いますけど、炊いたコメが輝いてるという意味ならいいことだと思うし」(50代男性)

備蓄米の商品名に好印象を抱く声が複数あった一方、「コメの品種の名前がないのは寂しい」「安っぽく見える」といった声もあがった。

「『コシヒカリ』とか『ゆめぴりか』みたいなコメの品種の名前がないのは少し寂しいですね。古古米とはいえ、せっかく値段も安くなりましたし、食べてみようとは思います。

でも正直、味にはあまり期待していませんが…」(周辺に住む30代女性)

「『備蓄米』というのを前面に出すと話題作りのような気がしますね。『これが噂のものですよ!』みたいな感じで。でも逆にちゃんと商品名を付けているものは、それはそれで備蓄米であることを隠しているみたいな印象です」(50代夫婦)

「逆にこれでブランド米が本当にブランドになっちゃった感じですよね。『魚沼産コシヒカリ』なんてルイ・ヴィトンみたいなものじゃないですか(笑)? だからほかの備蓄米の名前は少し安っぽく見えますね。年数が経っているコメとはいえ、なんとか美味しそうに見えるようにという企業の努力が見えますから、あまり悪くは言えませんけどね」(60代男性)

「単一原料の国産ブランド米にしか商品名に『コシヒカリ』などは入れられない決まり」 

備蓄米の商品名をめぐって消費者からさまざまな声があがる一方、米店の店主はどのように見ているのだろうか?

60年営んでいるという米店の店主は次のように話した。

「備蓄米の名前は、そのように名付けるしかないのだと思います。単一原料の国産ブランド米にしか、商品名に『コシヒカリ』や『ひとめぼれ』などの品種名は入れられない決まりなんですよ。品薄だからとはいえ、ただでさえ年数が経ったコメを売るためには、お客さんに手に取ってもらえるように、美味しそうな名前を付けることも重要な要素なんでしょう。だからそれに対しては努力しているんだなと思うくらいです」

このように話したうえで、「町の米屋は国産ブランド米を仕入れているところが多い」と実態を明かした。

「備蓄米は我々のような小さな米屋には来ませんよ。同業者もあまり手を出さないほうがいいと言っています。返品もできないし、売れ残ったらただでさえ年数が経ったコメがさらに悪くなってしまうので。町の米屋は値段ギリギリで、国産ブランド米をなんとか買っていただけるくらいの量を仕入れているところが多いですよ」

また、73年続くという米店の2代目店主は、1回目の備蓄米は早々に完売したと話した。

「1回目の備蓄米は来たよ。5kgで税込3700円。20袋入ったけど1週間も経たずに売れたと思うよ。令和6年産の国産ブレンド米で評判も良かったね」

さらに、今回売り渡される備蓄米については「いらない」と一蹴した。

「今出回ってる備蓄米は正直いらないね。どれだけ綺麗な倉庫で保存しているか知らないけど、古米でさえニオイが出るもん。うちのお客さんはブランド米を買われる方ばかりだから、今度出る“古古古米”に関しては、くれるって言われてもいらないよ(笑)。備蓄米には『何年産』の表記がないのも変だと思うよ」

「既存商品のパッケージをそのまま使用」「できる限り早期にお客様にお届けしたい」 

そもそも、「コメ騒動」の中で店頭に並び始めた備蓄米の商品名には、どんな背景があるのだろうか? 取材班は各小売店に取材を試みた。

「和の輝き」を販売するアイリスオーヤマの担当者は次のように話した。

「『和の輝き』自体は備蓄米用に新しく付けた名前ではなく、2015年に販売を開始した国産10割のブレンド米の商品で、今回はそのパッケージを使用しました。商品名の由来としては、国産ブレンド米というところが『和』、おいしさを『輝き』として表現しています。

随意契約に関する説明会に当社も参加させていただきましたが、参加社から『パッケージを作るのに数ヶ月かかってしまうのがネック』という声が聞かれました。

6月上旬に販売したいという政府の意向もございましたので、まずはスピードを重視したという経緯があります。

既存のパッケージを使ってはいますが、混同しないように、今回の備蓄米に関しては『政府備蓄米』と書かれたシールを貼っています」

このように、10年前にすでに販売を開始していた商品のパッケージをそのまま使用したという、意外な経緯を明かしてくれた。

備蓄米の放出後、比較的早い段階から店頭に並んでいた「わが家のお米 楽しい食卓」を販売する木徳神糧の担当者にも話を聞くと、30年前にはすでに販売が開始されていたと話した。

「こちらの商品は今から30年前に、手に取りやすい価格帯のブレンド米商品として、『日々の食卓に笑顔があふれるように』という思いを込めて開発されました。備蓄米を少しでも早く消費者の方にお届けしようという中で、新たにコメ袋を準備するとなると、納品までにかなり時間がかかってしまうため、既存の(デザイン)データを使わせていただきました」

6月1日に備蓄米の販売を始めたイオンは「国産備蓄米」というシンプルなパッケージを採用した。イオンの場合も、やはり「早く商品を届ける」ことを最優先したという。担当者は次のように話した。

「できる限り早期にお客様にお届けするために、あのような形で販売していますが、今後パッケージを新たにして販売する可能性もあります。ですがまずは、できる限り早期にお客様にお届けするという形で対応しております。お困りごとがあるのを解決していくというのがとても大事だと考えています」

 取材を通して見えてきたのは、ブレンド米は意外にも以前から商品として存在していたという事実と、各小売業者の「消費者に一刻も早くコメを届けたい」という思いだった。こうした努力が実を結び、一日も早くコメの安定供給が実現する日が来ることを願うばかりだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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